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「ほい、これ」
「なんスかこれ」
「ライブのチケット」
「へー、誰の?仁王先輩、好きなアーティストいましたっけ?」
「ちがう、俺の」
「は?」
「俺の、ライブ」

仁王先輩からもらったチケット。なんと、仁王先輩は知らないうちにバンドを組んでいたらしい。
びっくりして、そのチケットを握り締めたまま丸井先輩んとこまで走っていった。そのことを伝えたら、俺もジャッカルももらったぜぃ、と赤いチケットを見せつけられた。幸村くんもだし真田もだし、と丸井先輩は指を折って数える。けっこうたくさんの人に配っているらしい。

「仁王先輩ってバンドやってんスか?」

そう聞くと、丸井先輩はギャハハと下品に笑い出した。

「ンなわけねーよ!あの仁王がバンドなんて連帯感あるモン出来ねーって!」
「じゃあなんでこれ」
「助っ人だよ、ただのな」

にぃ、と丸井先輩が口元を吊り上げた。


* * *


仁王先輩が歌うのを俺ははじめて聞いた。赤や青のライトがちらちらと仁王先輩を照らしてて、ステージで白く浮かび上がるのがきれいだと思った。ノリはけっこう激しめでロック。三人編成のバンドで、ヴォーカルギター。それがただの助っ人なわけねえだろ。となりでジャンプしまくってる丸井先輩を睨んでみたけど、ノリノリになってたからぜんぜん気づいてくれなかった。
ステージの上で珍しく汗をかきまくってる仁王先輩が、乱れた髪の毛からちらっと覗かせた眼にどきりとした。目が合った。


* * *


「うまいッスね、歌」
「んー?」
「カラオケ誘ってもぜんぜん乗ってくんないから、歌は嫌いなのかと思ってたのに」

ライブ終わりは、ファンらしき女の子が仁王先輩にいっぱい群がってた。俺はその大群が去ってから、そっと声をかける。肩から提げたタオルはブランド物で、マジでわけわかんねえ人だと思った。

「丸井先輩からはただの助っ人って聞いたんスけど。ぜってー違いますよね、助っ人ってスケールじゃねえッスもん」
「そう見えたんなら、光栄じゃな」
「……ねえ、ホントのとこどうなんスか」
「残念ながら、ただの助っ人じゃ。ホントにな」

口元には笑みが浮かんでる。

「なんで俺を誘ってくれたんスか」

盛り上がり方やトークからして、何回か数をこなしてるバンドだった。俺ははじめてだったけど、丸井先輩たちはそうじゃなかったに違いない。なんで今になって俺を。
仁王先輩が髪の毛をかきあげながら、俺をちらりと見た。

「俺の生きてる意味を見せたかったから」