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「お前、いつまでここに居座る気か」

怪訝そうな表情で、フェイタンは私に聞く。

この辺の町から離れた仕事入ったらかなぁ、なんていう私の曖昧な言葉には返事をせず、チッと舌打ちをしてその場を離れてしまった。

シャルナークのヘルプの仕事から一週間。
フェイが無事に(ターゲットは無事じゃなかった)必要な情報とやらを聞き出し、それぞれ今現在拠点にしているところに戻っていった。

「どこいくの?」

「仕事よ。お前もささと仕事してここから離れるね」

「いってらっしゃーい」

私はというと、ハンター試験があったりで仕事の依頼をしばらく受けていなかったから、フェイタンにひっついてきたわけです。
今はこのジョウトタウンの建物の一部屋を借りて拠点を置いていて、一ヶ月くらいしたらまた場所を変えるらしい。

私としてはそれまでご一緒させてもらうつもりだ。せっかく仕事ない期間だからね、フェイと素敵な生活を送りたいからね。

ってことで、

「あ、もしもし、イルミさん?」

『すぐ連絡しろって言ったんだけど、遅い』

「どっちにしろ今仕事できないんで、ごめんなさい」

頼みたい仕事あるから連絡をよこせ、そんなイルミさんの依頼は断らせていただく。
なんてったってフェイと素敵な生活を以下略。

『は?できないって?他の依頼でもあるの?』

「違います、有給です、ゆーきゅー」

プツン

私のセリフに返事もせずいきなり電話を切られた。ひどい。どうやら仕事のできない女には興味がないらしい。あっても困るけど。





「うっ」

腹部に衝撃が走り思わず声が出た。重いまぶたを開けながら、あ、私いつの間にか仰向けでソファで寝てたんだと気付く。

「色気のない声ね」

「……お腹痛かったんだけど」

「隙を見せてるなまえが悪いね」

上半身を立ててみると、どうやら寝ている私の腹をフェイが蹴ったらしい。おお、ドメスティック・バイオレンス。

「フェイしかいないし、隙を見せるも何もないでしょ」

わざとらしくお腹をさすりながら言った。いやいや、この場で気を張り詰めてる方がおかしいと思う。私は仕事以外で気を張りたくないタイプだし。

「……………」

しかしフェイタンはそうは思ってないみたいで、無言で私を見ながら近づいてくる。

「ちょ、ま、何して、」

いきなり両手で二本の腕を頭上で固定され、そのまま馬乗りされる。え、なに、顔怒ってるし。

「ワタシの前で油断しても平気て、ただの思い込みだてことをわからせてやるね」

仕事中ならこうも簡単に誰かに抑えられつけることなんてないはずよ、と、言いながら手首をつかむ力を強めるフェイタン。

どこまで本気で、どこまで冗談なのか。男と女としてこの状況なのか、はたまた拷問好きとその獲物としてのこの状況なのか。

「……ご、ごめん」

仮にフェイが私のことを女として見て襲っている、としても、嬉しいと言えるような雰囲気ではないので素直に謝罪する。

「仕事してないとすぐ油断するクセ、よくないね」

しかしフェイは私の手首を解放してはくれず、グイ、とそのまま顔を近づけられる。

「な、」

「――ヒソカにもこういうこと、されたのか?」

ちょっと顔を持ち上げれば唇が触れ合う距離に、フェイタンの顔。その表情はさっきまでの怒りを含むような顔ではなく、切なげなもので。

「………え?」

一体なんの話だと言うように返す。どうしてここであんな変態ピエロの名前が出てくるのだろうか。

「ハンター試験の時、何も、なかたのか」

吐息がかかる、距離。ああ、きっとあの時の電話の時のことを心配してくれていたんだ。

「ワタシ以外の人が、なまえに触れるのは嫌ね」

そんな距離で、フェイタンにこんなこと言われたら、ねえ?


頭をほんのちょっと持ち上げて、唇と唇が触れ合う。

「――こんなことするの、フェイだけだよ」

「生意気な女ね」

「何とでも」

気付けば両手首も解放されていて、ふわりと優しい笑顔になったフェイタンの頬にもう一度キスをした。

mokuji