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「きっとその好き、なんて今のうちだけや。勘違いやねん。せやからもう辞めよう、あんたはこっちの人じゃないんよ。今のうちなら間に合うから、はよ元の場所に戻り?」

柔らかい物腰だったけれど、これは小春からのこっちに来るな、というはっきりとした拒絶だった。例えば一緒に宿題を片付けているとき、新ネタを作っているとき、部室で他愛もない会話をしているとき、突然そんなことを言い出す。一定距離を保ちたい、と小春は何度も言う。

「おれ……ほんまに小春が好きやねん、それだけじゃあかんのか? この好きっていう気持ちだけじゃ、足りひんのか?」
「……そういう意味ちゃうねん」

小春の声が一段階、低くなった。こういうときの小春は、男らしい、本物の小春になる。おれは不謹慎にも少しだけどきっとした。

「お前の言う好きなんてなあ、全く根拠のない絵空事や言うてんねん! そんな不確定な気持ちを俺に持ち込むなっちゅうことや!」

小春の一人称が俺、になる。ああやっぱりどっちの小春も好きやなあ、と改めて思った。小春の言うてることは難しくて、おれにはよう分からへん。だからとりあえずごめんな、と謝っておく。

「ごめんな、小春。おれ、小春みたいに頭良うないし……もっと頭良かったら、小春はおれんこと好きになってくれるんか?」
「……ッ、頭悪いにも程があるわ! お前のそれは勉学的な意味やなくて、ホンマモンの阿呆や!」

うん、ごめんな小春。おれってほんま阿呆やねん。そんな阿呆でも、小春のこと好きやねん。それだけじゃ、あかん?