「阿呆やなあ。ほんまに好かれとるとでも思っとるんかな、あの一氏ってやつ」 「思っとるんちゃう?阿呆なんてみんなそうやん」 「金色くんほどの天才に好いてもらおうなんて、阿呆のくせに調子付きすぎやって、なあ金色くん」 振り向いた小春は笑顔で「せやね、これやから阿呆は嫌いやわ」と言った。 それは部活を本格的に引退してから一週間経ったころで、そろそろ受験も考えなあかんなあとみんな焦り出した時期だった。 その頃から小春は俺の一緒に帰ろうという誘いをよく断るようになっており、小春の周りを囲むのは学校でも天才と呼ばれる部類のがり勉たちだった。 小春は変わったなあ、と誰もが言った。小春は本当の天才になった。 「あ、忘れもんしてもうた、謙也、さきに帰っといて」 「アホやん。ええよ、待ったるし」 「今日予備校あるんやろ」 「あ、せやった、ごめん先帰るわ」 「おー」 校門で謙也と別れ、俺は夕方の学校へ引き返した。校庭からは部活に勤しむ後輩の声が聞こえる。 懐かしさを感じながら教室のドアに手をかけた。そのとき、あの声を聞いてしまったのだ。 「せやね、これやから阿呆は嫌いやわ」 目の前が真っ暗になった。 |