冷静さを欠いた赤葦くん


「赤葦!!」

「…………」

部活終わり、今日も今日とて俺は木兎さんの自主練に付き合っていた。それ故、時刻は既に8時近くなっていた。

「え、っと……、今日一緒に帰る話だったっけ……?」

木兎さんのしょぼくれモードを出すことなく無事に自主練を終え、さあ帰ろうかと校門を出ようとした。

すると校門の心許ない明るさしかない街灯の下には、2週間前から付き合っている同じクラスのみょうじがいた。

「んーん、いつも帰ってる友達が今日風邪で早退しちゃって。だったら赤葦と帰りたいな〜って思って!!」

「…………」

へらりと笑いながら、迷惑だった?と尋ねてくるみょうじは、この上なく可愛い。

「あーかーあーしー?」

「……え、いや、ごめん。全然大丈夫。ありがとう。あ、えーっと、待たせてごめん」

「私が勝手に待ったんだもん、謝らないでよ」

じゃあ帰ろうかという時に、俺のすぐ後ろでソワソワとどうにかして空気を読もうとしている人物の存在を思い出した。

「あの、木兎さん。すみません、そういうことなんで今日は……、」

「ヘイヘイヘーイ!!後輩の青春を邪魔するわけねえだろ!!」

余計なことを言わないかとハラハラしていたが、その心配はないようだ。

「しかし赤葦に彼女がいたとはな!!しかもお前、彼女と話す時いつもよりオドオドしてるぞ?!照れてんのか?!」

前言撤回。余計なこと言いやがった。少し申し訳ない気持ちは切り捨ててとっとと帰ろう。



一緒に帰るといってもみょうじと俺は真反対の方向に家があるので、駅までの15分程度を二人並んで歩くだけだった。

「あれが赤葦のいつも言ってた先輩?」

「ああ、まあ、うん……」

あの先輩、オドオドしてるとか言いやがって……。我ながら自分の尊敬する先輩に対してのセリフではないと思うが、あのタイミングであんなことを言う木兎さんが悪いのだ。

「赤葦、私といるとオドオドしてるんだ?」

みょうじはふふっと笑いながら俺を見上げる。いつもの優しい笑みとは違う、時折見せる何か含みのあるような笑みだ。

「いや、そんなことはないと思う、けど……」

そんなわけがない。現に今だってテンパっているではないか。

俺がみょうじのことを気になりだしたのは二年生になってから。
実際には同じクラスになった一年生の頃から仲良くしていて、その時から好きだったんだと思う。ただ、ちゃんとこの感情が“好き”という感情だということに気づいたのが二年の始まりだった。

「ん〜、まあ確かに付き合うちょっと前から雰囲気変わったかな?って思うけど」

またもや含みのある笑みのみょうじの意見はごもっともだ。

俺はみょうじのことが好きなんだ、と気づいてからは今まで通りに話すなんて無理だった。バレーでの冷静さは自負しているが、恋愛においては冷静さのかけらもなかったのだ。

「…………」

もはや俺に返す言葉はない。それこそ付き合う前は話が途切れたりすることがなかったのに、最近はみょうじに負かされて何も言えなくなることが多い。

……まあ別に、嫌じゃないというか、居心地はいいような気がする。

って俺はなんなんだ。まるでみょうじに言い負かされて喜んでるドMみたいだろ。

「顔赤いよ〜」

「っ、練習終わりだからだよ、」

我ながら下手な言い訳だと思う。どうやらみょうじの前だと俺の思考速度はいつもより大幅に下がるみたいだ。

「まあ赤葦のそんなところも好きなんだけどね、じゃあ私あっちのホームだから。また明日ね〜」

…………。

ほら、またこういうことを言うからオドオドしてるって言われるような行動を取っちゃうんだろ。


***
リクエストでいただいた『彼女を相手にするとテンパってちょっとお馬鹿っぽくなる赤葦』です。

馬鹿というかヘタレというか……。なんかよくわからないし短いですすみません。ですが赤葦への愛は確かです。

リクエストありがとうございました!



mokuji