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自分が試合に出たとか、出ないとか、マネジャーだからとか、そんなの関係なしで。
月島はまだ残るし、とか。そんなことも言ってた。
矛盾してるだろ、って思われても仕方ないけど、やっぱり“負け”は悔しい。元は不純な動機だったとはいえ、烏野のバレー部に入ってよかったと思える今は、なんだかんだ先輩たちがいなくなることも辛いんだ。
「大地さんは春高に行くって言った」
珍しく真面目な顔の田中が呟く。それは二年一組の教室に集まったノヤも縁下も成田も木下も、もちろん私も同じで、真剣な顔で話を聞く。
「敗戦に浸ってる余裕、無えよ」
なんだか身に覚えのあるような田中のセリフに、昨晩のことを思い出した。
*
『もしもし』
『……珍しいですね、なまえさんが電話してくるの』
『お望みなら毎日かけ、』
用がないなら切るけど?と、私の言葉は月島に遮られた。ええ、ひどい。
確かに電話なんて滅多にしないけど、私からしたら、月島が私の電話に出てくれた方が珍しいと思う。
『で、どうしたんですか』
『いやー、なんとなく?カレカノっぽいことしたくて?』
インハイ予選で負けた夜、無性にむしゃくしゃして、どんな気持ちでいたらいいのかわからなくて、連絡しちゃいました。
なんて、言えるほどの勇気とやらを私は持ち合わせていない。
月島がいればいいやなんて甘い考えだったあの自分が、まさか自分が、こんな気持ちを抱くなんて、私が一番びっくりだわ。なんだよ私、性格良くなったじゃん。人と悲しみ共有できるじゃん。
『………』
『……ごめん、うざかった?』
『はい、とても、ものすごく』
『素直か〜い』
すると月島は再度黙り込み、次に出てきた言葉は、少し、本当に少しだけど、声色が変わっていた。
『……思ってること、言ってもいいですよ』
『……うん、』
『先輩引退するのかな、とか、悔しい、とか。柄にもなく思ってるんでしょ』
……月島蛍には、何故かお見通しみたいだった。
いやいや柄にもなくって。自分でもさっきそんなこと言ったけど他人に言われると複雑だ。私だってたまにはおセンチな気分に浸ることくらいあるわ!主に月島のこととか彼氏のこととか付き合ってる相手のこととか月島のこととかね。
『柄にもないわけじゃないし』
ちょっと悲しい気分になりましたので大好きな君の声を聞きたかったんです。でもそんなことは自分じゃ言えないし、そのことを指摘されたらされたでやっぱ恥ずかしいじゃん?精一杯平然を装った。
『いやいや、普段は他人の悲しみとか共感できない自己中なタイプじゃないですかぁ』
それに気づいているのか、そうでないのか。おそらく前者だと思うけど、月島も、いつも通りの応答をしてくれている。
なんだよツッキー、たまには優しいじゃん。
『自分の彼女のこと自己中とか言わないでくれる?あと月島のことは考えてるよ、いっつも』
『気持ち悪い』
『その気持ち悪い自己中女と付き合ってるのはあなたですけども』
『僕も何でなまえさんのこと好きになっちゃったのか未だに謎』
『好きになっちゃったことは認めるんだね』
『なっちゃった、んですよね。これ少しマイナスな表現なの、その足りない頭で考えてみたらどうですか』
『進学クラスの先輩に言うセリフじゃありませーん』
『数学できなさすぎてクラス落とされそうだったくせに』
『げっ、それ誰情報』
『縁下さんと成田さん』
『あいつらめ……』
そんな感じでどうでもいい話がどれくらい続いただろうか。ふと時計を見ると日付が変わる直前だった。
『あっ、ごめん。今日が明日になっちゃう』
『その言い方馬鹿っぽいですね』
『うるさいなぁ。じゃあ、ありがとう、切るね』
『はい』
そして画面をタップしようとすると、もう一度月島の声が聞こえた。
『なまえさん、』
『ん?』
『元気、出ましたか』
あれ、そういえば私、なんか悲しい気分になったから彼氏に電話しちゃいましたな乙女チック女子だったんだっけ、さっきまで。他愛もない会話をしてるうちに、いつの間にか普通のテンションだった。
『……うん、ありがとう』
『立ち直り早すぎでしょ』
『そっちが元気になったか聞いたんじゃん!』
まあ、そうですけど、なんてしれっと言ってくる月島。本当は私より、選手である月島の方がおセンチな気分に浸りたいはずなのに。……月島に関しては、そうなのかはちょっとわかんないけど。
まあ、柄にもない、確かにその通りだし、私がずっとグズグズしてるのはよくないし。
『いつまでも悲しみに浸ってる余裕は、ないからね』
なんかかっこいいようなこっぱずかしいような捨て台詞を言ったあと、おやすみと一言告げる。
『おやすみなさい、なまえさん』
mokuji