一瞬でも








俺が、もう少し早く生まれていたら。
そんな事を思うのが最近多くなった。多分原因は、安形とか言う奴と付き合い始めてからだと思う。

「何考えてんだ、加藤」

また同じような事を考えていたら、安形に話し掛けられた。
今は俺の家。日曜で、安形からメールが来たのが発端。
まぁ有り体に言えば、半ば無理矢理押し掛けられた感じである。

「は?」

特には怒ってない。
だけれど、つい棘のある口調で返してしまう。

「……怒ってんの?」

やはり聞かれる。俺の口調はそんなに棘々しいか?
でも怒ってるっちゃ怒ってるのかも知れない。

「…まぁな」

「……押し掛け気味になったのは謝るから…な、怒んなよ」

「………………」

謝ってくれたのはいいけれど、俺は素直に甘えられないんだ。
この前だって、安形に抱かれてる時に柄にもなく甘えてみたら、『頭打ったか?』とか聞かれる始末。

「加藤」

ふと名を呼ばれて振り返ると、安形が軽く両手を広げている。
おいで、と優しく言われる。俺は安形の優しい声色に弱いようだった。

そこは素直に首に腕を回して抱き着く。後ろから抱き締められている腕の感覚に安心した。

学校でも、誰も居ない教室で、こうしたりする。
なかなか会えないし、俺も生徒会の仕事で忙しいから。
でもまだ物足りなくて、俺はさらにしがみついた。

もうすぐ安形は卒業してしまう。俺を置いて。
そんな考えが過って、嗚咽が洩れた。

「希里?」

「………、…」

「…泣いてんの?」

気付けば俺は、みっともなく涙をぼろぼろと零していた。

「……安形なんか留年しちまえ」

「かっかっか。卒業するっつの」

痛い。
痛い。
どうして。
俺の気持ちも知らずにそんなに簡単に『卒業』なんて。

「…俺が、もう少し…早く、生まれてれば…」

嗚咽に混じり、本音がポツリと零れた。
そうだ、俺がもう少し早く生まれていたら。
安形と離ればなれになる確率は減ったのに。

「……あのな、」

あやすように俺の背中を軽く叩く安形は、自分に言い聞かせるような口調で俺に語り掛けた。

「同い年だったらクラス違ったかもしんねぇし、はたまた、俺らは会えてなかったかもしんねぇよ」
「……………」

「だから、このままがベストだって俺は思うかな、かっか」

どこまでも自由奔放な奴だと思う。
そんな気楽な安形が羨ましくなった。
首元に埋めていた顔を上げて、安形と向き合った。

「……バカか、アンタ」

そう吐き捨てて、有無を言わさずに口付けた。
何度も角度を変えて、キスをした。

「……はぁ、」

「可愛いトコあんじゃねぇか」

「………るっせ、潰すぞ」

「……やっぱ可愛くねぇな…」

今度は、あっちからのキス。
舌が潜り込んでくる感触に俺は身を震わせた。
身体の力は抜けきって、安形の支えが無ければ倒れてしまうくらいの脱力感。

そんな脱力感でも、俺には心地好いくらいだった。

「……ん、」

唇を離す。瞬間、物凄く冷たい空気が唇に触れる。
そんなに寒くはないのに。

「熱い、」

安形がぼそりと呟く。あぁそうか、俺が熱いのか。
はたまた安形が熱いのか。
どちらにしろ、唇に触れる空気は冷たかった。

「……卒業式、笑って見送ってくれよ」

「…怒鳴り散らしてやるよ」

「おほっ、そりゃいいや」

俺の半ば本気ではない受け答えに安形は笑いを返して俺を抱き締めた。

もう悩む必要は無さそうだ。














一瞬でも

(貴方と共に居たい、それだけ)












人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -