15



思い立ったらすぐ行動。こちらも私のスタイルだ。

「「「あざっしたー!!」」」

一緒に帰る帰り道で告白してやろうじゃないか。月島の彼女の座をいただこうじゃないか。

ちなみに潔子先輩については既に田中とノヤに任せている。そこらへんは怠らない。先日スガさんと私で帰った時のように、潔子先輩が華麗に私を置いて帰って一人で帰ったりもしているが、私の管轄下では一人で帰らせるわけにはいかないです。

好きです、付き合ってください、と言おうか。うーん、好きですはもう伝えてあるから付き合ってくださいだけ?ぐるぐると考える。何だか私、恋する乙女みたい。きゃっきゃ。

そんな事を思いながら、まずは第一歩、一緒に帰ろうと言うべくあたりを見渡す。


……が、予想外の出来事。月島がいない。月島を探す時の反射神経としてそこら辺に山口がいないか確認する。いた。10メートル程の距離に山口発見。

「山口!!月島は?!」

「えっと、ツッキーならもう帰りました……」

「はぁ?!?!」

何でこういう時に限って早く帰ろうとするんだツッキー。何で今日はツッキーにひっついていないんだ山口。

少し挙動不審な山口と部活お疲れ様の挨拶を改めて交わし、とぼとぼと駐輪場へ向かう。

私の計画はあっけなく砕け散った。何という事でしょう。
直接戦いを挑む前に敗北したのだ。お前と月島の関係はこれで終わりだと告げられている気がする。神様め、恨んでやる。

「くっそー!!!」

「うるさ……」

「……え?」

駐輪場への薄暗い道のりを歩きながらどうしようもない心の嘆きを叫んでいると、横から聞こえた声。

声の方を向くと、本日私が戦いを挑む予定だった相手。

「月島?!」

「何一人で叫んでるんですか。さっさと自転車持ってきてください」

「しょ、承知しました」

わけもわからず、とりあえず自分の自転車を探す。この時間はほとんどの人は帰っているので、私の3年前からの愛車を見つけるのは容易い。

自転車を急いでひいて、月島のもとへ駆け寄る。

「山口に月島がどこにいるか聞いたらもう帰ったって……」

「帰ってないからここにいるんでしょ」

「ですよねー!!」

なぜ月島がここにいるのか。山口によると帰ったはずだ。しかし月島はここにいる。月島不足過ぎて幻覚を見ているのではなく、確かにここにいる。


ぐるぐると頭の中で月島が2年の駐輪場にいた理由を探しながら、無言のまま校門を出る。もちろん答えは見つからない。

どちらも一緒に帰ろうとは言っていないが自然と二人で帰る状況になる。久々の二人での帰り道。高校生になってから実質2回目だ。

当初の計画に従うのならば、私の告白タイムはまさに今。
玉砕することはないはず。あの月島の言葉が
幻聴じゃなければ。ならば行くしかない。行くんだなまえ。君ならできる。多分今勢いに任せて告白したらその勢いで心臓も出てくるよこれ。

いきなり告白するのもおかしいというのを言い訳とし、とりあえず世間話でもしてみる。あとで、あとでちゃんと告白タイムを設けますから。

「な、なんかこうやって話すの久々だねー!!!!」

当たり前だ。そういう作戦だったのだから。本来ならば月島が私不足になり月島から告白してくるはずだった。結局は自分が仕掛けた罠に自分ではまったような状況になってしまった。
そして自分の会話力の低さに驚く。まともな世間話もできないのか私は。

不自然すぎる私の言葉に、どうせ月島からは呆れた返事が返ってくるだろうと思っていた。

「5日間でしたね」

「……ン?」

思っていたものとは大きく外れた返事に、思わずアホみたいな言葉が漏れる。

「そろそろ我慢できなくなる頃かな、って」

「え、」

本日2度目の、何ということでしょう。これはどういうことだ。
脳内で月島のセリフを整理する。5日間とは何か。偶然にも、私が作戦を始めて今日は5日目。そして我慢がどうこうと言っている月島。私の作戦は要約すれば月島を我慢するという内容。

……月島に私の作戦がバレてたということか。それならば何故バレてしまったのか。スパイでもいたのか。

何て返したらいいか困っている私に、恐らく私の心の内を読んだであろう月島が口を開く。

「前にも言いましたけど、避けてることくらいすぐわかりますから」

案の定、バレていた。

よくよく考えばこの作戦も、合宿の時の月島断食を考慮すると2回目のカウントに入るのではないかと思えてきた。その場合1回目のあれは成功に入るのだろうか。どちらにせよ私が月島を避けたところで、月島がそれに気付くということにもっと早く気付くべきだった。
そしたらこんなに辛い思いをしなくて済んだかもしれないのに……!!

