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「じゃ、なまえの準備ができたら一気に乗り込むから、あとは一人も逃さないようによろしくね」

全く人ごとのように言いやがるシャルナーク。みんなも、『まあなまえなら大丈夫でしょ』と言わんばかりの表情。お前らよく考えろ、この豪邸よく見ろ。縦横それぞれ30メートルはあるからな。


そしてなぜ私の能力が今回必要か、それは冒頭でシャルが言ったように、逃げ出したやつを逃さないため、だ。

基本的に私は戦闘時に能力を使うときは、オーラを炎に変え、その炎で覆った手や足で相手に直接的なダメージを与えるというやり方だ。

ちなみに私の炎はオーラでできてるから水がかかったから消えるとかそういう問題ではない。ただひたすらに燃料は私の“オーラ”。
今まで戦闘の時にきつくなったりしても燃料切れとか起きたことはないから、自分でも扱えるオーラの量の多さは自慢だったりする。


が、しかし。

「本当に“これ”疲れるんだからね」

「いつも相手にイラついた時はそこら中に火の玉みたいなの飛ばして焼け野原にしてるじゃねえかよ」

少し相手と距離を取りたい時とか、まあ色んな事情でそのオーラで作った炎を体から切り離し相手めがけてぶっ放すこともあるので、フィンクスの言うことも一理ある。

けどやっぱり放出系ではない分自分の体から離れた炎を操作しようとすると神経すり減るし、イラついてる時はそれなりに気持ちも入ってるとかなんかいけるだけ。病は気からみたいなそういう何かと同じようなもんだと思う。

「無理しない程度に頑張ってよ」

「マチ……ありがとう……」

まあその炎を体から引き離すことを応用したのが、“炎上網 ーフレイムプリゾンー”であり、今回私が必要とされている理由。

簡単に言えば自分の周りに炎を円形状に発生させて、その中にいる奴らは逃げられないもしくは火達磨の状況にするもの。
円の役割も果たすから、誰かが火の中に突っ込んだりしたらわかる。

仮に私のあの能力を使う範囲が半径5メートルならまだなんとかなった。っていうかそこまでしか広げたことないし。
もともとこれは仕事柄一人で数人を相手することも多いし、その相手を逃さないようにする時に便利だと思った結果の技だ。


……なのに。

「どう考えてもつらいでしょこれは……」

独り言のようにポツリと呟く。いやだって、ねえ、半径5メートルどころか15メートルくらいになりそうなんだけど。


「じゃあ、あとあと面倒だから関係ない奴なるべく殺すこと。ターゲットの3人は意識が保たれてるならなんでもいいよ」

「わかったよ」

「おう」

「わかたね」

「………」

完全に集中モードに入ってる私は返事なんてしてる場合じゃない。ハンター試験も思ったよりゆるゆるだったし、久々にこんな頑張るかも。

私が準備できたことを目で知らせると、4人は屋敷の中に入っていった。


間も無く屋敷からは悲鳴や叫び声が聞こえてきた。予想していた通りなかなかの腕利きのボディーガードを雇っていた人もいるようで、銃声やらなんやら結構すごい音が聞こえてきた。

私は一番全体を見下ろせる屋敷の屋根の上にいる。

窓が勢いよく割れた音がしてそこを見てみると、1人目の脱走者だ。

「――フレイムプリゾン」

それと同時に屋敷全体を高さ3メートルほどの円形状の炎で覆う。
おーおー、焦ってる焦ってる。

って、よく見たらあの顔、さっきシャルナークが見せてくれたターゲットの写真と同じじゃない?

気絶させるくらいしておこうかと思ったけど、あいにく今は炎上網を維持させることに精一杯なためシャルに連絡する。
ターゲットと思しきおじさん外にいるよ、と。





「じゃあフェイタン、あとはよろしく」

「任せるね」

「可哀想だよなぁ、このうちの2人は何も知らねえのに拷問されるんだろ?しかもフェイに」

「じゃああんたがやってやれば?」

「それはごめんだよ」

俺の運転してきた車で無事に捉えたターゲット3人ものせて仮のアジトまで戻る。アジトといってもほぼ廃墟なんだけど。

フェイタンに任せればしっかりと今回必要な情報はいただけるだろう。


そしてなまえはと言えば。

車に乗り込むやいなや疲れたー!!と一言文句を告げそのまま爆睡。フェイの肩にもたれかかってずっと寝ていた。幸せそうな顔しちゃってさ。

もちろん車がアジトについても目を覚ますなんてことなく、フェイがお姫様抱っこ(というよりただ担いでるだけだったけど運んでやるあたりフェイもフェイだと思う)して中へ運んできて、未だに眠り姫だ。

「フェイ〜……」


………仕事中じゃないとしても、寝言までこれじゃあもう救いようがない。


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お気付きの方もいるでしょうが技名の参考は某海賊の某兄貴です

mokuji