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  ジレンマ







もう既に全世界共通の常識として当たり前の事だが、あえて言ってやる。

十代目は素晴らしいお方だ。

畏れ多くも十代目に牙を向けた俺を救って下さった懐の広さ。
本当は争いなんてお好きじゃねぇのに俺たちの為に戦って守って下さる腕の暖かさ。
傷付くのは敵でさえ嫌と仰る心根の優しさ。

まだまだ十代目の素晴らしいところを挙げてったらキリがねぇが、世界中何処探したって十代目以上に十代目になるべく器の方はいない。

しかも、だ。高校に上がられてから身長も伸び、顔つきも少し大人っぽくなられて、


「獄寺君っ!」

「っ! じゅうだいめ…」


ますます渋く壮絶に格好良くなられた…っ!
俺は今まで生きてきた中で十代目程完璧なお人を見た事がねぇ!


「獄寺君…?どうしたのボーっとして」

「い、いえっ!何でもありません!」

「そう?」


そんな十代目の右腕となるべくお側にいさせて頂いてから四年。

何故一向に女の影が見えない…?

次期ボンゴレボスという肩書きは知られてないにしろ、こんだけ性格容姿共に素晴らしいお方は十代目だけだっつーのに。
勉強の方は少し苦手な様だが、そこがまたお可愛らしい。

まじ世の女共の目は腐ってやがるとしか思えねぇ。
十代目なら女の六人や七人ははべらかしてたってなんら不思議じゃねぇのに、影すら見えねぇなんてUMA以上に世界の謎と不思議だ。


「ね、山本は部活の集まりがあって少し遅れるみたいだから、先に二人で昼ご飯食べてよう?」

「はいっ!山本の野郎なんて一生来なければいいですねっ!」

「また獄寺君はそんな事言って〜」


そう困った様に笑われるお顔も、凛々しさの中に昔の幼さが見え隠れしていて、とにかく男の俺でも見惚れてしまう程格好いい。
………なるほど、十代目があまりに素晴らしすぎるお方だから周りの女共は謙遜してんのか?
確かに十代目と釣り合う様な女なんてそうそう居ねぇが……


「あ、あのっ!」

「え?」

「……あ?」


なんだ?この女。
見た事ねぇ面だな。そんな事より、折角十代目と二人きりの昼メシの時間を邪魔しやがって。


「さ、沢田先輩、少し…お時間いいですか…?」

「……………えっ!?お、俺っ!?」


………………この女、十代目に気があるのか……見る目があるじゃねぇかっっっ!!!
これは告白だとかそんな類のもんに間違いねぇ。
まぁ見た目はそこそこだし、これなら十代目もこの女と……


「え、えっと、でも俺今から獄寺君と……って、獄寺君?」

「はっ、は、はいっ!?」

「どうしたの?具合でも悪い?」

「い、いえっ!」


なんだ?
なんかこう…胃がムカムカっつーかモヤモヤっつーか……とにかくスッキリしねぇ。
十代目は素晴らしいお方で、俺が生涯をかけて忠誠を誓う唯一のお方で。
そんな十代目が女を召しかかえるなんて当然で、言い寄らない女共の目は節穴で、でも今この女は十代目を好きで……
俺は……この女が嫌なのか…?


「獄寺君?」

「あ、えっと…」


いや、俺がこの女をどう思おうと、お決めになるのは十代目だ。
右腕の俺がとやかく言うなんて差し出がましいにも程があんだろ。


「十代目、どうぞ俺の事はお気になさらずいってきて下さい!不本意ではありますが、野球バカと二人で十代目のお帰りをお待ちしてます!」

「えっ、ちょ、」

「では、ごゆっくり!」

「獄寺君っ!」


背を向けた俺に十代目が何か仰られているが、十代目とあの女を見てると変な事口走っちまいそうで振り向けなかった。




「おっす獄寺!待たせて悪りぃな!」

「…テメェなんか誰が待つかよ」


屋上で十代目のお帰りを待ってたらすっかり忘れてた野球バカが来やがった。


「あれ、ツナはどうした?」

「っ……」


まただ…なんだこの感じ……


「…十代目なら女と一緒だ」

「…はっ!?女!?」

「十代目に話があるんだとよ」

「あ、あー…なるほど、ツナがなー」


……今頃十代目はどうしていらっしゃるだろうか。やっぱあの女の告白をお受けなさるんだろうか。
愛人?恋人?どっちにしろそしたら十代目の特別に、あの女が……
あぁっくそっ!!!
こんな感覚初めてだっ!!!


