05


青城との練習試合は、もちろんいい経験になった。烏野バレー部の課題はまだまだたくさんあるのだ。

「私も、やらねばならぬことがある……!!」

「そういうのいいから」

今日も今日とて、新奈とお昼を共にしております。楽しいね、うん、今サラッと私の話流したよね?
私の部活があるから朝も放課後も一緒にいられない分、昼休みは新奈と過ごすことにしているが、今年度に入ってからは私と話す時の新奈は少しご機嫌斜めだ。

「どうせ、『次会った時こそ月島に告白する!』とかでしょ。何回も聞いたわそれ」

ていうか毎日会ってるんだからあんたは何回逃げてることになってんの?と、ありがたいお言葉。
そうでーす、朝倉さんは私と月島の関係にイライラしていらっしゃいまーす。

「オッシャ!って思うんだけど、いざ告白しようとすると恥ずかしくて……むり……」

なんだ私は乙女か。可愛い。

「いつも好き好きかっこいい言ってるでしょうが」

「それとこれは別なの!!まず月島の方から私のこと好きなオーラが1ミリも出てないから恐ろしい!!!」

再会してからというものの、私はしつこい程毎日月島に話しかけている。まあ小中学校の時と何も変わらないけど。

「いつも通りだわ、小学生の時から出してないから」

うん、だよね、知ってるよ、月島の態度も小中学校の時と変わらないよね。

「新奈ぁーどうしようーー」

わざとらしくうなだれる私に、新奈もこれまた変わらないあの呆れたような顔をしてくる。

「なんで一回できたことができないのよ、しかも成功してるんだからさ」

「今でもおかしいと思ってる何で月島が私と付き合ってたのかわかんない」

中学生二年生の終わり、私はありったけの勇気を使って月島に告白をした。普段緊張とかしないのに、その時はもう、初めてのお遊戯会並の心臓バクバク感だった。

「なまえさー、」

新奈ママの作った美味しそうなお弁当を食べる手を止め、箸で私の方を指差す。
こら、新奈ちゃんお行儀悪い。

「いっつもそうやって言ってるけど、ちゃんと蛍はなまえのこと好きだったってば」

「新奈もそれいっつも言ってる」

「本当のことだもーん」

再びお弁当を食べる手を進める新奈。

「でも、今はどうかわかんないし……」

今大事なのは昔月島が私のことをちゃんと好きだったということではなく、今の月島が私をどう思っているかだ。

「結局まだ最初に一緒に帰っただけだし」

実際はこの前山口もいれて3人で帰ったけど。あれはノーカン。
ちなみに潔子先輩のことはちゃんといつもの所まで送って、チャリをかっとばして月島山口においつきました。

「それはなまえが潔子先輩と帰らなきゃいいだけでしょ」

「だめ!!!!」

「それじゃ帰るのは諦めな」

じゃあどうすればいいっていうんだ。助けておくれよ新奈。
月島のこととなると、私は新奈に頼りっぱなしだ。それは私が単に恋愛に慣れていないのもあるし、月島については新奈がよく知っているからでもある。あとはやっぱり新奈本人が頼りになるから。

「飲み物買ってきまーす」

話に夢中で気づかなかったが、今日は水筒を忘れていたみたいだった。
お弁当食べ終わった後に何か水分を欲する私は、自動販売機へと向かうことにした。

「ついでに私のミルクティー!」

「えー、じゃあ新奈も一緒に行こうよ」

「私次の時間の古典の訳終わってないからさ。あ、なまえの写させてもらうね」

と、勝手に私の机から古典のノートを取り出す。おいお前。

「お金はお礼代含めてなまえの分まで払うからさ」

そして500円を私に手渡してくる。

「……仰せの通りに」

そしてそれにまんまと釣られる私であった。





「面倒くさ……」

教室を出て少し歩き、自販機の前に立つ。そこで私は気付いた。
ミルクティー、2年の階の自販機に入ってないじゃん……。
ミルクティーを買うためには、1つ下の階に行かなければならない。もういっそのことここにあるもの適当に買おうか、でもお金もらっているし、色々と葛藤はあったが、新奈様のためにミルクティーを求めに階段を駆け下りた。

