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「………死ねクソあんな店二度と行かへんからな」

うっわ機嫌わる、と財前が呟いた言葉は、ここにいる全員が思っていることだった。ベンチに座ってタバコを吹かし、小刻みに貧乏揺すり。余裕なんか微塵もない今日のオサムちゃん。

「なんかあったんスか」
「スロットで大負けしたらしいわ」

俺の肩をちょんちょんとつつき、詳細をねだる財前に有りのままを伝えてやると、盛大なため息が返ってきた。

「はあ、またスか。いい加減、懲りたらええのに。ほんま阿呆やな」
「辞められへんねんて、それが。ギャンブルは怖いなあ」

緩く笑って、さりげなくオサムちゃんを擁護。オサムちゃんが部活中に荒れるのは、たびたびあることだ。そのたびみんな無視をはじめる。そして監督にではなく、部長である俺にメニューや指導を仰ぐ。今回も同じことだ。
財前は呆れたように「タバコ臭いおっさんがおるコートでテニスやっても意味ないし、走り込みして来ますわ」と俺に告げ、ラケットをしまいこんだ。

「あー、俺も行くわ!ちょっと待て、財前」

それを聞いていたらしい謙也が、打ち合いを中断してひらひらと手を上げる。すると、ほとんどの部員が俺も俺もと手を上げだした。この雰囲気に耐えられないらしい。

「よし分かった、ほんならマラソン大会や。これでビリになった奴は、一人でコート整備するんやで」
「ういっす」

俺の提案に全員了解し、わらわらとコートを出ていく。しんと静まり返るコート。がじがじと爪を噛んでいたオサムちゃんが「白石!」と俺を呼ぶ。

「はいはい、どうしたん」
「白石、白石!はよ来い!」
「ここ居るやんか」

それでもオサムちゃんは俺を呼び続ける。俺が目の前に立つと、ようやく静かになった。噛んでぼろぼろになった爪を撫でて、どうしたん、ともう一度聞いてやる。

「大負けした」
「さっき聞いたわ」
「金ないねん」
「それはいっつもやろ?」

俺はオサムちゃんが次に口にする言葉を知っている。金貸してや、やはりそう言った。

「いくら?」
「一万でええから」
「ほんならあとで財布から取っといて」
「白石、白石、ありがとう」
「ええよ、別に」

ええわけあるか。
生徒から金をせびる悪徳教師。教育委員会にバレたらソッコークビや。
それでも俺がこの悪徳教師に金を渡し続けるのは、

「白石、すきやで」
「俺もすきや」

きっとそう、こういうこと。
金を手にしたオサムちゃんは、いつも通りのオサムちゃんに戻っていく。そろそろマラソン大会から皆が帰ってくるころだろう。俺もいつも通りの白石蔵ノ介へと戻っていく。
結局世の中、愛も金次第っちゅーことや。