03


練習試合がきまった、らしい。
相手は強豪校の青葉城西。何度もその名前は聞いたことある。そんな学校と練習試合できるとは、みんな思ってもいなかっただろう。これも全部、武田先生のおかげ、なんだけど……。

「絶っ対おかしい、こんなのおかしいです、私は認めません」

「まあまあみょうじ、ちょっと落ち着けよ…な?」

苦笑いの大地さんを目の前にして、私は絶賛ご機嫌ななめ中だ。
私をなだめる大地さん、隣で慌てる旭さん、そしてその中でも爽やかなスガさん。

部活が始まる前の十数分しかない時間だが、4人で体育館の水道前で話し込んでいる。
はたからみれば、上級生の男3人が下級生1人、それも女子にけしかけているように見えるのだろうか。さっきから部活に行くであろう人達がチラチラとこちらを見てくる。
しかし実際は別で、むしろけしかけているのは私の方だ。

「影山がどんだけすごい奴なのか知りませんけど、そんな条件ってありなんですか?!?!」

そう、影山をセッターで出す、その条件に私は怒りを抑え切ることができなかった。
だっておかしくない?うちの正セッターは紛れもなくスガさんなのに、何でついこの前まで中学生だった奴を指名するのかがわからない。
影山が中学でスーパープレイヤーだったとか、王様って呼ばれてたとか、そう言う問題じゃない。

「スガさん!!!スガさんだってそれでいいんですか?!悔しくないんですか?!」

「悔しいよ」

勢いに任せている私の問いかけに、きっぱりと答えるスガさん。

「悔しい。けど。そうすればみんなのためになるなら、俺はもっと努力するしかないべ!」

ニカッ、と笑い、そして、グッと、私に向けて親指を立ててくる。
そっか、スガさんもスガさんなりに考えてのことだったのに。私は勝手に自分のわがままを押し付けようとしていた。

「……ごめなさい」

「いやいや、みょうじが謝ることじゃ……!!」

「旭さんも、大地さんも、ごめんなさい。私勝手に1人で怒りを口にして。みんな思ってますよねそんなの。本当に、あの、ごめんなさい……!!」

素直に謝る私に、さらに慌てる旭さんはどれだけへなちょこなんだか。

「よしっ、まあそういうことだ!そろそろ準備して部活始めるぞー」

「だな!」

「あ、あぁ……」

気を取り直そう、というふうにいつもの笑顔に戻る大地さん。それに応じるスガさん。未だ色々心配そうな旭さん。
3人は部室へと歩き出した。

「あの!!」

その3人を最後に呼び止める私。

「だから、私、そのクソみたいな条件出してきた奴、どんな奴であろうと会った時言いたい事言ってやりますから!!!」

みょうじならそういうと思ったよ、と、3人が3人同じ顔をしていた。

青城戦、練習試合だろうと何だろうと絶対勝つしかないのだ。





「……は?今なんて?」

「いや、だから、向こうのセッター、正セッターじゃないっス、多分」

「……は???」

おいおい影山くん、何を言っているんだ。ということは、この場にあの条件を言い出した奴はいないというのか。

「は?何?烏野くらい控え選手でも出しときゃ勝てるだろとか思ってんの?ちょっと私一発殴って、」

「おいなまえやめろ!!!大地さんが怒っていらっしゃる!!!」

田中の制止なんてこれっぽっちも入ってこない。
さっきまでは絶対勝つと意気込んで、ああ青城相手でもサラッといつもの感じでディスってる月島かっこいいな、とか、田中は威嚇しててもただただガラ悪いだけなのにさすがツッキーだな、とかしか考えてなかったのに。

こちらに条件を出したくせに当の本人はいないときた。この怒りの矛先はどこに向けるべきか。
よーし、とりあえず一番でかそうなの殴っとくか……、と思っていた時に、誰かにグイッとティーシャツの首根っこを掴まれた。

「う、ぐ、苦しい……」

「ちゃんとマネージャーの仕事してくださいよ。それともこっちより青城の世話したいんですか」

その犯人は月島。
つ、月島が、私を必要としている……!!!

