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「そんなの許されないよ!!」

ひときわ大きい私の声が、休み時間の体育館にこだまする。

「私は、誰一人として無駄なものにしたくない」

「俺だって、なまえの言ってること正しいと思う。けどどうしようもない時だってあるんだ」

「ノヤがそんな人間だとは思わなかった。それは、私たちのために身を投げ出した子たちへの侮辱でしかない」

「じゃああの時、俺はどうしたらよかったんだ!!」

「……君たち、さっきから何の話をしているの?」

「「缶のコーンスープのコーンについてです」」

大地さんの恐る恐るとした質問に仲良く二人で返した私とノヤ。

話に夢中になって気づかなかったが、私の先ほどの大声のせいで部員のほとんどが私たちに注目している。
普段仲の良いノヤと私が言い合っているのを見て、みんな珍しがっているのだろう。そこで代表して内容を聞いたのが、我らの主将大地さん、というところだろうか。


そ、そう……、と若干引き気味な大地さん。その近くでは、スガさんと田中が肩をプルプルと震わせている。

「お、おまえらっ、ブッ、そんな話を真剣にしてたのかよっ」

「そんなとは失礼な!!!田中はこの話の重要さがわからないの?!」


「いやー、急にみょうじが西谷に大声であんなセリフ言うもんだから、喧嘩かと思ったべ!」

「喧嘩ですよこれは!!」

そう、これは喧嘩だ。というか、ノヤの缶のコーンスープエピソードに納得いかない私一方的にノヤを責めているだけだが。

「ノヤっさんとみょうじ先輩が喧嘩……?!どうしたんですか?!」

「聞いてよ日向!!ノヤったら、缶のコーンスープのコーンを残したまま捨てたことあるんだって!!」

「だからそれは不可抗力だったんだ!!許してくれなまえ!!」

必死に許しを乞うノヤ。いやだめだ。許すまじ。以前缶のコーンスープを飲んでいる時、どうしても最後の一粒がでてこなくて仕方なくそのままゴミ箱送りにしたというエピソード。こんなの許されるわけないのだ。

「……缶のコーンスープって、この時期にも売ってんスか?」

「売ってるわけないでしょ。あっ、すみませ〜ん、王様は自販機なんて使わないからわかんないですよね」

「こんの月島……!!!」

紹介しよう。ただいま周りで聞いてる身としてもかなりいらつくセリフを言ったのは私の彼氏となりました、月島蛍くんです。

「まあまあ影山……。で、何でその話になったんだ?」

メラメラモードの影山を落ち着かせ、旭さんが聞く。

「好きな飲み物の話で、なまえがりんごジュースって言って、でも冬なら缶のコーンスープって。それでこの話っす!!」

「ブッ」

「おい田中今なんで笑ったよ?!」

「だってりんごジュースって子供みたい……、ブフッ」

「子供じゃなーーーーい!!!」

ふざけるな。馬鹿にするなよりんごジュース。さっきからお前は笑いすぎだろ。
あ、ほら、日向も俺も好きっすりんごジュース!!って叫んでる。……日向が好きって言うと確かに小学生が飲むみたいに見えてきた。

ちなみに私の一番好きなりんごジュースは純粋アップル、次いでにっちゃん、Gooだ。

「炭酸飲めないんだから充分子供じゃないですかー?」

子供扱いしてくる田中に気を取られていると、先ほど紹介した我が彼氏様がにやにやとした顔で私の弱点をついてくる。
そうです、実は炭酸飲料がもっぱらだめです。微炭酸のシャンタやBBレモンもだめです。しかしそれと子供っぽいことは関係ない。と信じたい。

「男のくせに私より食べない奴に子供とか言われたくない!!」

「はぁ?それとこれは今関係ないでしょ。それにみょうじ先輩が食べ過ぎなだけですけど。食い意地張って胃もたれになったのはどこのどいつですか」

私の胃もたれ、これは先日ジャージを借りたお礼ということで二人でケーキバイキングに行った次の日のことだ。
その時月島の三倍の量を食べたであろう私は、案の定次の日胃もたれで死んでいた。あ、でもショートケーキを食べた量は月島が明らかに上だった思う。

「はいはい、仲良いアピールはいらないぞー」

「こんのリア充め……!!!」

「大地も田中もこれくらい許してやんべ!」

「えっ仲良く見えます?!?!リア充に見えます?!?!きゃーなまえちゃん照れる〜!!」

「ちょっと、ベタベタ触んないでくださいよ、気持ち悪い」

大地さんの“仲良い”という言葉と、田中の“リア充”という言葉に過剰に反応する私。そうです、私たちが付き合ってから1週間と少し。既に烏野バレー部公認の仲となりました。

もちろん堂々と私たち付き合いました〜なんて報告したわけではない。そんなことしたら月島のご機嫌がどうなるかなんてわかりきっている。
それでは何故こうなったのか。答えは簡単で、私の雰囲気でみんなが察した、だけだ。多分幸せハッピーるんるんオーラが出すぎていた。
すみません、自然に出ちゃうんです。幸せなんです。


「で、コーンスープのコーンを残すか残さないかで二人は言い合ってるんだ?」

月島の腕にひっつこうとしつつも圧倒的男女の力差で月島にひっぺがえされてしまう私を見ながら、縁下が冒頭の話へとしっかりシフトチェンジしてくれる。

「勘違いしないでくれ力!!俺もいつもは残さないんだけど、一回だけどうしても出てこない奴がいてさ……」

「だからそれが甘いんだよノヤ、コーンが可哀想!!」

缶のコーンスープ。なかなか出てこないコーン。どうにかしてその子を救い出してやる。最後の一粒を食べきった時の達成感。これを味わってこその缶のコーンスープなのだ。

「俺は、部活の休み時間でもこんなアホみたいな論争を必死でやる奴と付き合ってる月島が可哀想だと思う……」

大地さんがまたもや若干引きながら呟く。
キャプテン、聞こえてますよ!!うまいこと言ってる風だけどすごい私にそれ失礼ですよ!!

「まあまあ、みょうじのそういう所がいいんじゃないか?」

「東峰さん、勘違いしないでください。みょうじ先輩のああいう所はただの馬鹿としか思ってません」

「ツッキー間髪入れずに否定しないであげて!!みょうじ先輩かなりダメージ受けてる顔してる!!」



mokuji