ヤキモチ |
あー鬱陶しい。 邪魔くせぇしイライラする。 面倒だけど、 「いい加減、切るか」 「十代目!おはようございます!!」 「おはよ!獄寺君…って髪!!切ったんだ!」 流石です、十代目!! 部下のちょっとした変化にもお気付きになるなんて!やはり貴方こそボスに相応しい!! 「あ、はい!いい加減鬱陶しかったもんで」 「ふーん」 そう言うと、十代目はまるで品定めをするかの様に俺の周りをぐるぐる回って観察される。 や、やべぇ…やっぱ変だったか…? 暫く切らなくてもいい様に少し短く切りすぎたか…。 「うん!!すごく良いよっ!!」 「っ!!あ、ありがとうございます!!」 よかった…十代目にはお気に召して頂けた様だ。まぁ、十代目以外の奴からは何を思われたってどうだっていいが。 「十年後の獄寺君みたいで、すごく格好いい!!」 「…へ??」 十年後の…俺?? 「丁度十年後の獄寺君もね、これ位短かったんだよ!」 「は、はぁ…」 十代目はにこにことやけに嬉しそうにしていらっしゃる。 十代目が嬉しいなら俺も嬉しい。 しかも、それに恐れ多くも俺が関わっているのなら尚更。 「あ、獄寺君遅刻しちゃう!急ごう!!」 「あ、はい!!」 だけど何でだ? なんかスッキリしねぇ…。 「よっ!ツナに獄寺!!」 「おはよう!山本」 「………」 あぁ、うっせぇ奴がきた。 教室に入ると真っ先に野球バカが話しかけてくる。 「おっ!獄寺髪切ったのな!」 「…悪ぃかよ」 んだよ、おまえも気付いたのかよ。 気付いて下さるのは十代目だけでよかったのに。 「いや?似合ってんじゃん!!やっぱ日本男児は短髪じゃないとな!!」 「日本男児じゃねぇよ!」 とかなんとか、山本はやっぱり野球バカな事を言いながら笑っている。 つかおまえに似合うとか言われても全然嬉しくねぇ!! 「だよね!!獄寺君似合うよね!山本は知らないかもだけど、今の髪型、十年後の獄寺君にそっくりなんだ!」 ……まただ。 折角十代目がまた俺なんかを褒めて下さってるってのに… 「ん?そうなのか?」 「うんっ!!」 なんか、嬉しくねぇ。 なんでだ? 十代目のお言葉が嬉しくないなんて、今までに一度だって無かったのに…。 何故かモヤモヤイライラして、いつも以上に授業がだるくなった俺は、一時間目から既に三時間は屋上でサボっている。 「ったく…何だってんだよ」 自分で自分の事がわからない事実に無償に腹が立つ。 でも、朝に十代目と髪を切った話をしてから気持ちが晴れないのは確かだ。 「髪、切らなきゃよかったぜ…」 「なんで?」 「っっっ!!!???」 びびび、びっくりしたっ!!! 聞き慣れた声に後ろを振り向くと、いつからいたのか十代目が不思議そうな顔でそこに居た。 俺が十代目の気配に気付かないなんて…さすがです!十代目っ!!!! 「獄寺君、一時間目からずっと居ないんだもん。心配したよ」 「す、すみません…」 「うぅん、無事ならいいんだ」 な、なんてお優しい…っ!! やっぱり気のせいだ。 十代目に心配かけてしまったのは心苦しいが、それでも誰でもない貴方に心配されるのは不謹慎ながら嬉しく思っちまう。 そんな貴方に褒められたのに嬉しくないなんて… 「獄寺君、髪型気に入らないの?」 「えっ!?えっと、まぁ…」 「俺はすごく良いと思うんだけどなぁ」 「じゅ、十代目がそう仰るなら…」 そうだ。こんなにも十代目がこの髪型を気に入って下さってんだ! 何を不満に思う事がある!! 「うん、すごい新鮮だし、十年後の獄寺君と似てて嬉しくなるし!!」 「っ!!」 そう言う十代目のお顔はやはり輝いていて…その顔が大好きな筈なのに、ずっと見ていたいと思うのに…。 苦しい…。 「あのね、あんまり詳しく話してなかったんだけど、俺が十年後に行った時、」 聞きたくない。 「獄寺君も知ってる通り、何もない森の中でさ、やっぱちょっと不安になって…ほら、俺棺桶の中だったし」 聞きたくない… 「そしたら突然声が聞こえて、振り向いたら十年後の獄寺君が居たんだ!」 聞きたくないっ!!! 「十年後の獄寺君はさ、背も高くなってて髪も短くて、」 「…め…だ…さい…」 「雰囲気も少し変わってて、最初はわかんなかったんだけど、声も顔もやっぱり獄寺君で…」 「やめて下さいっ!!!!!!!!」 …あ…俺は、何を…? 恐る恐る顔を上げれば、俺の怒鳴り声に驚いた顔をした十代目と目が合う。 ありえねぇ…。 沸々沸き上がる訳わかんねぇ感情に流されて十代目に声を荒げるなんて…。 と、取り敢えず謝らねぇと!! 「す、すみません!!!十代目!!」 ひたすら十代目に頭を下げていると、十代目がおもむろに近づいてきて手を上げた。 殴られる覚悟は出来てる。 