しかし勘違いしないでほしいのは、前回のように月島と関わりたくなくて避けているわけではないということ。
そこら辺についてはしっかりと明言しておかなければならない。

「でも今回は避けたくて避けてたんじゃなくて、」

「僕に何か言わせたかったんですよね」

うん、本格的にスパイがいたんじゃないかなって思ってきたよ。言葉を遮りられ、核心をつかれた。明らかに作戦が筒抜けじゃねえか。何事だよ。

そこで浮かぶ一つの疑問。

どうして今日まで引き伸ばしたのか。
いつこの作戦に気付いたかまではわからないけど、恐らく数日前には気付いていたであろう言い草。
さすがの推理としか言いようがないが、月島の推理の間違っているところとして一つ挙げるならば、そろそろ私が我慢できなくなる、という点。そろそろじゃない。作戦開始から数時間の時点で私の限界は来ていたと言っても過言ではないのだ。

「わかってたなら、もっと早く行動してよ……」

「僕と話したそうにしながら頑張って我慢するなまえさん、見てて面白かったです」

「性格わっる!!」

「どうも」

ニコッと意地の悪い笑みを見せてくる月島。私が年上なのに。この生意気な奴め。

「ちょっと、何拗ねてるんですか」

「別に」

「僕の言ってる意味、わかってる?」

「知るかそんなもん!!」

本当馬鹿、とため息混じりに呟く月島。だから私が年上なんだけど。先輩に馬鹿とか言っていいなんてだれに教わったんだよ。

ぶつぶつと文句を言いながら歩くが、それからしばらく月島は口を開いてくれなかった。





隣で僕が馬鹿だと言ったことについて、生意気だの性悪だの言ってくるなまえさん。こんな姿を見て、つくづく思う。本当に馬鹿。

何も返答しない僕にしつこく文句を言い続けるなまえさんが面白くて、なんだか可愛くて、もう少し意地悪してやろうかななんて思ってしまう。
そんな僕の頭はやはり小学生男子の思考回路と同じだろうか。そういう面では僕も割と馬鹿なのかもしれない。

これはこれで楽しい状況だけど、いつまでも無視し続けてては言いたいことが一生伝わらないままだ。

そろそろ月島という表札が見えてくるというところで口を開く。

「僕が駐輪場にいた時点から気付きなよ」

『?』が頭の上にでもつきそうな表情のなまえさんを見る限り、何故僕が2年の駐輪場にいたのかはやっぱりわかっていなかったらしい。
みんなのいるところで一緒に帰ろうなんて言ったら面倒だと思ったから、なまえさんと鉢合わせするために決まってるでしょ。
まさかなまえさんが丁度僕と帰ろうとしてて、山口に僕がどこにいるか聞くとは思わなかったけど。

ここまであからさまな行動を取っているのに何も気づかないところが馬鹿だと思うと同時に、自分の顔が少し緩んでいくのがわかる。なまえさんの馬鹿なところは長所でもあるとすら思ってしまうのは、僕がそれだけ彼女に好意を寄せてるからだろうか。

「ごめん、ぜんっぜん意味わかんない」

ほら、馬鹿なこの人には遠回しな言い方なんて通じない。どれだけヒントを与えても、へらへらと笑って答えを見つけられないまま。そんなことはわかりきってる。

でもそれで簡単に本心を言っちゃったらつまんないでしょ。

「ねえ、なまえさん、」

まあ、いつまでもこの曖昧な関係を続ける方がつまんないし、僕も、もちろんなまえさんも、色々限界きてるし。



「烏野まで追っかけて来てやったんだから、僕と付き合ってくれますよね?」

性格悪いとか、生意気とか言ってくるけど、僕にこうやって言われたらなまえさんが頷くしかないことくらい、計算してるに決まってるでしょ。



mokuji