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「おはよう!!!いい朝だね!!!」
「朝からうるさいんだけど」
「どうしてだと思う?!?!」
「蛍でしょ」
「せいかーい!!!」
ゴールデンウィークの合宿も終わり、今日からまた学校が始まる。教室に入ってみんなの顔を見ると、始まってしまった、まだ休んでいたいというような顔付きだ。
しかし、私は違う。ありがとう学校。学校があるから私の癒しがある。月島がいる。そして今日も平和な世界に感謝。
「私のこと好きって!!!好きって!!!」
「え、何。はっきり言ったんだ。それはおめでとう」
どうやら新奈は、どうせ少し優しくしてもらっただけだろうと思っていたらしく、思いの外ダイレクトな言葉を私が受け取っていたことに驚いていた。
「どうしよう!!!私今日からどうしよう!!!恥ずかしくて月島の顔みれねえぞ!!!」
「うん、だからわかったらから少し声小さくして」
「多分今日世界で一番幸せなの私だわ!!!」
「縁下こいつどうにかして」
「いや、これは無理だって」
教室に入ってきた縁下を見るやいなや、新奈は助けを求める。
多分私がいつも縁下は怖い逆らえない我らのドンだって言ってるからだと思うけど、甘いな。ハチミツより甘いぞ、新奈。
仮に今縁下に黙れと言われても私は黙る気はさらさらない。むしろ大声で宣言してやりたい。月島がとうとう私に好きだと言ったぞ、と。
「おはよう縁下!!!あのね聞いて!!!」
「はいはい月島な」
「そうなの!!!私のこと好きって!!!!」
「え?!?!」
これまた新奈と同じような反応で。
やっぱりみんな月島がそんなこと言うとは思っていなかったんだろう。私が一番びっくりしたよ。
「なるほどなー、それでこのテンションか」
「昨日の夜、スタンプ100件近く来たんだけど」
「新奈既読すらつけてくれなかったよね」
「ははっ、朝倉らしいな」
一通り縁下に昨日のこと説明。もちろん、しっかり仲直りもできたことも。
そんなこと話していれば朝の短い時間はあっという間に過ぎ、ホームルームが始まった。
「えーゴールデンウイークがあけてすぐだが、体力テストが始まる。休み前に言ったように、今日は2年生は持久走だぞー」
……え?今日月曜だから体育ある時間割じゃないよね?
…………え???
*
「はい馬鹿ー」
「どうしようどうしよう何でこんなに不幸なの」
「さっきまで世界で一番幸せだったくせに」
月曜日だから体育はないので体操着は家。合宿後の調整のため今日の部活はなし。よって部ジャーも家。
他クラスに何人か友達はいるが、今日の5、6時間目の持久走は2年生が全員駆り出される。終わった。これは終わった。
「さぼっちゃえばいいじゃん」
「は?!そんなの無理!!体力テスト絶対Aとりたいもん!!」
自分で言うのもあれですが、わたくしみょうじなまえ、運動神経には自信があります。中学生の頃からの体力テストの結果Aの連続記録を絶やすわけにはいかない。
「何で昨日連絡してくれなかったの?!私が覚えてるわけないじゃん!!」
「しようとしたけどスタンプの通知うざくてやめた」
「薄情者ー!!!」
くそ……、昨日調子に乗らなきゃよかった!!
「新奈ジャージ2着もってない?!」
「なわけ」
「ですよねー」
既にほとんどの人が着替え終えている昼休み中盤。周りを見て、早く着替えなきゃという焦りにかられる。
どうしたものか。潔子先輩に借りる……?いや、私ごときが潔子先輩のジャージをお借りするなんてだめだ。
「ぐぐぐぐ……」
「変な唸り声出さないでよ。部活の先輩とか後輩とかいないの?」
「うーん」
身長で言ったらノヤが一番近いけど、もちろん2年生なので向こうもジャージを使うだろう。
「あ!!!!」
「心当たりあったの?」
「うん、ありがとう新奈〜!!」
そうだ、我が部にはもう1人誇れるチビがいたではないか。
「縁下ー!!!日向って何組?!」
「日向なら……、1組?いや2組だったか?」
「わかんないけどわかった!!!その辺ね!!!」
昼休みはあと13分。間に合え私。全力で走れ。あ、うそ。持久走頑張れるくらいに力を残しつつ走れ。
日向を探すこと5分。
「ど、どこにいるんだよ……」
縁下の言っていた1組、2組を覗くが見当たらない。3組にも行ってみたが見当たらない。4、5組は進学クラスなのでスルー。
やばいってあと8分で昼休み終わっちゃうって。
「あ、みょうじ先輩」
「山口!!!」
途方に暮れているとそこには見知った顔。もうこの際誰でもいい。身長なんて気にしていられるか。こっちには時間がないんだ。
「山口ジャージもってる?!?!」
「あ、ありますけど……」
おお神よ、ありがとう。山口の周りには今キラキラとした何かが見える。
「貸して!!」
「え?!でも俺のじゃ大きいんじゃ……」
「関係ない!!!もう時間限られてるんだよー!!!」
私の必死さが伝わったのか、ここで待っててくださいと言われ山口は教室に向かった。
しばらくすると、山口は小走りでジャージを持ってきてくれた。
「ありがとう本当助かる!!」
「あのっでも多分サイズが……」
「まあなんとかなる」
「俺の身長ならまだ何とかなったかもしれないんですけど、それ俺のじゃなくて……」
手渡されたジャージ。そこについてる名前は“山口”ではなくて。
「ツッキーのなんです」
「まさかツッキー……?!」
「いやっあの、ツッキーが自分からじゃなくてっあ、の、すみません、俺も実はジャージなくって……」
それは仕方のないことだ。急にジャージを貸してくれと頼んだ私が悪いんだ。
月島が私のために……!!、と、昨日の今日だからと言ってさすがにそれはないよね、自重します。
「ごめん悪いの私だし!!多分でかいけどないよりまし!!ありがとうじゃあ時間ないから!!」
山口にお礼をつげたあと、終わったら返すー!と叫びながら私は更衣室へと急いだ。
*
「ツッキー、みょうじ先輩に渡してきたよ!」
「ああ、うん」
本当、素直じゃないなぁツッキーは。
遡ること数分。いきなり廊下でみょうじ先輩に呼び止められ、なぜかジャージを貸すことに。あ、確か2年は持久走だったな。明日は俺たちだ。
もちろんみょうじ先輩に言ったジャージがないなんて言葉は嘘。
急いで教室に戻り自分のジャージ手に持つと、「どうしたの」、と、ツッキーの声。みょうじ先輩に貸すって伝えた時のツッキーの顔といったら、不機嫌丸出し。
「どうせ山口のでもおおきいんだから、僕のでも変わらないでしょ」
そんな言い訳とともに手渡された“月島”と書かれたジャージ。ツッキーはこう見えて、みょうじ先輩に関することになるとすぐ嫉妬する。
自分の好きな人が他の男のジャージを着る……、うん、確かにいい気はしないだろう。
まあそんなツッキーもかっこいいけどね!!
本当のことをみょうじ先輩に言った方がいいのはわかってるけど、ツッキーはそれを嫌がるだろうし、俺が言わないだろうってわかってる。
そういうのは本人たちに任せる方がいいに決まってる、俺の出番じゃない!!頑張れツッキー、みょうじ先輩!!
多分今頃みょうじ先輩は、朝倉先輩とかに「ツッキーのジャージ!!!」とか自慢してるんだろうなあ。
mokuji