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  ホワイトデー







「散らかってますが、どうぞお入り下さい!」

「お、お邪魔します」



と……とうとうきた。
そう、ホワイトデーが。

先月のバレンタインに、獄寺君からまさかの手作りチョコレートを貰った。
すごい嬉しくて幸せで、オレも少しでも獄寺君に気持ちと感謝を返せる様に死ぬ気で準備してきた。

あとは獄寺君にお返しするだけなんだけど…



「十代目?どうかしましたか?」

「えっ!ううん何でもない!」



き、緊張する……っ!
何をあげたら獄寺君は喜んでくれるのかめちゃくちゃ悩んだ末に、ジョットさんの提案に決めた。
それを成功させる為の、獄寺君家にお邪魔するって言う絶対条件1は難なくクリア出来たんだけど…



「十代目!ジュース持ってきました!」

「あ、ありがとう」



む、むむむ無理!!!
た、確かにこれをプレゼントしたら喜んでくれるだろうとは思うけど、それは完璧な状態だったら、だ。
だけどオレの場合全部が初めてだったし、期間だってたった14日間しかなかったからそりゃあもう酷い有り様だし、何しろ獄寺君だよ!?
絶対恥をかいて終わるって!!!



「十代目?あの、やはりどこかお身体の具合でも…」

「え、そ、そんな事ないよ!」

「ですが…さっきから黙ってらっしゃいますし…も、もしかして俺、何か十代目のお気に障る事しちまいましたか!?」

「えっ!?ち、違うよ!そんなんじゃ全然なくて!」



そう否定しても獄寺君の目は不安そうに揺らいでいる。

ああもう!だからオレはダメツナなんだ!
喜んでもらいたい人にこんな顔させてどうするんだよ!



「…獄寺君、ちょっと貸してもらいたい物があるんだけど」

「はい…?」









「あ、あの十代目?ピアノなんか…どうするんすか?」

「…………」



部屋を移動して、ホワイトデーを成功させる為の絶対条件2、獄寺君のピアノの貸してもらう、もクリアした。

最後の絶対条件は…



「今日はさ、ホワイトデーだろ?」

「え…………えっ!!!???」



え…ちょっと待って何その反応。
もしかしてホワイトデーを忘れてた?
あぁ、そういえばジョットさんがイタリアではホワイトデーなんて無いって言ってたっけ…。
でもバレンタインの事を勉強したんだから、ホワイトデーの事だって意識しててもおかしくないだろうに。
でもそんなところが獄寺君らしいっていうかなんていうか…。

未だ驚きに声が出ないといった感じの獄寺君が可笑しくて、でもすごく可愛くて、ふと身体から変な緊張が解けた。



「オレね、獄寺君からのバレンタインチョコ、本当に嬉しかったんだ。だからオレも少しでも獄寺君に喜んでほしくてさ」

「そ、そんなっ…俺なんかに気を遣って頂かなくても…っ」

「もう、そんなんじゃないんだってば!オレが喜んで欲しいんだ。大好きな君に」

「じゅうだいめ…」



よし、最低条件その3!!!
失敗しないで弾くっ!!!
例え練習時間が短かったと言っても、精一杯練習してきたんだ!
獄寺君の為、自分の為、今日から脱ダメツナだ!!!









終わった……何もかも。
酷いなんてもんじゃないよコレ…。
一回失敗したらもう頭真っ白になっちゃって、それからはただ単に順番に鍵盤を叩いてる状態でメロディーもくそもなかった…。



「あ……あの、ごくでら、く…」

「……………」



ご………獄寺君黙っちゃったよぉおお!!
オレに盲目な獄寺君だって、流石に呆れちゃったよな…
ど、どどどどうしよう…まさかこんなに音楽の才能がないとは…別れて下さい、なんて言われたら…な、泣きたい…っ!!!



「え、えと、獄寺君あの…」

「……っ……」

「え………」



どうにか最悪な事態を避けるべく獄寺君に近付いたら、獄寺君は泣いていた。

……………ま、ままままずい…な、泣く程酷かった!?
ああぁーやっぱり獄寺君にピアノなんて弾いて聞かせるんじゃなかったっ!

