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作戦決行2日目。

「……なんか今日のみょうじ、テンションおかしいな」

「いつも割と高めだけど、今日は一段と高いべ……」

「ああ、今あいつ、月島断食中なんですよ」

縁下の返答に対しブッ、と吹き出す大地さん。そりゃそうだ。月島断食中ってなんだよ。元はと言えば縁下と新奈が言い始めたことだろうが。

大地さんの隣ではスガさんが、まだ続いてるんだ、と目を丸くしている。
私も正直2日目まで耐えられていることに感激している。おい、まだ2日だろって思った奴は誰だ。ちなみに部活前にそのセリフは新奈様からいただいた。

そして私の今のテンションはというと、“無駄に元気”な状態である。まさに今流行りのちゃるちゃるビームを出す勢いだ。

「こうでもしないとやってらんねえっすよ!!!」

そう、こうでもしないと月島不足を誤魔化せない。

なんだかんだ言って作戦をきっちりこなそうという私はどれだけいい子なのだろう。私を人の言うことをしっかり聞くように育ててくれたママンと、私の負けず嫌いな性格と、悪魔二人のただならぬオーラがあるからだ。

そのおかげで、月島断食2日目の部活中の今まで順調に作戦は遂行されている。と思う。
なぜ推測形なのかと言うと、肝心の月島の方はこちらの努力と葛藤を知らずにいつも通りの日常を送っているからだ。クソ。早く気づけよ馬鹿。

「これは戦いなんです!!!この戦いに勝った末にはお祝いしてくださいね!!!!」

戦いに勝つ、とは。
もちろん晴れて私と月島の関係がカップルというものへ変化したその時こそが勝利の時だ。
諦めない。諦めないぞ。月島が、私不足になって自分から告白してくるその日まで!!!

「まあ、ほどほどにしなさいね……」

「みょうじ、今日も俺と一緒に帰る?」

「いやースガさん、全っ然効果なかったです!!嫉妬のしの字もない!!」

「スガ、みょうじと一緒に帰ってたのか?!」

「月島が嫉妬するかなーって思ったんだけど」

駄目だったかー、と唸るスガさん。
私も少し期待してました。家に帰ったら、嫉妬した月島が明日は僕が一緒に帰りますの連絡くらいよこさないかな、とか。私たちの甘い考えにすぎなかったです。

そしてこの作戦自体も、甘かったという事実にまだ私たちは気づいていない。





3日目。月島から話しかけてくれるはずもなく、連絡だってこない。


「ねえ、なんで昨日はいつも以上にうざいテンションだったのに今日は死んだみたいなテンションなの?」

教室の机に突っ伏している私の頭の上から、冷たい言葉が突き刺さる。顔は見えないけど新奈だろう。返事をしたいところだけど、あいにく私は今口を開く元気すらない。

私は高校一年生の時、月島と全く接点がなかった時、どうやって過ごしていたのかが疑問だ。きっとあの頃は、もう月島とは関わらないだろうと自分の中での示しが付いていたんだと思う。

しかし月島は烏野にきて、私のことを好きだと言ってくれて、それなりに楽しい1ヶ月と少しの日々。
これを経験してしまった私は中学生の頃のように再び、月島蛍と関わりのない日常は日常ではないと思うようになってしまったのだ。

「諦めたらここで試合終了……」

まだ、まだいける。もう少し頑張れる。もうそろそろ月島が私に何か仕掛けてくる頃。





4日目。

言うまでもないが、月島からは少しの音沙汰もない。私がどんな思いで月島断食中かもしらずにいつものように部活をこなしている月島の姿を見るにつけ、悲しくなるのみ。

「縁下、こいつ部活でもこんな調子なの?」

「月島と話したい月島に触れたい月島月島月島……」

「ちゃんと仕事はしてくれてるけど……ただの変態オヤジみたいだな、今のセリフ」

押しすぎて駄目ならとことん引け大作戦。
月島月島……、と念仏のように唱えることしかできない私に、縁下と新奈は呆れ気味。

「無理!!月島がいるのに話しかけないとか無理!!もう無理だー!!!!」

月島がそこにいるのに、話しかけないことができるだろうか。否、そんなの不可能だ。

よくぞ今日まで耐えたぞ私。

だが私の努力も虚しく、この作戦がうまくいっているようには思えない。

昨日の夜も、一昨日の夜も、作戦決行のあの日から、もしかしたら連絡がくるかもと期待して、スマホを肌身離さず持っているが、願っていた人物からは一切連絡がない。現在私のトーク画面一覧の最上位はノヤの『俺はきのこ派だ!』という謎の宣言で埋められている。至極どうでもいい。ちなみに私はたけのこ派だ。

もしかしたら直接私の元へやっとくるかもと期待して、可愛らしさ演出のほんのりチークと色付きリップを付けているが、これまただからといって話しかけてくれるわけでもない。事情を知らないを知らない友達に『彼氏でもできた?!』と質問ぜめされるだけだった。その質問は私の月島不足を助長するだけである。

「3日4日じゃ月島には何のダメージもなしか」

「さすが蛍って感じだよね」

そもそも何でそんな長期戦に持ち込むような作戦を提案したのか、そして実行したのか。悔やまれる。


逆にこの作戦を月島が使ったら効果絶大なのに、なあ。
……そもそも月島から話しかけてくることがまれだから、作戦を使うまでもないか。

この作戦実行中にもクラスの女子が、一年のバレー部の背の高い眼鏡の子かっこいいよね、と言っていたのを耳にした。いつも以上に敏感になっている私はそれだけで月島が恋しくなる。
ふっ、残念だな。お前らの言ってるそいつの意中の相手は私なんだよざまあみやがれ!!簡単には渡さないからな!!

とわいうものの、月島が私のことを好きと言ってくれてしばらく経ったが何の進展もない私たち。ざまあみやがれと言いつつも本当に幻聴だったらどうしようかと、いよいよ思い始めてきた。


……なるほどやはり、ここで一発かますしかないのか。

「やってやろうじゃねえか……!!」

グッと拳を掲げ、気合いを入れる私。

「お、もうちょっと頑張る気になった?」

そんなわけない。もはや月島中毒だ。月島シンドロームにかかっているのだ。これ以上月島が足りないと多分死ぬ。死にかけている。
神様、もし私が死んで、生まれ変わるなら山口ポジションをお与えください。

「いや、私は死なんぞ……!!」

「は?なに?頭おかしいよね?」

先日の会議で言っていた新奈の言葉が頭の中で反芻する。どちらかが腹をくくらなきゃいけない。そうだ。正論だ。本当だったら嫌だけど、これ以上月島が足りないのはもっと嫌だ。それならば、私に残された道は一つ。

「直接勝負じゃあああ!!!!」

「え?!みょうじどうした?!?!」

「蛍に直接告白するみたい」

「何で朝倉はわかるの?!?!」

じっくりじっくり攻めていくなんて、私の性に合わない。大胆に突き進むのがみょうじなまえ、私のスタイルだ。


mokuji