4.雨上がりの空
2012/01/26

物音がした気がして、目が覚めた。
冷えた空気に身を投げる。
冷たい床を蹴る。

けれども、君の姿はない。

「またか、」

いつの間にか朝だった。
一週間と一日目、

「いつまで、待ってるつもりなんだか」

知っていた、家にいたって仕方のないことくらい。
気づいていた、君を探しに行けばいいことくらい。

いなくなっても、変わらず募る想いに、胸が締め付けられた。苦しかった、会いたかった。探しに行こうともした。

けれど、怯えていた。
君に会っても、もしかしたら、君は、


―怖くて、たまらなかった。


玄関に背を向けた。
冷たい床を踏みしめた。


あと、6日、
君が居なくなって二週間たったら、
そうしたら、そうしたら、


「そうしたら、どうするって言うんだ。」

自嘲して、唇を噛み締め、息を吸って、吐いた。

「   。」

その時、ノック音がした。
チャイムがついてるにも関わらず、だ。

「なんだ?」

ノック、ノック、ノックノックノックノックノックノックノックノックノックノック

音がどんどん大きくなる。
わけもわからず、ぐいっと扉を開けた。

飛び込んできたのは、

「―え、」

満面の笑みの君。

息を呑んだ。
それから口を開こうとした瞬間、痛みと共に顔が曲がった。

「っつ!」

横面をひっぱたかれた、そう理解する前に、彼女はぐいっと何かを押し付けた。
紙のような質感。
その何かを見る間もなく、視界が彼女でいっぱいになった。

 ちゅっ

軽く、優しい接吻。
すぐに離れて、また彼女は笑った。
楽しくて仕方ない、というようにも、少し泣きそうにも見えた。

それから、僕に押し付けた何かをそっと取り上げ、僕に見せた。

目に飛び込んできた二文字を見て、頭の働いていない僕は、たっぷり一分間、じっとその文字の意味を考えた。
それから、彼女を見つめて、泣きそうに笑い、彼女を優しく抱き締めた。


「婚姻」の二文字が滲んだ。
(愛しのお姫様、僕を救ってくれた君を絶対絶対絶対、誰よりも幸せにすることを誓います。)



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