さっきの決意を全力で台無しに出来る程に一人オロオロしてダメツナっぷりを晒していたら、急に暖かいものに身体が包まれた。

それが獄寺君だと気付くまでにそう時間は掛からなくて、



「えっ…え…?ごくでら…くん?」

「じゅっ…だっ……いめ…っ」



獄寺君は一生懸命嗚咽を我慢しながらオレの名前を呼んでくる。

どうしたらいいかわからなくて、ただただ獄寺君を抱き締めてあげる事しか出来ない。
もうほんと…ダメツナ過ぎだろ…。



「えっと…ごめんね?酷い演奏だったよね」

「っ!!! そ、そんな事ありません!」



そう謝ると獄寺君はすごい勢いで否定したきた。



「俺…十代目からホワイトデーを頂けるってだけでもすげぇ嬉しいのに、まさかピアノを演奏して下さるなんて…もうなんつーか幸せすぎて、止まんなかったっす」

「獄寺君…」

「ね、十代目。今弾いて下さった曲、なんつータイトルかわかりますか?」

「え?う、うん!"エリーゼのために"でしょ?」



というか、これしか知らない…。ピアノなんて今まで音楽の授業でしか触った事なんてなかったし、勿論曲だって全然知らない。
でもそんなオレでもこの曲は聞いた事あるし、何より初心者でも弾きやすいという事からこれに決めた。
それに"エリーゼのために"の"エリーゼ"を"獄寺君"にしたら、なんかそれっぽいかなとか思ったり。



「はい。実際は"エリーゼ"という名前ではなく、"テレーゼ"という名前だったらしいっすよ」

「へぇ、そうなんだ」

「そしてこの曲は、ベートーベンがテレーゼとの身分違いの恋を謳った曲なんです」

「えっ………」



み、身分違いの恋って…



「お互い深く愛し合いながらも、貴族だったテレーゼとの許されない恋に、楽しかった頃の思い出、報われない辛さ悲しさをベートーベンがこの曲に託したらしいです」



……そんな…オレの安易な理由で、オレはそれを君に聴かせたって事…?



「まさに俺の曲みたいっすね」

「違う!!!」

「っ!?」



違う…オレは君にそんな顔をさせたかった訳じゃない。ましてやそういう意味で弾いたんでもない。



「ごめん、獄寺君…オレ何も知らないで、ただ簡単なのと、恋人に宛てた曲っぽいって理由だけで、この曲を選んだんだ」

「じゅうだいめ…」

「でも、この曲がどんな曲でも、オレと獄寺君は違うよ」



確かにこの曲は報われない恋の曲かもしれない。そこに獄寺君が共感しちゃうのも君の性格上仕方ないのかもしれない。

でも、



「オレと獄寺君は報われない恋なんてしてない」



それだけは譲らない。



「オレも君もただの中学生で友達で恋人だ。確かに男同士っていう壁はあるかもしれないけど、オレは一生、君を離すつもりはないよ」

「っ………」

「それにこんな幸せなんだもん。報われてない訳ないじゃん」

「…っ…じゅ、じゅうだいめぇ…」



また泣き出してしまった獄寺君に、今度はしっかり抱き締めてキスをする。

未来の事なんてわからないけど、もしオレがマフィアのボスになってみんなから何か言われても、そんな事で獄寺君を手放せる訳ないんだ。



「獄寺君大好き…」

「俺もっ…好き…です…」



こんなに君が好きなんだから。









「と、ところでさ…ほんとごめんね?オレの考えなしのせいで君を悲しませちゃって」

「いえ!そんな事ありません!俺、本当に嬉しかったんです!!だって十代目、ピアノはお弾きにならないでしょ?」

「う、うん…だからあの有り様だったんだけどさ…」

「それなのに十代目が俺の為に一生懸命弾いて下さった事が、本当に嬉しくて幸せだったんです!他のどんな奴が弾いた"エリーゼのために"よりも十代目が弾いて下さった"エリーゼのために"が一番美しい旋律を奏でてました!」

「…また君はそんな盲目な事を……」

「本当です!それに十代目が弾いて下さったからこそ、この曲が俺の特別で大切な曲になりました」

「獄寺君……でもよかった、君が少しでも喜んでくれて」

「はい!俺は本当に幸せ者です!」

「こほんっ、それじゃあ改めて、」

「?」

「              この曲を捧げます」

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!???」







"Per il mio Tesoro prezioso."

ーオレの大切な宝物の君へー








end 

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