彼女なんて,俺聞いてないよ?!


「及川ー、バレー部の松川きてるよ」

「はいはーい、ありがとう」

昼休み。いつも通りクラスの奴らと昼食をとっていると、ドア付近のクラスメイトに名前を呼ばれる。

「どうしたのまっつん、珍しく及川さんのことご指名しちゃって」

「いや、別に及川のことは呼んでない」

「何その言い方!!」

わざわざ牛乳パンを食べる手を止めてドアの近くにいるまっつんのところまできたのに、この言い方はないんじゃない?!

「勝手にクラスの奴らが呼んでくれたんだろ、一応バレー部の主将だし」

「一応っていうかしっかりやってるんですけどね」

そんな会話をしているとふとまっつんの手元に目がいく。

コンビニの袋の中に……チョココロネ?あとよくわかんないサラダ。

「で?俺じゃなくて誰を呼びにきたの?」

問いかけると、まっつんは頭をぽりぽりとかき気まずそうな顔。
何さ、俺に言えないことでもあるわけ?!

「いや、そのー、……みょうじなまえ、いるか?」

……え?今なんて?

まっつんの口から出た名前は、珍しく女の子の名前だった。
その本人を探すべく教室内を見渡すが、見つけられず。

「んー今いないみたい。ってか何?どういう関係?そもそもまっつんとみょうじちゃんが何で知り合いなの?」

みょうじちゃんと言えば、いわゆるうちのクラスの花だ。
見た目も可愛いと綺麗をちょうどよく備え持ち、性格は明るくて誰にでも優しく接する。だからと言って変に媚びるようなものでもなく、適度にサバサバしていて、ついこの間も他クラスの人に告白されたとかなんとか。

まあ及川さんには劣るけど、かなりのモテっぷりらしい。

俺の問いに対してまっつんは、こうなるから嫌だったんだよなぁ……、と呟く。

「ちょっとまっつん!俺に隠し事とか百年早いんだからね!!」

「とりあえずこれ、なまえの机に置いといてよ」

だからまっつんはみょうじちゃんの何なの?!何で食べ物が入ったコンビニの袋をまっつんがみょうじちゃんに渡すの?!ってか今名前呼び捨てにしてたよね?!

「ちょ、まっつ――、」

「あ、いっせーじゃん」

何が何でも詳しく聞いてやろうとする時、ちょうどそのみょうじちゃんが教室に戻ってくる。

え、なんなの、みょうじちゃんまでまっつんのこと名前呼びなの?ちょっとまって及川さんパニックなんですけど!!

俺の頭の中での大パニックなんてつゆ知らず、みょうじちゃんは、どうしたのー、とかなり親しそうにまっつんに話しかけている。

「どうしたのー、じゃなくて、これ」

まっつんもまっつんで、若干呆れている雰囲気を出しつつもかなり優しい口調でみょうじちゃんにコンビニの袋を差し出していた。

「わざわざ持ってきてくれたの?!購買で買うから食べていいよってLINEしたのに」

LINE?まっつんとみょうじちゃんってLINE交換してる仲なの?へえ?俺はクラスのグループにいるだけでまだ登録してないのに?ねえ?

「余計な金使わせるわけにはいけないでしょうよ、次の休みの日また金ないとか言って俺のうち来る気?」

休みの日?また?俺のうち?ちょっとまってやっぱり君たちどういうカンケイ??

「部活前とかに食べてって意味だもん、ちょうど購買で買ってきちゃった〜もう遅い〜」

「はぁ、まあ、ちゃんと食べるならいいけど。たまにはおでかけとかしたいんだけど」

おでかけってなに?まっつんの口からそんな単語でるんだ?休日休みの日いつもまっつん俺の誘い断ってるのと関係ある?

「えー周りの目気にせずなまえといちゃいちゃできるからーって家でゴロゴロし出すの一静じゃん」

「外でくっつこうとすると恥ずかしいからやめてってなまえが言うからね」

「えっと、そろそろ及川さんも話に入れてもらえる?とりあえず二人は名前で呼びあってLINEも知ってて休みの日はお互いの家に行ったりしていちゃいちゃしちゃうカンケイってことでいいかな?もしそのカンケイに肩書きをつけるとしたらカレシカノジョってことになるけど異論はない?」

一気にまくし立てた俺に二人は目をパチクリさせるが、いや、それ、目をパチクリさせたいのは俺の方だから。

そして口を揃えて言うもんだから困っちゃうよね。

「「え、まあ、うん」」

「ちょっと聞いてないんですけどー?!いつから?!どっちから?!みょうじちゃんなんで俺じゃなくてまっつんなの?!」

「だから、これがだるいから言ってないんだよ。最後の意味わかんないし」

だってそりゃあね?!彼女がいるならまず部長の俺に報告でしょ?!そもそも付き合う前に俺に相談するとか連絡するとかあるでしょ?!ほう!れん!そう!これ基本!!

「及川くん知らなかったんだー、2年の夏くらいからだよ」

2年の夏……。今思えば、確かにあの頃からまっつんは俺が遊ぼうって言っても何かと理由をつけて断っていた気がする。

「そ。で、今日の朝一緒に来たんだけど、昼飯持たされてたの。そのままお互いの教室行っちゃったから届けにきたわけ」

みょうじちゃんとまっつんは淡々と説明してくれるけど、何、本当、どういう反応すればいいの。

「ねー、ありがとうございます。でも聞いてよ及川くん、わざわざいいよーって言っても届けにきてくれんの。過保護すぎ!」

「も、もういいよみょうじちゃん……ごちそうさま……」

「あーこいつ彼女にふられてこういう話多分今アレルギー反応でるっぽいわ。じゃ教室戻るね」

そのまままっつんは教室に戻っていくので、俺たちも席へと戻ろうとする。

「一静、及川くんには言ってないって言ってたけど、本当に言ってなかったんだね」

「にはって何?!」

みょうじちゃんはサラッと、花巻くんと岩泉くんには紹介済みだよーなんて言ってる。

岩ちゃんもマッキーも、絶対俺だけ知らないって知ってたな!

「まあそいうことだから、これからも一静をよろしくね〜」

右手にまっつんに渡されたコンビニの袋、左手に購買で買ったであろうビッグクリームパンを持って、みょうじちゃんは俺とは結構離れた自分の席へと戻っていく。


こんなに可愛い彼女いたとか、まっつん本当に許せないんですけど!!

mokuji