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「月島ナイスー」

「ツッキーナイス〜!!」

「うぅ……!!」


そしてさっそく本日の部活。

月島がいくら好プレーも見せても、それを口には出せないもどかしい思いに駆られる私。少しでも近づこうとしたり、声をかけようとすると縁下から黒々としたビームのようなものが飛んでくるのだ。
さきほど月島のナイスプレーに対していつも通り声をかけようとするも、縁下のただならぬオーラにより叶わず。

「よーし休憩!!」

「「「オッス!!」」」

用意していたドリンクを出しながら、月島に話しかけることができない私は大人しく月島に熱い視線を送る。かっこいい。ドリンク飲んでる姿も絵になる。

……やべえ。今とても縁下さんから見られている気がする。

そんな視線を感じ月島から目をそらした。

合宿中の月島不足を頑張って取り戻して十数日。こんなにも早く月島不足が再発するなんて。
すぐ近くにいるのに……!!!



「今日のみょうじ、なんか大人しいな?」

いつもより幾分か静かな私を心配してか、休み時間に声をかけてくれたのはスガさん。

「スガさん〜!!」

事の発端、そして現在私の置かれている状況を話す。

「うーん、なるほどなぁ」

手を顎に当てながら真剣に考えてくれるスガさんは神様だろうか、いやむしろ天使なのかもしれない。我らが2年4組の悪魔2人とは対極的だ。

「いい考えがある」

ニカッと笑うスガさん。
あれ、天使だと思ってたんだけどな。どちらかというとこの笑顔はあの悪魔共と似たような何かを含んでいるな。おかしいな。

スガさんが何か考えがあるみたいだけど、それが吉と出るか凶と出るか、今の私にはまだわからない。





「お疲れっしたー!!」

半径数メートル以内に大好きな月島がいるのに、話しかけてはいけないという拷問的部活も終え帰宅準備。

「みょうじー」

「スガさん!お疲れ様です」

「みょうじの家って、こっから歩くと遠い?」

「んーチャリの方が断然早いですけど、歩いてでも帰れる距離です」

元々の運動神経、そして中学のバスケで鍛え抜いた私のチャリのスピードは並大抵のものではないと自負している。
あんまりこれを言うと大地さんに危ないから程々のスピードにしなさいって怒られるから、口には出さない。

「そっか。じゃあ、一緒に帰るべ!」

ニコニコと、スガさんはいつも通りの笑顔。

「……え?」

思わず聞き返してしまった。一緒に帰る?私と?スガさんが?何で?それに私には潔子先輩が……。

「清水ならさっきもう帰ったし」

「え?!?!」

ひどいです潔子先輩。先に帰っちゃうなんて。でもそういう少しそっけないところも好きです。

「ほら、いいからとりあえず帰るぞー」

戸惑う私の手を取り駐輪場へと向かうスガさんは、こっそりと言葉を発する。

「どうせ引くなら、ちょっとくらい嫉妬させてやった方が効果あるべ?」

ニヤッと口角を上げ、帰宅しようとする部員たちの集団を横目で見るスガさんは、悪い顔だ。なるほど月島の件か。しかしこれくらいで月島が嫉妬するのだろうか。

「効果あるんですかね……?」

私もチラリと月島たちのいる方に目をやる。うん、こっちを見てすらいないよね。

「俺もみょうじのことは応援したいからなー。効果絶大じゃなくても、やれることはすんべ!」

やっぱり天使だ。スガさんは天使で間違いない。スガさんにここまでしてもらったからには、月島からしっかりと愛の告白を受け取ってやる!!!





「……本当、馬鹿じゃないの」

「ツッキーなんか言った?」

「別に……」

不覚にも、心の声が口から出てしまっていたらしい。隣にいる山口はキョトンとした顔をしている。

「そういえば、今日のみょうじ先輩なんか変だったよね!いつもならツッキーにべたべたなのに」

「あれくらい大人しい方がちょうどいい」

なんて全くの嘘。なんだかんだ言って、なまえさんの鬱陶しい言動までもが愛おしいと思ってしまう僕がいるのはまぎれもない事実。

いつからこんな気持ちを抱くようになったのかははっきりとしないが、多分中学に入って少しした頃。なまえさんの普段は見せないところを徐々に知っていった頃。その時期から僕の世界はなまえさんに支配され始めたのだ。

「ま、まさかまた喧嘩……?!」

「そんなわけないでしょ」

「だよね、よかった!!」

どうせまたあの人は、1人で僕の気を引こうとあれやこれやしているだけ。そんなことしたってお見通しに決まってるし、そもそもそんなことする必要がないくらいに僕はなまえさんのことが好きな自信はある。
所詮無駄な努力だ。

先日やっと僕が気持ちを伝えられたというのに、僕たちの関係は未だ何一つ発展していない。
一度恋人同士であったはずなのに、どうしてこうもうまく行かないのか。

きっと自分だけが好きで好きでしょうがないとでも思っているであろうあの馬鹿は、僕に何らかのアクションを起こさせようとしての今日の行動だったのだろう。
恐らく“何らかのアクション”とは、僕ら二人の仲を発展させる所謂告白。負けず嫌いでどうしようもない馬鹿。そんななまえさんは二回も自分から告白することを嫌がるのは当然だと言える。


しかし、だ。

僕の一通りの予想があっているとしても、さすがに菅原さんと一緒に帰る必要はあったのか。
一緒に帰ろうと言い出したのは十中八九、菅原さんだろう。なまえさんは僕が少し嫉妬してくれたらラッキーくらいに思ってるんだろうけど、自分の好きな人が他の男と帰るところみて何も思わない奴はいないでしょ。

しかしこれは、逆に僕の中の捻くれた部分を引き起こすスイッチにしかならない。

「みょうじ先輩って、本当に馬鹿だと思うんだよね」

どうしようもないほど、救いようもないほどの馬鹿。そんなことして、僕が簡単に折れるとでも思ってるの?
そう簡単にはこの前みたいに嫉妬してるところを見せたりしないし、告白だってしてやらない。

……とか思いつつ、自分で自分の余裕のなさもわかっている。どうやら今回は、僕から一言、付き合おうって言ってやらないといけないらしい。


mokuji