「んで、獄寺は何でそんな顔してるんだ?」

「…そんな顔ってどんな顔だよ」

「んー、不安?そうな顔」

「ばっ、誰が…っ!」

「まぁまぁ、だけどなんかこう複雑だよな!ツナの幸せは素直に嬉しいのに、寂しく思うところもあるっつーか、ジレンマ?っていうんだっけか、こういうの」


ーーっ!
ジレンマ…?


「獄寺君っ!!!」

「じゅ、十代目っ!?」

「お、来た来た!獄寺、たまには思ってる事を素直に言ってみ?その方がツナは喜ぶと思うぜ!」

「は?何言って…」

「じゃ、俺教室戻るわ!獄寺ファイトなっ!」


そう言って山本は颯爽と消えてった。
あいつ、何しに来たんだ?昼メシは?


「ね、獄寺君」

「ぅあっ、は、はいっ!」


山本なんかの野郎に気を取られてたらいつの間にか真剣なお顔の十代目が俺の目の前まで来ていた。


「…何でオレの目、見てくれないの?」

「そ、そんな事はっ…」

「あるよね?」


じゅ、十代目が怒ってらっしゃる…!
なんでだ…?まさか素直に祝賀出来ないのが十代目にバレて、それでお怒りにっ……


「…あのね、さっきの人の事なんだけど…」

「すっ、すみませんっっっ!!!」

「えっ!?な、何急にっ!?」


野球バカに言われたからって訳じゃねぇが、十代目に俺の気持ちがバレた以上素直に言うしかねぇ…。
元々、十代目は人の気持ちに敏感な方だし、俺なんかが隠し通せる筈もねぇんだ。


「お…俺、は……十代目があの女を召し抱えるのを、素直に喜べませんっ…!」

「えっ………って、め、召し抱える!?」

「十代目はお優しくてお強くて、本当に素晴らしい方です!だから女が何人もいて当たり前だと思うんです。この気持ちは本当です!」


そうだ、こう思う気持ちは本物だっつーのに…


「で、ですが…なんというか、女に十代目がとられるのが嫌だっつーか、その……」


あぁあー何言ってんだ俺っ!
とられるってガキかっ!!!
そもそも十代目は俺のでも誰のものでもねぇっつーの!!!

……だが、言葉にしてなんとなくわかった。
十代目とあの女が関係を持ったら、今までと同じ様に十代目のお側にいられなくなる。
ボスの右腕っつー十代目に一番近い立場が、ボスの女っつー特別な立場のせいで遠くなる。
それが嫌で仕方ねぇんだ。


「………すみません、部下の分際で何言ってんだって感じですよね。十代目にこんな事言える立場じゃねぇってのに…」

「……………」


さっきから十代目は黙って俯いてらっしゃる。
やはり身の程を弁えない俺に呆れているんだろうか……


「俺は、」

「…はい」

「俺は獄寺君が好きだっ!」

「………………はい?」


……十代目が俺を好き…?


「だから、俺は彼女とか、召し抱える?様な人を作るつもりなんて無いよ!獄寺君に、君にこれからもずっと一番近くにいて欲しい!!!」


……俺は夢でも見てんのか…?
十代目が、十代目が……


「…十代目……俺、嬉しいですっ!」

「えっ、じゃあ…!」

「十代目が俺の事を右腕と認めて下さるなんてっ!!!!」

「…………は?」


まだまだあくまで自称右腕に過ぎなかった俺を、ついに十代目が認めて下さった…っ!
しかも右腕の俺さえ居れば女なんていらないとまで言って下さった!!!
部下にとってこれ程光栄な事はねぇ!


「十代目っ!俺も貴方の事を心から敬愛していますっ!右腕として、この獄寺隼人!一生を掛けて十代目にお仕え致しますっ!!!」

「あぁー………ありがとう…」


やはり十代目は偉大だっ!
貴方があぁ言って下さったから、ジレンマだかなんだか知らねぇがあんな訳わかんねぇもん吹っ飛んじまいました!

女なんかにビビってまじ格好悪りぃ。
女と男なんて不確かなもんより、ボスと右腕っつー確固たる関係で俺と十代目は結ばれたんだ!
十代目、俺、貴方のお気持ちを無駄にはしません!
これからも一生お側にいます!
大好きです十代目っ!







「ね、山本」

「ん?」

「いくら好きって言っても気持ちが伝わらない気がするんだ。なんでだろう…」

「あぁー、獄寺の場合長期戦だなっ!」

「はぁ………」

「でもツナも隅に置けないのな!女子に告白されたんだろ!?」

「あぁあの子。そういえば獄寺君に彼女はいるのか好きな人はいるのかしつこく聞かれたなぁ」

「あぁー………」








end 

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