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そろそろこの場所から出て行くから、お前もささと次の場所見つけて仕事するね。

そんなお言葉をフェイタンからいただいたのはつい先日のこと。
かといって、すぐに次住むあてが見つかるはずもなく、未だにフェイに居候させてもらっている。


とくにやりたいこともないんだよなぁ。

しかし今現在、絶望的にお金がないことも確かである。次に住むあてが見つからない理由の一つだ。
ここ最近の仕事を紹介すると(といっても気分が乗らなくて実際はシャルのあれから一件しか仕事してない)、ある富豪の一日護衛というものだった。これは一回でかなりの額をもらえた。

……はずだった。

『それで俺に連絡するわけ?』

「イルミさん……仕事をください……」

『別に今困ってないし、なまえに譲る仕事はないけど』

「鬼!!元はと言えばこうなったのイルミさんのせいなのに!!」

どうしてこの人は都合のいい時だけ私に仕事を押し付けてきて、本当に助けてほしい時に仕事をくれないんだろう。

『お前の依頼主が俺のターゲットだった、ってことに対して責任はないから』

さて、先ほどの話の続きをしようと思う、が、みなさま大体察しがついているでしょう。

イルミさんの言う通り、私の依頼主の富豪はゾル家の仕事のターゲットだったのだ。
まったくお前は何をしたんだよ言いたい。暗殺されるようなことをするなよ。だから護衛を頼んだんだろうけど。

「殺したのは私なんだから分け前くれてもいいじゃないですか」

『協力しろなんて言った?別になまえがあの富豪を全力守るなら守ればよかったわけだし』

そしたら俺も全力で、ターゲットも仕事の邪魔する奴も殺したけど。
なんていつもの声色でケロッと言うもんだから暗殺一家の長男はやっぱり恐ろしい。

私だって馬鹿じゃないし、こういう世界ではそこそこ名の知れた“何でも屋”としてやっている。護衛をしている時に殺意を感じ取ったからといって依頼主をぶっ殺しますなんて、そんなことはしない。

「……殺意を極限まで隠しつつも本気で殺しにかかってる針のお気遣いどうもありがとうございました」

思い出すだけで鳥肌がたつ。いきなり私に本気で針を投げてきたイルミさんは情というものがないのだろうか。

『それこっちのターゲットだけど、自分の仕事続けるか俺にターゲットよこすか決めなよ、っていう猶予をあげた俺って優しいでしょ?』

「イルミさんの優しさはなんか違うと思う」

何が優しさだ。優しさもクソもない。
じゃあ最初から私の依頼主、いわゆるイルミさんのターゲットを狙って針でもなんでもぶっ放せばいいじゃないか。私に向けて針をぶっ放さなくてもいいじゃないか。

『それキルにも言われた』

「でしょうね」

そりゃあ言われるだろうよ、キルアくんが正しいだろうよ。

と思う反面、同じく殺しをする人間だから護衛をまず狙う気持ちはわかる。

どれだけ殺気を殺してもターゲットを殺そうと行動を起こした時点でこちらの存在はバレるわけだし、そこそこ手慣れた護衛ならターゲットを守りその後一戦交えることになる。
ターゲットが仮に一発で死んだとしてもその後高確率で護衛と一戦交えることになる。

そう考えると先に護衛の方を倒すのが何だかんだ一番楽かもしれない。何せ、大抵の場合護衛がいなくなったターゲットはどうにもならない。

『俺の愛情が足りないのかなぁ』

「いや逆ですよ、逆逆」

本当にこの人は捻くれている。私の周りの人間は考え方がおかしい人が多いけど、ランキングに表すならイルミさんはなかなかの上位だ。

そんな変人ランキングに堂々とランクインするイルミさんに私は本気で殺されかけたわけだ。その瞬間わかった、ああ私の依頼主ってイルミさんのターゲットだって。
そしたら自然と体が動いて、わぁびっくり。依頼主を火だるまにしていたのがそうです私です。

『まあいいや、俺はキルを取り返すのに苦労してんだよね』

「あーそうですか」

金もくれない仕事もくれない、そんな変人ブラコンの話なんてどうでもいい。どうせ結局キルアくんはゴンくんたちに連れられてイルミさんの元を離れたんだろう。

『本当、お前がちゃんとハンター試験で見張りしてくれればこうならなかったんだから』

「じゃあ仕事ください」

『自分の尻拭いは自分でしないよ。ま、なまえならすぐ評判元に戻ると思うし』

じゃあ俺忙しいから、と言って電話を切られた。なんだよ、忙しいなら仕事くれよ。

こうして私は報酬ももらえず、“評判”というこういう仕事に付き物の問題に直面して今に至る。

さっきイルミさんが言ってたことは、実は仰る通りなのだ。
何でも屋や殺し屋、この類の仕事は評判が命。一度失敗するとすぐさまその話が流れてしまう。そりゃあ仕事が入ってこないわけだ。

とりあえず金にならなくてもいいから少しずつでも評判を取り戻そうと、ハンター専用サイトで仕事を探す(嫌々受けたくせに受かったら受かったで大いに活用している)。

「随分長電話だたね」

ソファの上で座りながら携帯を眺めていると、後ろからいきなりフェイタンが話しかけてきた。

「わ、フェイタン」

「何驚いてるか。そもそもここワタシのうちね」

いやまあそれは正論なんだけども。帰ってきたなら帰ってきたで普通に帰ってくればいいと思う。むしろ自分の家なんだからこそ気配を殺す必要がないと思う。

「絶使ってるんだもん、びっくりした」

「浮気現場に堂々と入れるわけないね」

「………浮気?」

浮気、とは。一体何の話だろうか。電話で仕事の話をイルミさんとしていただけだ。

「お前、ワタシでもなくて旅団でもない男と電話してたよ。それはもう浮気ね」

不機嫌そうな顔で言うフェイタン。なにこれ。デレ期なのかな。いやまってでもそもそも浮気は違うと思う。

「フェイ、浮気ってのはさ、付き合ってる人達の間で成立するものでしょ」

「そんなの関係ないね、とにかくなまえが男と話してたら浮気よ」

わけのわからないフェイタンの理論。今までだって仕事でもプライベートでも、普通に生きていれば男と接することなんで幾度となくあったのに、どうして今更そんなことを気にするんだろう。

……なんて、思ってるのは少しだけ。

今の私の気持ちのうち、ほとんどは素直に嬉しいという感情だ。

「ふふ、フェイが一番だよ」

当たり前ね、なんていつもより顔を服の下に隠しながら言うもんだから、思わず近づいてその布をどかし、唇と唇を一瞬触れさせる。

「……随分と大胆ね」

「誘ったのはフェイなようなもんじゃん」

男とは話したりするけど、でも、私がこんなことするのはフェイタンだけに決まっている。

mokuji