02
『ステーキ定食、じっくり弱火で』
シャルからのメールの画面を何度も見直す。
本当にこんな言葉で試験うけられるのかな。
心配しつつもシャルの情報は正確であるはずなので、信じて一軒の店に入る、
「いらっしゃい!ご注文は?」
「ステーキ定食、じっくり弱火で」
それから案内されるがままに進むと、プレートを渡された。399番だ。
いや、本当にあんなセリフで試験うけられるなんて。
既に多くの受験者が揃っているらしく、イルミさんを探すべく辺りを見回す。するとそこには予想もしない人物。
「ヒ、ヒソカ……」
見つかったらやばいと思いすぐさまヒソカの目に入らない所へ移動した。
本当最悪。何でいるんだよ。ふざけるなよ。あの人苦手なんだよ。
壁にもたれてボーッと目を閉じて座っていると、急に殺意を感じた。
「……性格悪っ」
勢い良く飛んできて壁に突き刺さる一枚のトランプを見つめ、呟く。
目を開けるとトランプが飛んできていたので、ほとんど反射神経で首を傾けた。
もちろん相手はわかっている。飛んできた方向を見ると、数メートル先で腕がない男が何やら叫んでいる。
きっとあいつの腕を切るついでに一枚私の元へトランプを飛ばしたのだろう。
ああ本当最悪。私がいることバレたくなかったのに。
「人にぶつかったら謝らなきゃ」
そう男に言い放つヒソカさんは、まるで知り合いがいたら挨拶しなきゃ、とでも言って挑発ように私の方をチラリと見る。
「さっさと誰かに殺されちまえ」
私はその挑発にのるかのように、壁に刺さったトランプを引っこ抜き、ボッと火をあげ灰にしてやる。
それから数分、ずっとイライラはおさまらないままでいた。当たり前だ。普段から苦手として忌み嫌う人物に殺されかけたんだから。
「やあ、お嬢さん」
なんかよく知らない人に話しかけられたけど無視無視。ハンター試験で知らない人に話しかけられたら、殺さず無視しろってシャルナークに言われている。
「無視しないでくれよ!俺はトンパ。お近づきの印にこれ飲んでくれよ!」
無理やり手渡されたジュース。どう考えても怪しいだろお前。
どうも、と一言だけ言い別の場所に移動した。誰も私に話しかけてくるな構うなあっち行け。
イライラを抑えるために少し寝ようとしたが、手の中のジュースを見つめる。どうしようか、これ。適当にこの辺ポイしちゃおうかな。
「おねーさん、そのジュース、飲まない方がいいよ!」
手の中のジュースとにらめっこしていると、いきなり話しかけて来たのはトンガリ頭の坊や。
「……そうなんだ」
「腐ってたもん」
「そっか、ありがとう」
もともと飲む気なんてないけどな。
俺はゴン!ゴン=フリークス!と勝手に自己紹介を始める男の子。何この状況。
「すまない、連れが急に話しかけたりして。私はクラピカだ」
「俺はレオリオだ!いや〜それにしても女の子1人ハンター試験受けるなんて大丈夫かぁ?!」
だから何この状況。私は人脈を広げに試験受けに来たんじゃないんだよ。
というかこのレオリオって奴スーパー失礼だな。男女差別いけません。そもそも私はお前らなんて能力使わなくったって倒せるわ。心配される程やわじゃないわ。
ヒソカのあの行動のせいでイライラしていたしていた私は、この人たちに八つ当たりしそうになる気持ちを必死で抑えていた。
「おねーさんは?」
「え?」
「おねーさんの名前!!」
「あ、私は……、なまえ」
一瞬、ここで名前を言ったら仕事の関係でまずいかと思ったが、こいつらは私の仕事とは無縁そうだったので、普通に答えた。
変に隠しても逆に怪しいし。
「なまえさんっていうんだ!じゃ試験頑張ろうね。寝ようとしてたところごめんね!」
バイバーイと手を振って向こうへ行くトンガリ頭ご一行様。
まって、あの子、ゴンくん?だっけ、私が寝ようとして少し気を緩めたのを感じとってた?
こっわ、野生児かよ。面白い子もいるもんだなあ、と思いながら、私はそっと目を閉じた。
*
どうやら一次試験が始まったらしい。体力には自信はあるが、面倒くさがりの私はこの試験に耐えられるだろうか。
少し小走りになった時に考える。
そういえば、肝心のキルアくんはどこにいるんだろう。
っていうか監視って何?少し近くで見ていればいいの?それとも仲良くなれとかまで求められてるの?
思い返せば返すほどめちゃくちゃなイルミさんの要求である。
そんなことを思っていると、元気な男の子二人が私の横を抜かしていった。
「……あ」
思わず声を出してしまう。一人はさっきのゴンくん。そしてもう一人、絶対あの子がキルアくんだ。間違いない。
どうすっかな。追いかけるのも面倒だし。とりあえず目で追えるだけ追っておこう。
一応さっきゴンくんたちとは知り合い程度の関係になっていたようなので(半ば無理やりだったけど)、ゴンくんがキルアくんと一緒に行動するのであれば都合がいい。
「やぁ」
なんか話しかけられてるけど無視だよ私。気にするな。走ることに集中しろ。
「怒ってる?さっきはごめんネ、わざとじゃないんだからさ」
あれのどこがわざとじゃないんだよむしろわざと殺意放ってただろ。
ギロリと話しかけて来た張本人、ヒソカの方を見る。
私に構うな私に構うな私に構うな。
「本当、つれないなぁ」
私の怒りのオーラを感じ取ったらしいヒソカは、他の受験者の中に紛れていった。
何で団長はこんな奴を旅団に入れたんだろう。本当は今すぐにこいつを殺してやりたいけど、一応団員同士なのでそれは不可能。
苦手なんだよこういう奴。関わりたくないんだよ。
「早く終われ……」
果たして、こんなにやる気のない受験者がいてもいいのか。
mokuji