01
「えっ、面倒くさ!!絶対やだ!!」
「は?そんなの関係ないし、俺だって忙しいのに助けてあげたんだけど」
電話越しでもわかるほどのドス黒いオーラを漂わせているであろうイルミさん。私に拒否権はないのか。
ここで断って無事にこの世に居られる自信はない。自分の腕にもそれなりの自信はあるが、そういう問題ではない。この人の人柄が、性格が、私に拒否権を与えてくれない。
事の発端は1週間前。
“仕事”が重なり、一件他に頼まなければないないことになった。断ってよもよかったのだが、以前依頼を受けたことがあり、報酬もなかなかいいのだ。知り合いに頼んで報酬の一部を渡したとしても、こちらにはなかなかの額が残るほどだ。そして何より、依頼主にはいろいろお世話になっているところがある。
色々考えた結果、一番信頼のおけるイルミさんにお願いした。もちろん、ここでの信頼は仕事をしっかりこなすって意味で、人格的には何一つ信用していない。
このような場面は何度か経験しているが、大体は忙しい、とかそんな理由で断るイルミさんに、私がしつこくお願いするのだ。
大体は桁違いの報酬を要求されるが、他に頼むのもまたそれはそれで面倒なのでイルミさんに頼んでしまう。
しかし今回は違った。意外とあっさり快諾してくれた上に、報酬も4割でいいとか言い始めた。
今思えば、ここでおかしいと気付くべきだったのだ。
「何で私がハンター試験受けなきゃいけないんですか」
そう、何故かイルミさんは、『その代わり次のハンター試験を受けろ』と言ってきたのだ。
「キルの見張り」
「だからイルミさんがいくんでしょ?!」
「俺だと近づきづらい所あるし。なまえなら怪しまれない」
いやなんで私がお前の弟を監視するんだよ。これだからブラコンは困る。まあイルミさんの場合ブラコンとかいう可愛い言葉じゃ済まされないけど。
「何で私がそんか面倒なこと……」
そもそもハンター試験を受けて何になるのか、受かって何か得なことはあるのだろうか。
……あ、前にハンターライセンス取っとけば便利だとか言ってる奴いたな。
そんなことを考えながらある1人の仲間のことを思い出していた。
「じゃ、そういうことだから」
「ちょっ、えっ」
――ツッーツッー
「面倒くさ……」
一方的に切られた電話の画面をぼんやりと見つめ、冒頭と同じ言葉をポツリと呟くしかなかった。
*
「なまえ、久しぶり」
あれから数週間。依頼されていた全ての仕事をできる限りの短期間で終わらせ、ハンター試験をよく知る仲間に連絡を取った。
「シャル!ごめんねここまできてもらっちゃって」
こなれた市場の一角にあるカフェの席に座っていると、久しく会っていなかった人物がやってきた。
ハンター試験についてよく知る奴とはもちろんシャルナークのこと。
試験を受けたい、と連絡をしたところどうせなら久々に会って話をしようということで、私がここ最近入り浸っているマサラシティまで来てもらったのだ。
「俺も近くの町にいたし大丈夫。それよりハンター試験受けるんだ?」
「まあいろいろあってさ、」
私はこれまでの経緯を話す。
「へえ……。それでその腕の傷?」
ハハッと小馬鹿にしたように笑うシャルが指差すのは、私の右二の腕の包帯。
これはこの前の仕事の時にできたものだ。
できる限り短時間で仕事を終わらせた、ということはそれなりに疎かになっていることでもあるわけで。
だって、殺す相手の家がトラップハウスになってるなんて誰が想像するよ!!さすがに警戒しなさすぎて飛んできた矢がぶっささった。
トラップハウスにするほど自分が恨まれている自覚あるなら、もっと強い念能力者を雇った方が良かったと思うけど。
ちなみに、とてもむかついたのでターゲットを殺した後そのまま去る予定を変え、家ごと盛大に燃やしてやった。ざまあみろトラップハウスめ。
「乙女の腕に傷付けやがって……!!」
「まあまあ、フェイタンに会う予定はないんだろ?」
「そういう問題じゃない!!」
はいじゃあ本題に戻るよというシャルをジト目で見る。絶対こいつ、私がまたアホみたいな理由で怪我したことをフィンクスとかに言う。そして次集まった時それをみんなして馬鹿にするんだ。
「――って感じ。俺が応募しておくから、なまえは指定した日と場所にいけばオーケー」
「うーん、ありがとう」
「どうしたの?何か不安なことある?」
不安なことというか。思っていたものと違ったというのが感想。
「なんかこう、その場の人たちで殺し合いとかするのかと思ってた」
「ぶっ、何それ。まあそれならなまえが圧倒じゃない?本当、そのオーラの量どこから出てくんのっていつも思うよ」
シャルによると、ただ強ければいいというわけではなく頭も多少使うらしい。最終的には直接受験者と戦ったりもするみたいだけど。
私シャルみたいに頭使えるかな……。
別にハンターになりたいってわけじゃないけど、落ちたらその場で失格なわけで。キルアくんの監視を任されている身としてはそんなの許されるわけない。
「じゃあまた連絡するから、怪我治して少しトレーニングでもしておいたら?」
まあなまえには必要ないかと笑い、シャルはこれから用があるというので、私がお礼をいうとカフェを出て言った
むしろ連日の仕事によって疲れがたまっているから、トレーニングというよりゆっくり休もう。
そんなことを考えながら、私もカフェを後にした。
mokuji