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次の試験会場までは飛行船で行くらしく、今は自由時間。暇を持て余す私はブラブラと飛行船の中を散歩している。

大丈夫ですみなさん、しっかり本来の目的も果たすべく私は動いているのです。しっかりキルアくんが今どこで何しているのかを探るべく歩いています。ストーカーとかではないですご安心ください。

「……あ」

そこに見つけたのは公衆電話のようなもの。ご自由にお使いください、という札がかけられている。

このご時世あんまり使う人はいなさそうだなと思いつつも、今回の試験の持ち物には念のための護身用である小さなナイフを腰に仕込ませているだけの私はありがたくそれを使わせていただくことにした。

プルルルル――

こういう時、自分の記憶力の良さを褒めてやりたい。よくかける相手の番号はおのずと頭に入っているのだ。私って天才かも。

『……もしもし?』

「シャル〜私だよー、なまえ!!」

ああ、なまえだったんだ、と、電話の主が誰だかわかって少し安堵したような声色のシャル。きっとこの電話出かけたから向こうのディスプレイには“公衆電話”とか書かれていたのだろうか。

『どう?試験は。まあ本来の目的は違うんだっけ?』

「試験は多分順調かなー。本来の目的の方は微妙かも」

『はは、それはよかったっていうべき?それとも――』

急にシャルの声が遠ざかっていったと思うとすぐに、携帯返せよ!!、と慌てる声が聞こえる。恐らくこれもシャルだろう。

「ちょ、シャル?」

返ってきた返事の声は、私が予想もしなかった人物で。

『――なまえ、今どこにいるか』

「フェイ〜!!!どうしたの?!何でシャルのところにいるの?!」

開けてびっくりジャジャジャジャーン。フェイタンでした。久々のフェイすぎてかなり嬉しい。これで三次以降の試験頑張れる。

『ワタシの質問に先答えるね』

「空の上だよ、飛行船に乗ってる」

『チッ。それ降りたらすぐこちくるね』

「いや、これ半分仕事みたいなものだからいくらフェイに言われてもそれは無理」

そう、これはあくまでもビジネスだと考えてる。元はと言えば私の仕事の関係でこの状況が作られたのだ。

どれだけフェイタンのことが大好きだろうと、仕事とこれは別だ。

『ハ?何言てるか。ワタシの言いたい事わかてないね。ワタシと仕事なら仕事選ぶていうか?』

ワオ。仕事と私どっちが大事なの?まがいなセリフをフェイタンから頂くとは夢にも思わなかった。

さあ何て返そうかと考えていると、電話の相手は当初の人物に戻った。

『なまえ?ごめん、今隣にフェイタンがいたんだよね』

「びっくりした。でもマイダーリンの声久々に聞けてよかったよ〜」

マイダーリンとは紛れもなくフェイタンのことだ。我ながらフェイが絡むといつもの私の性格からは想像できないような自分が出来上がってるような気がする。

『それ、本人に言ってあげてよちゃんと。君のダーリンご立腹なんだけど』

確かにさっきから無茶難題を言うし口調がピリピリしているような気はしていたが、そのことと私がフェイの声を聞けてよかったと言うことに何が関係があるのだろうか。

「え、何で。そもそも二人が一緒にいるなんて珍しいじゃん」

『本当、フェイのこと大好きなくせに変なところ自由で気まぐれなのやめてほしいんだけどさ……、』

そんなことを言いながら、シャルは事の経緯を話し始めた。

まず私がハンター試験を受けることになって数日、シャルも自分の仕事の都合で仲間が必要だったらしく、連絡して手の空いていたフェイがヘルプにきたらしい。

私はフェイタンにハンター試験を受けることを言っていなかったので、シャルと落ち合った時に今日はなまえはいないのか、と。シャルはシャルで聞いていなかったんだ、ということでハンター試験の趣旨を話し、それを聞いたフェイは何故かずっと機嫌が悪いらしい。

『なまえに連絡しろ連絡しろってうるさかったんだから。試験中だから無理だって言ってんのにさぁ』

「いやいやいや、だから何でそんな怒ってんの」

シャルとフェイが今同じ空間にいる理由は納得がいったが、肝心の何故ご立腹中なのかが未だ謎のままだ。

『何で俺に連絡してるのにフェイタンには連絡しないんだ、ってことらしいよ』

………。

……か、可愛い。普段蜘蛛での活動の時でもプライベートでも私がフェイにひっつくととても嫌そうでうざったそうな顔をするから、私は自分の気持ちを我慢してあえて連絡をしていなかったのだ。

しかし逆にそうなると寂しいのだろうか。ツンデレ?ツンデレなのフェイちゃん?ああ可愛い。

「それならもっと早く言ってくれればいつでも会いに行ったのに……!!」

『今は無理って断ったばっかじゃんか』

まあ確かに無理なものは無理だ。そもそもこの飛行船から降りたところで試験を抜け出すことなんて果たしてできるのだろうか。

「終わったらすぐ会いに行く」

『そうしてくれると俺もありがたいよ』

そのままシャルとの電話は切れた。最後にまたフェイが電話かわるかなとかも思ったけどそれなかった。多分絶賛拗ねモードにでも入っているのかな。はい可愛い。

試験が終わったら、絶対フェイタンのところに直行しよう。


mokuji