03
やっと外に出て視界が開ける。
え、もしかして一次試験終わり?ちょろすぎ〜。
……なわけがなかった。謎の猿人間は出てくるわ、霧は濃いわ、いよいよ私の忍耐力が揺らいでくる。
あーあ、こんなんだったら試験の前にフェイタンに会っておけばよかった。むしろ今からでも抜け出してフェイに会いに行きたい。
ひたすら霧の中を走り続ける。
たまにわけのわからん動物?が出てくるので、そいつらを倒さなければ進めない。そいつらがまた弱いくせに何匹も何匹も出てくるもんだから、逆に面倒だ。だったら強いの一匹でて来てくれた方がよっぽど楽なんだけど。
「だるすぎ……」
すると私のこの倦怠感を正すかのようにナイスなタイミングで殺意と針が飛んでくる。
私の周りの人間は、どうしてこうも本気で人を殺しにかかるのか。
「イルミさんいるんだったら出て来てください」
「……ばれた?」
そりゃあね!!こんなにギリギリまで殺意を隠して凶器を飛ばせる人は限られてくるよね!!飛んでくるのはだいたいトランプか針だよね!!
心の中でつっこみながら霧から出てくる人影を確認すると、いつもとは大幅にイメージチェンジをしたイルミさん、と思しき人物。
……なるほど。きっとこれはキルアくんにばれないためだというのは安易に想像できる。しかしさすがにこの見た目はどうかと思う。元は美形なのにもったいない。カタカタいってるし。ほー、こんな能力もあるのか。整形いらないじゃん。
「この針お返ししますね」
彼のビフォーアフターに感慨しつつも、先ほど飛んで来た針を差し出す。もちろん嫌味を込めて。
「キャッチしたんだ、さすがだね」
「まだ死にたくないんで」
「なまえがやる気なさそうにしてるから」
まあそれで死んじゃったら死んじゃったで俺一人でキルを見張っとけばいいことだけど、と、サラッと残酷なことを言う。やだわぁ、物騒だわぁ。
勘違いしないでいただきたいことが一つ。私は誰でもすぐに殺そうとはしないし、快楽殺人主義者でもない。
ただ幻影旅団の一員として、仕事の一環として、必要であれば殺す。
イルミさんのように簡単に人を殺そうとはしない。どこかの誰かみたいに強い奴と戦って勝つ(と、書いて“殺す”と読む)ことが好きなわけでもない。ましてや拷問などという悪趣味もない。しかし拷問してる最中のフェイの表情がかっこいいことは否めない。
「で、キルの様子はどう?」
「うーん、どうって言われても」
霧の中なので方向ははっきりとわからないが、一応二人で前に進んでいるとイルミさんから質問がとんできた。
しかし私はまだそんなにキルアくんとは関わっていない。そんなにというより全く関わっていない。さっき私の横を通り過ぎたくらいで、直接の接点は未だない。
と、そこで一つのことを思い出す。
「あ、ゴンくんっていうトンガリ頭と行動してるみたいでしたよ。仲よさそうに。友達かなぁ」
「……へえ」
せっかく私が情報提供してやったのにこの反応。カタカタカタカタ言いやがって。
少し考え込んだあと、イルミさんが口を開く。
「友達、か……」
と、言ってイルミさんは霧の中へと姿を消した。礼もなしかよこの野郎。
友達っていう言葉にすごく顔をしかめてたけど、お兄ちゃんとして何がそんなに嫌なのか。嫉妬?可愛い弟は渡せませんって?
……うん、あの家は色々特別そうだから気にしても仕方がないだろう。
流星街で育った私からしたら、どんなに複雑な関係でも家族がいるだけで羨ましいと思うのが本心だったりする。
団長がお父さんで、パクがお母さん。フィンクスは反抗期のお兄ちゃんっぽいな。眉毛ないし。
謎の家族構成を考えながら、まだまだ続く霧の中を進んでいった。
この面倒な試験が終わったら思いっきり羽を伸ばそう。
mokuji