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千歳が行方不明になった。らしい。とは言っても、ここ二週間くらい姿を見てないだけやし、そんなん日常茶飯事やから誰も気にしてへん。「千歳はまた居らへんのかぁ」程度。それってどうなん、とか思うけど、まあいつでもどこでもふらふらしよるあいつが悪い。

「ほんま、あの人はどこ行ったんやろねぇ」

かじかむ手をすり合わせながら、小春が心配そうな声色で呟く。冬のテニスは地獄。手ェ真っ赤っかになって、感覚なんてあらへん。

「さぁなー、またトトロでも探しにいってるんちゃう?」
「その可能性は無きにしもあらず、やな」

ぶるる、と小春が震えた。寒い。ぴたっと密着して、押しくらまんじゅうでもしよか、と言うたけど、ユウくんてばえっちねぇ、と流されてしまった。
試合形式の練習は、待ち時間が長い。目の前のコートではデュースが続いてて、一向に終わる気配ナシ。
一方、完璧主義者の白石は、もふもふしたコートに手袋、耳当て、帽子と準備満タンで試合を待っとる。さすが白石や、俺も次回からそうしよ。

じーじー、とポケットに入れてた携帯が振動する。かじかむ手で携帯を引っ張りあげて開くと、着信千歳。二週間ぶりか、ずいぶん放置してくれたやないか。メールも電話もぜーんぶ綺麗に無視してくれよって。
ごめん電話やわ、と小春から離れて通話ボタンを押す。

「あいあい」
『トトロ居らんかったばい』
「知るかボケ」

二週間やのに、第一声はそれ。ムカつく。

「今どこ居んねん」
『どこやと思う?』
「うざい、そんなん要らん。さっさと答えろや」

電話の向こうで千歳がはは、と笑う。相変わらずの短気ばい、とか余計なこと言わんでええねん。

『沖縄』
「ほぉ、俺を置いて一人ぬくぬくしとるんかお前」
『羨ましい?』
「別に」

羨ましいよ。

「………はよ帰って来いや」
『金が尽きたら、そのうち帰るけん』
「………そのうち、か」
『ほんならね』

ぶち、と切られた通話。千歳に追いかけられるトトロ、ほんまにお前が羨ましい。
携帯を閉じてポケットにしまう。なんもなかったかのように小春んとこ戻って、オカンからやったわぁ、と聞かれてもない嘘をべらべら話す。
目の前の試合は、まだデュース。

「うー………さっぶいなあ」
「あら、雪降ってきたわ」
「うわ、さいっあくや」

ほんまに寒い。俺の心みたい。