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「それでは、会議を始めます」

ある日の昼休み。周りはガヤガヤと騒いでる中、いつもより神妙な趣きの新奈。

「議長を務めます朝倉新奈です、田中くん、西谷くんは初めまして」

「初めましてっス」

「よろしくお願いいたします」

こちらも真剣な顔付きで深々と頭を下げる田中とノヤ。

「えっと、書記を務めます、縁下力です……?」

少し困惑気味でルーズリーフを広げながらボールペンを手に持つ縁下。

「本日はお集まりいただきありがとうございます……」

そしてもちろん私も、かなり謎なメンツ達を前にしてきちんと膝を揃え背筋を伸ばし、椅子に座る。

「本日の議題は……、」

バン、と、どこから出したのか、マッキーで文字が大きく書かれたノートを掲げる新奈。

「『現在の月島とみょうじの関係は何なのか』です!!」

説明しよう!!

先日やっと月島蛍から好きという言葉を言ってもらった私、みょうじなまえ。
しかしここで一つの疑問が上がる。
お互いに好きだということが発覚したところまではいいが、はっきりと愛の告白をし合っていない私たち!
それでは一体私たちの関係性はなんなのか!

今日はそれを話し合うべく当事者の私(もちろんノリノリ)、私の親友である新奈(会議発案者であり意外とこういうことに関してノリノリ)、2年4組常識人代表として縁下(もちろん謎の会議に困惑)、何故かバレー部代表として田中(もちろんノリノリ)とノヤ(もちろんノリノリ)に集まってもらったのだ!!

田中とノヤに関しては、新奈が他のバレー部の意見も聞きたいと言ったところ縁下が呼び出してくれたらしい。
うん、もっと適任者がいたと思うよ?成田とか木下の方が常識ありそうだよ?

「いや、それにしてもなまえの親友がこんなに美人だったとはなっノヤっさん!!」

「ああ……!!俺も感激だ、龍!!!」

「しかも月島と幼馴染だろ?よく月島は新奈さんじゃなくてなまえにいったよなあ!!」

「お前ら今日の議題わかってる?それ関係ないし、田中は発言に慎め?」

確かに新奈は美人だ。わかるよ。潔子先輩には劣るといってもなかなかのクールビューティ系。そのくせこうやって一緒にふざけてくれるわけだからね。

「はいはい本題に入るよ。まずなまえ!あんたは蛍に好きって言われた。これは間違いないよね?」

「間違いありません!!!」

そうだ。数日前に私は確かに月島の愛の言葉をこの耳で聞いた。

「まずそこが普段の月島からは想像できねえよな!!」

「おう、まさか幻聴じゃねえよな?!」

「んなわけあるかーい!!!」

確かに月島の口から“すき”という二文字が出てくるなんて、誰も想像しないだろう。むしろ月島蛍という人物に色恋のなんたらという感覚があるのかも定かでないのだ。

しかしさすがの私でもそんな幻聴は聞かない!!それはもう危ない香りがする方向だよ!!
なんといったって、月島も恋愛に興味がないことはないというのは中学生の時の私達の関係が証明している!……はず。

「田中くん、西谷くんの言う気持ちもわかる。けど多分蛍の気持ちは本当だと思う」

「おお……新奈さんが言うと信憑性がありますね!!」

「龍、ここはなまえのことを信じよう!!!」

いや最初から信じろよ。そんなつっこみはこの会議の時間も限られているため割愛。

「で!!問題は今のこの2人の関係」

そう、お互い好きイコール付き合うにならない面倒な性格の私たち。どちらの口からも付き合おうの一言は未だ出ず。
つまり関係性は新学期当初と何も変わらないまま、既にゴールデンウィークも終わり5月の中盤。これは由々しき事態だ。

「好き同士だからもう付き合ってるってことじゃだめなのか?」

「甘いな龍っ!!恋ってそんな簡単なもんじゃないんだぜ!!」

「おおっ、さすがっすノヤっさん……!!」

田中は目をキラキラとさせノヤを見る。いや、何がさすがなのかわからないけど。

「西谷くんの言う通り、好き同士ってだけで恋人になれるそんな甘い世の中じゃない。この世界はもっと辛くて苦しくて、でもそこに幸せを少しでも見出すことが喜びの世界なんだよ……!!」