「あ、」

階段をおり、自販機へと向かう途中。他の人よりも少し上にある色素の薄い頭を見つけた。

「ツッキー!!」

新奈様ありがとう。そうだ、1つ下の階は一年生だった。まさか月島に会えるとは。
手を振りながら月島の方へ駆け寄ると、ペコ、と頭を下げてくれた。

「ここ一年の階ですよ、頭の中はまだ新入生ですか?」

「違いますぅ〜新奈のおつかいでミルクティー買いにきたんですぅ〜」

新奈、と名前を出すと月島はいつも嫌そうな、気まずそうな、なんとも言えない表情をする。

「……なまえさんは?」

「えっ」

「何買うんですか」

一瞬間を空けて聞くもんだから、最初何を聞かれているかわからなかった。というより、久々に名前を呼ばれたことに動揺したという方が正しい。
部活で何回か名前を呼ばれる機会があったが、月島は周りに人がいると私のことをみょうじ先輩と呼ぶことが多い。これは、付き合っていた頃から変わらずで。
まあ廊下だから周りに少しは人いるけど、知り合いが近くにいない場面で会うのは久々で、もちろん名前をよばれるのも久々だった。

「あっ私は純水アップル!!」

「まだ好きなんですか、中学の時もそれ飲んでましたよね」

中学生の時から私が何かにつけて純水アップルを飲んでいたことを、月島は覚えてくれていた。
最初の頃は、『りんごジュースとか幼稚園児みたいですよ』とか、まあそんな感じのことをよく言われたものだった。

「好きになったものは、ずっと好きだよ」

月島のこともね、こうやって言ったら、なんと返ってくるのだろうか。
普段勢いで好きとかかっこいいとか言ってるけど、本気の“好き”を、私は言えない。

「まあ、僕もそうですけど」

じゃ、失礼します、ペコリと頭を下げて、月島は教室へと戻ってしまった。
僕もそうですけどって。いや違うから。私が言ったのはまだ月島のことも大好きだぜって意味で言ったんだよ。君の好きになったものはずっと好きと私のはスケールが違うんだ。





「ツッキーおかえり!遅かったね!」

「ああ、うん」

昼休み、ツッキーは日向に貸した地理の教科書の返却を催促するために1組へと行っていた。戻ってきたツッキーを見る限り、きっと日向は家に忘れただの部室だだの言って、まだツッキーに教科書は返っていないらしい。
今日は地理がないとは言え、明日提出の宿題があるのだ。そのためにツッキーはわざわざ1組に行ったというのに、目的は果たせず。
普段なら相当機嫌が悪くなるはずなのに今日はなんだか少し穏やかな気がした。

「何かあったの?」

気になって聞くと、ツッキーは若干目をそらしながら答えた。

「……別に、みょうじ先輩と会っただけ」

そういうことか、納得がいく。ツッキーはみょうじ先輩絡みになると、やっぱりどこか嬉しそうだ。ツッキーには言わないけど。

よかったね!、とだけ返事をする。きっと俺の口元の笑みは抑えきれていなかっただろう。

「あの人が進学クラスとか、本当意味わかんない」

「いやいや、中学の時から結構頭よかったじゃん!」

ツッキーがみょうじ先輩の話題に対して続けてくるのは珍しい。ツッキーは、みょうじ先輩の話は基本的にしたがらない。まあそれも照れ隠しなんだろうけどね。

「僕が言ってることの意味、絶対わかってない」

俺も今ツッキーが言ってることはあんまり理解できない、と思ったが、恐らくみょうじ先輩に遠回しで自分の気持ちを伝えたりしているのだろう。
ツッキーは、直接的にみょうじ先輩に気持ちを伝えることは滅多にない。
中学生の時、どこからどう見ても明らかにツッキーもみょうじ先輩も両思いなのに、みょうじ先輩にはツッキーの気持ちは少しも伝わっていなかったのはツッキーがそんな素振りを意地でも見せなかったからだ。

「……告白、しないの?」

恐る恐る聞いてみると、ツッキーは考え込んでから、さすがツッキー!と言いたくなるような答えを出してくれた。





「……告白、しないの?」

核心をついてくる山口は、少したちが悪い。

僕が絶対に告白をしないのは、ただ単に自分がそんなこと、という気持ちがあるからでもある。
ただ、もう1つ理由はあって。

「僕のことどうにかして振り向かせようとしてるのみるの、楽しいし。まああそこまで鈍感なのはちょっと理解できないけど」

もうとっくに、なまえさんのことは好きで好きで仕方がないというのに。



mokuji