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インターハイ予選2日目。

体育館には、青葉城西高校の応援が響き渡る。

「おっせーおせおせおせおせ青城!!」



私が今、伝えたいことはただ一つ。


「青城の応援が耳障り……!!」

どう考えてもアウェー感が拭えないこの雰囲気。イライラメーターは破裂寸前だ。

「まあまあなまえちゃん。無事2日目進出じゃん、烏野。当分休みとれねーよ……」

「俺も」

本日もわたくしみょうじなまえは観覧先で大人しく、嶋田さんと滝ノ上さんと上から烏野を眺めている。

見つめている先では、大地さんとクソ……、ゴホンゴホン、及川先輩が握手を交わしていた。

「伊達工も結構な応援の量だったけど青城の場合は、」

嶋田さんの呟きにちょうど良く、青城の観覧席からは女子からの黄色い声が飛び交う。

「及川くん頑張ってー!!」

「コレですよ……」

「ほんっとうに耳障りです何が及川くん頑張って〜だよ他人が口出してくんじゃねえ」

「お前は青城の主将と何かあったのか……?」

滝ノ上さんは私の過剰な反応に問いかけてくるけど、そんなそんな。何もないです。知り合いでもないです。他人です。関わりたくない。

『明日は敵同士だけどまたご飯行こうね(うるさい絵文字)』という昨日の夜に来たメッセージも既読はつけぬまま今に至る。そもそも一緒にご飯なんて食べた記憶はないしバイキングの時はあれは事故で同じ場所にいただけだ。

「……何もないですけど、ムカつきます」

他校の主将になんてことを……、という嶋田さんの言葉は、コート上の田中の、負けてたまるか行ぐぜぇぇ!!!という叫び声で聞き流すことにした。

「おらいけ田中ぶっつぶしてやれーっ!!!!」

「ちょっなまえちゃん言葉遣い!!あと声が大きい!!」

「私たちだって青城の応援に負けてられませんから!!」

どう考えても嶋田さんは保護者体質だなと確信した時、公式ウォーミングアップが始まる。

「せーのっ!」

青城コートの女子たちの掛け声。おいおいなにがせーのだよかわいこぶってんじゃねえよ。

「及川先輩!がんば――」

「烏野ォー、ファイ!!!」
「オオッ」
「ダァーイ!!」
「ソォオイ!!」
「ア”ーイ!!」

「み、みんな……!!」

耳障りな応援を烏野のみんながかき消してくれた。最高。さすがすぎる。よくできた子達だこと……。

「気合い十分だねぇ」

「嶋田さん、私は今感動してます」

「う、うん?」

大地さんのサーブの掛け声で練習に入る烏野。

「お、そういやお前の”弟子”、サーブ上手くなった?」

滝ノ上さんが嶋田さんに問いかける。弟子?サーブうまくなってる?嶋田さんも、なんだよ弟子って……と少し困惑気味だ。

「嶋田さん誰の師匠やってるんですか?」

「だからそんな師弟関係ってわけじゃ……。忠にさ、サーブ教えてるんだよ。でも1週間しか経ってねーんだぞ?まぐれ当たりはあっても、狙って無回転打てるにはまだまだだろ」

山口がサーブを練習しているなんて初耳だ。そんなのいつやっているんだろう。いつも月島と一緒に帰ってると思ってたけど。


下のコートからは烏野の掛け声はもちろん(主に田中とかの雄叫び)、青城側の声も聞こえてくる。
普段チャラチャラしてるくせに、やっぱり及川先輩の技術面は県内トップクラスと言われるだけあるんだなとバレーをそんなに知らない私でもわかる。そして部員をしっかり見ているところも侮れない。

「整列ー!!」

大地さんの声が響き、公式ウォーミングアップが終わった。

「おっ始まる始まる」

「ちょっと滝ノ上さん、落ち着いてくださいね」

「一番落ち着きがないのはなまえちゃんじゃねえか」

「ビデオ回してる間はちゃんと静かにしてますぅー」

「ほらほら君たち、本当に始まるよ」

「「はーい」」


「「「お願いしあース!!!」」」

こちら側、いわゆる観覧席ではどっちが勝つかな、と話している奴らもチラホラ。烏野が勝てるとは言い切れないし、青葉城西は言わずもがな強豪校。
だけど、烏野だって少なくともぼろ負けすることはないことは確か。いい感じに“口散らかしてやれる”ほどには成長しているはずだ。
そしてあちら側、コートでは及川先輩が何やら影山に話しかけている。あ、日向が割り込んだ。

「烏野ファイ!!」
「「「「オース!!!」」」


「いいなー、青春って感じして」

中学の時はそういうのも含めて全部を面倒に思って部活を真面目にやってなかったくせに、いざ外野の立場になってしまうと羨ましい、と思ってしまうご都合主義。

「それ俺らの前で言う?」

「おじさ……、お兄さんたちの前で言うことじゃなかったですね。あ、嶋田さんは本当にお兄さんだと思ってますよ」

「生意気な小娘め……!!」

だから静かしにしろってという嶋田さんの言葉で、私と滝ノ上さんはコートに視線を戻す。

そのコートでは、普段からは想像できない真面目な顔つきの及川先輩がいた。

「何か今、青葉城西の空気が変わった気がする」

滝ノ上さんのそんな呟きは、きっと正しい。

mokuji