あなたの好きなところ(作詞:月島蛍)


昼休み。朝からテンションが低かったなまえがやっと口を開いた。

「ねえ、どうしたらいいのかな」

「はいはい、どうしたのー」

珍しく真面目な顔、というより深刻そうな顔のなまえから目をそらし、チラリと携帯を確認する。ピコンッ、と新しいメッセージの通知がきていた。

「やっぱり月島って私のこと好きじゃないのかな……」

ああ、出たよ。なまえのこのモード。うざいやつ。机の上に突っ伏しながらぶつぶつと呟いている。

「モテるから女の子避けにとりあえず私と付き合ってくれてんのかな……」

いつもはどんなに塩対応されても持ち前の明るさとポジティブシンキングで跳ね返しているなまえ。
そんなこいつがこのモードに入るときは、私でも予想ができない。

「たまに私が喜ぶこと言ってまんまと喜ぶ私を見て心の中で嘲笑ってるのかな……」

完全にダウンしたなまえの頭を持ち上げる。

「はいはいうざいよー。今更何悩んでんの、まずは詳しく話して」

私を見上げるなまえの顔は今にも泣きそうで。え、何この子。本気で悩んでるの?

「あのね、今日の朝練の時ね……」



「ちょっと王様、朝からちっさいのと騒がないでくれる?」

「あぁ?てめぇが朝だからって気をぬきすぎなんだよ」

「ちっさくねーし!!」

「僕は野生児じゃないから朝は静かに行きたいんだよ」

「クソが……みょうじ先輩って、こいつのどこがいいと思うんですか?!?!」

「顔」




「―――で、その後日向が月島に私の何がいいか聞き返したら、何も答えずに練習始めちゃったの。……ちょっと新奈!!携帯見てないでちゃんと聞いてよ!!」

「え、あぁ、うん。聞いてる聞いてる」

正直最初の方は聞いてなくて、まあ多分なまえの何がいいか聞いたら言ってくれなかったことだろう。
私はなまえの話よりも、朝のホームルームが終わったあたりから続いているLINEのやりとりに集中していた。

「蛍のことだから、その場に色んな人がいるから言いたくなかったんじゃん?」

「私もそう信じて朝練の後周りに人がいない時聞いたの」

「で?」

「黙られた……」

そう呟いたが最後、なまえは再度机に顔を突っ伏したまま顔をあげなかった。

暇を持て余した私は再び携帯へと視線を向ける。

『どうすればいい?』

いやいや、知らんがな。いちいち私に相談してくるあたり似ていると思う。

「教室から出て廊下で待ってろ、っと……」

呆れながらも返事をして、なまえにはちょっと飲み物買ってるくるねーと一言を添えて立ち上がった。





「あ、いたいた。けーいー」

自分の教室の前の廊下で超ご機嫌ななめな顔をしているそいつの名前を呼ぶと、眉間のシワがさらによったので驚いた。お前の眉間はどこまでよせられんだ。

「廊下で名前呼ぶのやめてくれません?」

「ねえ、言うこと違うでしょ?」

「………どうしたらいいですか、教えてください」

「よくできましたー」

そう、私がさっきから連絡し合っていたのはお隣の坊やでもあり親友の彼氏でもある蛍だ。

いつもうるさいなまえが静かだと思っていたら、『なまえさん怒らせたかも。でも僕悪い気がしないし謝る気もないしなまえさんが絶対悪い』という蛍からのLINE。

割と意味がわからなかった。怒らせた自覚があるのに自分のことは悪いと思っていないらしい。捻くれたもの同士の喧嘩ってどうしてこうも面倒なんだろう。

『さっさと謝れば終わるでしょ』
『絶対むり』
『馬鹿なの?』
『なまえさんの方が馬鹿』
『さっさと何があったかを言いなさいよ』

蛍と何回か連絡を続けるうちにある程度の状況はわかり、あえてなまえには何も言わなかった。ほっといてもいずれ私に相談してくると思う。
案の定なまえはつい先ほど私に口を開いた。