そう身構えた瞬間、頬に触れた暖かい感触に目を開けた。 「獄寺君、何で泣いてるの?」 「…え?」 頬に触れた暖かいものは十代目の手で、俺の目から出ているという雫を拭ってくれていた。 「え…何で…俺…」 「獄寺君、何が、嫌だった?」 自分が陥っている状況を把握しきれなくてパニックを起こしている俺を、十代目は優しく抱き締めて下さった。 「い、嫌だなんて!!俺は何も…っ」 「…獄寺君。俺は君の全部が知りたいんだ。ゆっくりでいいから、教えて…?」 情けねぇ…。 十代目を支え、お守りする立場である筈の俺が、十代目に迷惑を掛け、慰めてもらってるだなんて…!! 何が右腕だ!!! そう思うくせに、十代目の優しいお声だとか、俺の背中を優しく撫でて下さっている腕の暖かさだとかを感じる度、涙が次から次へと溢れて止まんねぇ。 「…獄寺君」 「………はい」 「何が、嫌だった?」 嫌…だった、事。 俺にとって十代目は全てだ それなのに嫌だなんて、あるはずがねぇ。 ただ、強いて言わせて頂くなら… 「…十代目が……」 「うん…」 「似合うと、仰って下さった事が…」 「…え??」 十代目がまた驚いた顔をして俺を見やる。 そりゃそうだろうな。 何処の世界に格好いい、似合うと言われて不快な気持ちになる奴がいるってんだ。 しかも大好きで仕方無い人に。 「そ、そんなにその髪型気に入らないの?」 「い、いえっ!そういう訳じゃ…」 十代目は益々訳のわからないといった様な顔を為さる。 申し訳ありません、十代目。 貴方が心配して下さっていると言うのに、俺も俺の事が訳わかんねぇんです。 "似合う"それだけじゃ、何も不快になる事なんてない。 それだけじゃない…その後だ。 「えと…似合うと仰って下さる時、十年後の俺の事も仰っていたので…」 「へ??」 「じゅ、十代目がお会いになった俺は、十年後の十代目をお守り出来なかった俺なんっす!!そんな奴の事まで貴方に褒めて頂くなんて恐れ多いです!!!!!」 「……………」 …十代目からの反応が無い。 あまり意識はしていなかったが、言葉にしてみて自分なりにはすげぇしっくりくる理由だったんだが…。 「獄寺君さ」 「はい」 「それってつまり、獄寺君の事を褒める時、十年後の獄寺君も一緒に褒めてたのが、気に入らなかったって事…?」 「はいっ!!あんな役に立たねー奴、忘れて下さい!!!」 今日何回目かのさすがです!十代目!! 俺のあんな拙い説明でも、十代目はしっかりと理解して下さった! 感極まっていると、俺を抱く十代目の腕に力が入り、唐突に触れるだけのキスをされた。 「〜〜〜〜っ!!!???」 「獄寺君、気付いてないと思うけど、それ、ヤキモチだから」 「…へ?」 ヤキ…モチ… え…えぇぇええ!!!??? ヤキモチって、あの、嫉妬の!? 俺が、俺にっっ!!?? 十代目が仰ったまさかの一言に酷く慌てる、と同時に全てを悟り、羞恥に顔が赤くなる。 ありえねぇえ!!! アホか俺は!!自分で自分に嫉妬してどうすんだ!!しかもそんなくだらねぇ事で十代目を心配させた挙げ句、怒鳴るなんて!!! 「すっ、すみませ…」 「ねぇ、獄寺君」 土下座しようとする俺を制止するかの様に、また暖かい手で両頬を包まれ、額に十代目の額がくっつけられる。 「確かに、十年後の獄寺君も格好良かったし、大切な人だよ」 「じゅ、だいめ…」 聞きたくない、苦しい。 十年後の俺なんて、どうでもいいじゃないっすか!! 「でも、それは十年後の俺にとって、だからだよ。」 「え…」 「十年後に居た俺も俺だから、きっと十年後の獄寺君が大好きで、大切だと思うんだ」 「……」 「今の俺と同じ様に獄寺君が全てなんだよ。だから俺にとって、十年後の獄寺君はそういう意味で大切」 「じゅうだいめ…」 「俺は俺の獄寺君が、今の君が何より大好きで、大切だよ」 そう言って十代目はまた優しくキスをして下さった。 「わかってくれた?」 「……はいっ…」 不覚にもまた泣いちまった俺を、十代目はずっとずっと抱き締めていて下さった。 髪を切った事でここまで自分の情けねぇ姿を、しかも十代目に曝す事になるとは思わなかったが、十代目とこうしていられる今があるなら、何もかもどうでもよくなっちまった。 やっぱり十代目はさすがです。 「ところで十代目」 「ん?どうしたの?」 「十代目が恐れ多くも十年後の俺を気にかけて下さったり、褒めて下さったりした理由はわかりました!」 「うん」 「ですが、どうして俺が奴と似ると嬉しいんですか??」 「…あー、それはね」 「はいっ」 「…秘密!!」 「えっっ!?」 「ほら!もうお昼だよ!!教室戻ろう!」 「え、ちょ、十代目ぇ〜」 |
end |