「そんなことない!!私は月島のいる所にいくから!!」

月島が私に話しかけてくれたことが嬉しくって、自分がさっきまで何に怒っていたかということすら忘れて、私はテキパキとマネージャーの仕事をこなしていた。
もちろん潔子先輩が他校のやからに手を出されないようにしっかりと見張っていることも忘れなかった。





「月島、なまえの扱いになれてるんだな!!おかげで大地さんが怒鳴らずに済んだぞ……!!」

俺なんて1年経ってやっと制御できるくらいだぜ、やれやれという顔の田中さん。
自分だって散々西谷さん達とどんちゃん騒いでるくせに何を言っているんだ。ついでになまえさんとだってガヤガヤ騒いでいるではないか。扱うとか制御するとか以前に、田中さんもそちら側の人種だろう。
適当に、田中さんの扱いはまだうまくできません、とか返事をしようと思っていたはず、なんだ。

「まあ、付き合い長いんで」

少し意地を張ってしまったと思う。何、付き合い長いって。
突発的に出てしまった言葉は、田中さんの“1年経って”というセリフに何らかの対抗心を燃やしてしまったからだろう。僕はもっと前からあの人を知っているんだ、という優越感を味わいたかったのかもしれない。

「ツッキー!そろそろ始まるよ!」

「山口うるさい」

「ごめんツッキー!」





試合は烏野が勝った。だけどやっぱり、何だか納得がいかない。あのスーパーイケメン野郎のせいだ。

「あのイケメン風ふかしてるセッター、すごい腹立った!!」

試合後、みんな着替え終わってゾロゾロ集団で歩く。そこで行われる批評会。

「ああ俺もだなまえ!!」

「お前ら少しは静かにしろよ!!」

色々文句を言うこと言ったり、大地さんからありがたい言葉を頂いたり。疲れたし少しむかついたけど、なんだかんだ楽しかった一日だ。
そう思っていたのに、

「おぉ〜、さっすがキャプテン。ちゃんとわかってるねぇ〜」

が、イケメン野郎……。

「なんだコラァ」

「何の用ダァ」

「イケメンだからって調子乗んなヨォ」

「いや、最後の完全に女子目線入ってるから、みょうじ」

縁下の冷ややかな言葉は無視。無視無視。田中と日向と3人で威嚇丸出しだ。やってるぞコラ。

「そんな邪険にしないでよ〜」

ちっちゃい君、と、イケメン野郎は日向を褒め始めた。お?実はいい奴か?

「あっそうそう。もちろんサーブも磨いておくからね」

プチン、私の中で何かが切れる音がした。え、割と初めからガチギレしてるだろって?そんなの気にしない。

「おいスーパーイケメンクズ野郎大王様ァ!!さっきから言いたいこと言ってるみたいだけど体調管理も実力のうちなんだから今日遅れてきたお前は実力不足だから!!あと月島に喧嘩ふっかけるならまず私を倒してからだから!!!デェス!!!!」

「体調というか、怪我なんだけどな」

「正論なのかそうじゃないのかわからんな。あと最後のは一応先輩だから敬意払ってるつもりなのか?」

「菅原さんもキャプテンも突っ込むところそこだけじゃないんですけど。僕のくだりいりました?」

色々な方面からつっこみがくるが、そんなことはお構いなしに私は続ける。

「あと!!うちのスガさんは誰が何と言おうとも烏野のセッターなのは変わりありませんから!!!」

今度はうまく敬語使えた。よし。

「……君、面白いね。正直烏野のマネちゃんはもう1人の美人さんしか興味なかったけど、君も気に入ったよ!よく見たらそこそこ可愛いし!」

「はぁああ??」

「及川さん、そういう強気な子も好きだよ、じゃっ」

最後にウインクをして、去って言った。うわあ、イケメンはやっぱりあんなキザなことをしても様になるんだ。
いや、そうじゃない。

「月島!私はあんなイケメンよりも月島の方が何百倍も好きだからね!!レシーブ練して見せつけてやろう!!2人の愛の力を!!!」

「いや、いいです。僕とみょうじ先輩に愛とかないです」





「あいつ、バラすなとか言ってたくせに本当あからさますぎだろ……まあもうみんな知ってるけど……」

「ん?何か言ったか縁下?」

「や、何でもない……」

mokuji