1LDK物語 | ナノ


「ただいまぁ」
「おかえりー」

蔵が帰ってきた。営業部のエースとしてばりばり働く俺の自慢の旦那さまや。こうやって1LDKのマンションで一緒に暮らすようになって、収入は蔵が八割を補っとる。デザイナーとしてはまだまだ目の出ぇへん俺は、せめてこうやって仕事帰りの蔵を出迎えて癒すのが仕事っちゅーわけや。

「なんやユウジ、ご機嫌やなぁ」
「そか?まぁ、今日はちょっとな。久しぶりに小春に会ってん」

鍋の中のシチューをかき混ぜながら、昼間のことを思い出す。小春とは高校進学を機にコンビ解散、勉強の忙しい小春とは自然と距離が出来てもうた。それでも中学校んときとなんも変わらん会話が出来て、たのしかった。
ふうん、と言いながら蔵が近づいてくる。

「久しぶりに小春に会って、気持ちが戻ったんとちゃう?」
「ちょ、やめぇや蔵」

爽やかな香水のにおい。蔵が俺を後ろから抱きしめる。左手にはもう中学校のときのような包帯はあらへんのに、俺は未だに蔵の左手に包帯があるような錯覚を起こす。
ほんまに、蔵の左手は毒手やねん。そう思っとる。

「……小春はなぁ、俺の親友や。小春のことは大好きやで。でもその大好きは、蔵とは違うモンやから、どっちが上とか下とかそんなふうに比べられへんのや。はい、分かったらさっさと着替えて来い。スーツ皺になんで?」
「……ユウジには敵えへんなぁ」

蔵は少しだけ笑うと、着替えてくるわ、と俺から離れた。