ヤキモチの後で |
ある日、いつも通りの朝を迎え、いつも通り俺の事を待ってくれているだろう大好きな人の元に行くと、そこにはいつも通りではない彼が居た。 「獄寺君、髪、切ったんだ!?」 「あ、はい!鬱陶しかったもんで」 そこには髪を切って短髪になった獄寺君が居た。 その風貌はまるで、十年後の彼を彷彿させてとても懐かしい様な、なんともいえない気持ちになった。 取り敢えず格好いい。 「うん!すごく良いよ!!」 「あ、ありがとうございます!!」 そう言うと獄寺君は不安だったのか、照れながらホッとした顔になった。 可愛いなぁもう…。 「うん、十年後の獄寺君みたいですごく格好いい!!」 プラス、今の獄寺君は可愛いけど!! そんな浮かれた気持ちで言ったら、獄寺君は呆けた顔になった。 ……? 獄寺君、未来の自分の姿、ちゃんと見なかったのかな? 「丁度十年後の獄寺君もね、これ位短かったんだよ!」 「は、はぁ…」 そう説明を足してみたら、今度は一瞬険しい顔になった。 どうしたんだろう…。 不思議に思って獄寺君に聞こうとしたところで、今俺たちは学校に向かう途中だったのを思い出す。 「あ、獄寺君遅刻しちゃう!急ごう!!」 「あ、はい!!」 さっきの一瞬した獄寺君の表情が気になりながら、取り敢えず遅刻しない為に学校に向けて走り出した。 「獄寺君が帰って来ない…」 休み時間に今朝の事を聞こうと思ったのに、いざ授業が始まると獄寺君はフラフラと教室を出て行ってしまった。 まぁ、それに関してはいつもの事だからあまり気にしないんだけど、今日は獄寺君が教室を出てもう三時間になる。 普段なら休み時間は絶対俺の傍に来てくれるのに…。 具合が悪くて保健室で寝てるんじゃないかと心配になって、保健室に行ってみても獄寺君の姿は無かった。 靴もあったから、まだ学校には居ると思うんだけど…。 「何処かでサボってるんじゃないか?いつもの事なのな!!」 「うん…そうなんだけど…」 それでも、やっぱり気になる。 「ごめん、山本!やっぱり俺、獄寺君探してくる!!」 「おう!先生にはうまく言っといてやるよ!!」 「ありがとう!」 俺は山本に感謝しつつ教室を飛び出した。 それから暫くして、屋上でただただ空を見つめている獄寺君を見つけた。 「髪、切らなきゃよかったぜ…」 「なんで?」 ボソッと呟いた獄寺君の言葉に問いかけたら、すごく驚いた様にこっちを振り向いた。 獄寺君が俺の気配に気付かないなんて…やっぱりおかしい。 「獄寺君、髪型気に入らないの?」 「えっ!?えっと、まぁ…」 取り敢えず思い当たる節を聞いてみると、肯定ととれる様な返事が返ってきた。 獄寺君、髪型が気に入らなかったんだ…。 「俺はすごく良いと思うけど、新鮮だし、十年後の獄寺君と似てて嬉しくなるし!!」 「っ!!」 獄寺君は気に入らないみたいだけど、俺はお気に入りだったりする。 だから素直に気持ちを言ってみる。 だって… 「やめて下さいっ!!!!!!!!」 「っっ!!??」 ごく…でら、くん? あの獄寺君が俺に声を荒げるなんて…。 いきなりの事で頭が真っ白になって立ち尽くしていると、獄寺君が謝り倒してきた。 あれ… 「獄寺君、何で泣いてるの?」 「…え?」 よく見ると獄寺君は泣いていた。 つらくても痛くても、滅多に涙なんか流さない君が…。 ここにきて、漸くわかった。 「獄寺君、何が、嫌だった?」 「っ!?」 今日の行動や表情、そして涙の理由。 それは髪型なんて些細な事じゃない。 原因はきっと俺だ。 ……そんなの耐えられない。 君を悲しませてるのが俺なんて。 しかも無意識に。 獄寺君の涙を止めたくて、少しでも償いたくて、抱き締めている腕に力を込める。 程なくして、獄寺君がポツリポツリと話し出す。 「十代目が…似合うと、仰って下さった事が…」 「…え??」 似合うって…髪型の事、だよね? え?それが原因?? いよいよわからなくなってきて、不信な顔をしてしまった俺に、獄寺君は慌てて補足し始めた。 「えと…似合うと仰って下さる時、十年後の俺の事も仰っていたので…」 …え? 「じゅ、十代目がお会いになった俺は、十年後の十代目をお守り出来なかった俺なんっす!!そんな奴の事まで貴方に褒めて頂くなんて恐れ多いです!!!!!」 ………ねぇ、獄寺君。 自分が何言ってるか、わかってる? それってさ… 「ヤキモチだから」 そう言った途端、獄寺君はこれでもかという程顔を赤くさせた。 よかった、わかってくれたみたい。 愛しい愛しい愛しい。 確かに十年後の獄寺君も格好良かったし、大切だと思える。 それでもやっぱり俺は、今目の前にいる君にしかこんな気持ちにならない。 だって十年後の獄寺君は十年後の俺のもので、今の俺の大切な人はたった一人、君しかいないんだから。 それに…ね、これは誰にも言わない、俺だけの大切な内緒事。 俺が未来へ飛んで一番最初にわかった事実。 確かな証拠は無いけれど未来の獄寺君に出会った時、俺に向けられてる瞳でわかっちゃったんだ。 俺たちは、十年後も変わらずお互いを愛し合えている。 その事が、不確かな未来に向けての俺の支えだった。 だから、髪を切った獄寺君を見た時、間違いなく十年後の君と同一人物だと確認出来て、俺たちの未来が確定された様で、たまらなく嬉しい気持ちになった。 まっさらな気持ちで俺の傍に居続けて欲しいから、君にもこの事は教えてあげないけど。 俺の大切で大好きな獄寺君。 やっぱり俺は今も未来も君が全てなんだ。 嫉妬してくれるのはすごく嬉しい。 …けど、それで君がつらい思いをしたら意味ないんだ。 だから嫉妬なんてしなくて済む程、俺の気持ちをわかってもらわなくちゃね。 「なーんて事、あったよねぇ」 「……記憶に御座いません」 そんな素っ気ない事言って、君の頬はしっかり色づいている。 あれから十年。 俺が願った通りの未来を俺たちは歩んでいる。 十年前に十年後の彼と会った時に感じた様に、獄寺君はすっかり落ち着いて、感情を表に出すような事はあまりしない。 それを少し寂しいと感じながらも、変わらず隣にいてくれる大好きな人。 「そうだ、今日は久しぶりに山本と二人で飲むんだ」 「そうですか。あまり飲み過ぎない様お気を付け下さい。連絡を下されば迎えに参ります」 ……前は山本と、なんて言ったら俺も行きます!なんて何がなんでも着いてこようとしてたのに。 十年前あんな事いっといて何だけど…やっぱり少し寂しい。 「…隼人、ヤキモチ妬いてくれなくなったよね」 「どうしたんです?いきなり」 「べっつにー」 ちょっと面白くなくてふてくされていると、不意に隼人が近づいてきてキスをされた。 「はや…と…?」 「十年前のあの時から、嫉妬なんてしなくていい程、貴方は愛して下さいましたから」 「…ほんと、隼人には適わないよ」 「ふふ、恐れ入ります」 そう笑う隼人に今度は俺からキスを送る。 そうだ、これでいいんだ。 嫉妬なんて方法じゃなくても、気持ちを確かめ合う事なんていくらでも出来る。 「…ただ」 「…??」 「何処に誰と行かれても、最後は必ず俺の処に戻ってきて下さいね」 「っ!!!」 あぁ、ほんと、君には適わない。 |
end |