新奈様はいつぞやの乱世で生きていらっしゃったんですか。

「みょうじは、月島と両思いなだけで満足なのか?」

常識人代表縁下がしっかりと議題に沿った質問をしてくれる。田中、こういう言葉に対してさすがって言ってあげてよ。

もちろん最初は、両思いなだけで充分だった。むしろ私なんかにはもったいなくてありがたいくらい。
しかし手に入れるともっと上を、上をと求めるそれがヒューマン。私たちの運命なのだ。

「月島と……、付き合いたいです!!!」

当たり前だろ!!こうなるだろ普通!!しかも私は中学の時1年間付き合っていたという大きなアドバンテージがある!!月島がモテるとはいえ、そこらへんの月島ラヴァーズに負けるわけにはいかねえ!!

「どっちかが腹をくくるしかないの、わかってる?」

……新奈の視線が痛い。その一歩がなかなか踏み出せないからこの会議があるのも同然なのだ。
今のお言葉を訳させていただきますと、『どっちかがちゃんと告らなきゃ何も始まらないけど蛍が告るわけないんだからお前がするしかねえぞ』です。

「無理無理私も無理!!」

「お前いっつも月島にすきすき言ってるだろ?!」

「そうだ!矛盾してるぞ!」

「西谷、矛盾って言葉知ってるんだな……」

縁下のつっこみはさておき、田中とノヤの主張もわからなくない。

しかしそれとこれは別だと何度言ったらわかっていただけるだろうか。

「付き合ってくださいって言うのは、好きって言うより何百倍もレベルが高いんだよ!!!」

中学の時の自分の告白シーンを思い出すだけで、今でも心臓が口から出てきそうだ。

「月島が私のこと好きじゃないかもしれないから〜でしょ?もう両思い確定なんだからいいじゃん」

手に持つマッキーで私を指す新奈はさっきまでノリノリだったくせに、私の決断力に欠ける言葉により既にイライラした表情で適当な返事になりかけている。
おい発案者しっかりしろ。まだ開始してそんなに経ってねえぞ。

新奈のそれも一理あるけどそうじゃない。そうじゃないんだよ。


「私ばっかりぐいぐい行くのは気に入らん……!!!!」

こんな場面でも、私の負けず嫌い根性は姿を表すのです。






その後議論は続き、今後の方針について二つの案が出た。

潔子先輩という完璧年上女子に魅了されてる組の田中とノヤの意見として、『年上の魅力を醸し出して月島を振り返らせる大作戦』。

私に対しストイックで鬼畜な腹黒い組の縁下と新奈の意見として、『押しすぎて駄目ならとことん引け大作戦』。

そして全ての決定権は議長の手の中。

「田中くんと西谷くんの意見は却下!!」

バッサリと2人の意見を切り捨てる新奈議長。しかも真っ当な理由付きだ。

「まずなまえが潔子先輩程の年上の魅力があるか、ないよね?」

「ないッス!!」

「潔子さんに失礼ッス!!」

「確かにないな」

「私に失礼だよね?!?!」

潔子先輩と私を比べるとか確かに無理だ。無理だけどみんなしてストレートにそれを言うのはひどくない?ひどいよね?

「あと、一回その作戦失敗してるよね?」

ギクッ、私が漫画やアニメのキャラクターだったら、今まさにこんな効果音がお似合いだろう。

「は?!お前いつそんなことしてたんだ?!」

「年上の魅力少しも出したことなくね?!」

一度失敗しているあの試みを頭の中で再生する。

「……合宿で、そういう一面を見せてやろうと」

ブハッと2人して吹き出すハゲチビコンビ。縁下も思い出したかのようにクツクツと笑い始めた。

「おまっ、ちょ、むしろ枕投げおもっきしやってたじゃねえかっ」

「真逆だろそれっ」

「私だって枕投げするつもりなかったし!!!」

あれはノヤによって無理やりやらされたようなものだ。不可抗力だ。
しかもそれが原因で月島とギクシャクしたし。……まああれのおかげで月島の気持ちがハッキリしたところもあったけど。

「ってことで、今日からの方針は縁下と私の言ったやつを試してみること!!」

押そうと思って押しているわけではない。本能的に押してしまうのだ。そんな私に引くことができるのだろうか。はたまた、引いたところで月島は離れていくだけではないのか。

私の心の声は、昼休みの終わりを告げるチャイムによって言葉にされることはなかった。





mokuji