……全くこのカップルは、何かあると二人して私を頼ってくるから手が焼ける。

「なまえさん、怒ってた?」

「月島どうせ私のこと好きじゃないんだってなってた」

「面倒くさ……」

いやそれ私のセリフだから。

「いいと思ってるところ一つや二つ言ってやれば、すぐ『月島〜っ』ってなるでしょ」

私がなかば投げやりなアドバイスをすると、蛍もこれまた珍しくペラペラと話し始めた。今日はカップルで性格交換期間か何かなのだろうか。

「だってなまえさん、僕のどこがいいと思ってるか聞かれたら顔って言ったんだけど、意味わかんない。本気で言ってるわけ?」

あー、さっきそんな感じのこと言ってたかも。変なところで無駄に素直ななまえ的には悪気がないんだろうけど、確かに付き合っている相手に自分のどこかいいかを聞いたら顔って言われたら、おいそこかよってなるかもしれない。

「その後になまえさんは負けず嫌いなのに人には頑張れを押し付けないところとか、」

「うん」

「面倒な事は嫌いだけどやるって決めたことはやり通すところとか、」

「うん」

「人当たりがいいくせに白黒はっきりしてるところとか、」

「うん」

「そんなところが好きですなんて言えるわけないでしょ」

某歌手の歌のごとくなまえの好きなところを一気に言い終えた蛍は、私のニヤニヤとした顔を見ると目をそらした。

「……あんた、なまえのこと大好きなんだね」

「だったら何」

ムスッと眉間に皺を寄せながらも照れたような顔をする蛍。

そりゃ顔がいいって言われた後にそんな熱く語るなんて恥ずかしいだろう。今ここで私に言ってるだけでもかなり照れてるっていうのに。

「とりあえず、振り向いて」

「は?何で?」

「なまえと仲直りしたいんでしょ?」

意味深な言い方をすると蛍はまさか、という顔で後ろを振り返る。

「うわ、」

「ツッキ〜〜〜!!!」

現場の朝倉新奈が状況を説明させていただきますと、蛍の振り返った先にはなまえがいて、満面の笑みで蛍に抱きついている。

「ちょ、本当、やめてください!!ここ廊下なんですけど!!馬鹿じゃないの?!」

「ごめん言い方が悪かった、どこがいいって聞かれたから顔って答えちゃっただけなの!!でも性格も大好きだから!!月島蛍っていう存在が大好きだから〜!!」

「ねえ本当、やめてください……。昼休みだし、そんな大声で……。さっさと離れろよ……」

両手をぶらーんと下げて俯く蛍は完全に抱きつかれるがまま。
ちなみに何でなまえがここにいるかというと、自分の教室を出てすぐ、3分後にいつもとは逆の階段から1年4組まで来いって私が連絡したから。

「ふふふ、月島って私のこと大好きだったんだね」

「離れてください。どこから聞いてたんですか?離れてください」

「月島が私の好きなところ羅列し始めたあたりから」

「最っ悪……」

蛍は私を睨みつけるけど、自分が私に助けを求めたんじゃん。まあここまでうまくいくとは思わなかったけど。


離れてくださいっていう割には力づくで剥がそうとしないのは、故意なのか無意識なのか。
なんだかんだ嬉しいのかもしれないし、蛍のことだからこれを利用して告白してくる女子が減るかもとか思ってるのかもしれない。

「みょうじ先輩いい加減離れてください。地味に力強くて痛いし。腕力ゴリラでしょ」

「もうちょっとこうさせてツッキーチャージさせて」

少なくともみょうじなまえと月島蛍をよく知る私から見れば、二人とも悪い気はしないんだろうな、と感じる。




「大地、あれいいのか……?教頭にバレたら……」

「抱き合ってるというよりみょうじが月島を捕まえてる感じだからセーフだべ?不純異性行為にはなんねーよ!……って大地は?」

「あ、みょうじたちの所に笑顔で……、うわ、痛そう……!!」

「月島、大地にお礼言ってんな」

「大地のチョップをダイレクトに受けたみょうじのことは心配してやらないんだ……」

「だなぁ。……え、月島みょうじの頭撫でてる。大地に謝ったみょうじの頭今ポンポンしたべ」

「……っ」

「照れんなよ旭ぃ〜〜〜!!」

「スガ!!背中叩くな!!痛え!!」


***
新奈目線の二人ということだったんですけど、最終的に外野がうるさくなりました。すみません。

mokuji