01 「おまん、最近うわさの怪盗キングじゃろ?あ、いいのがれはできんぜよ。ひろし、アレを」 「はい、これがしょうこです」 双子が取り出してきたそれは、俺が意識を失っているうちに撮られたであろう写真。俺の仕事道具や、現場に置いておくキングのカードが収められている。何時の間に撮ったのやら。双子はこれを顔の横に掲げてにやりと笑っている。 「お前たちは何が目的なんだ?」 俺の言葉に、双子は嬉しそうに顔を寄せ合った。 「おれたちのパパになってくんしゃい!」「わたしたちのパパになってください!」 02 「はいこれ契約書ね」 「契約書……?」 事務所に帰れば、精市が何やら薄い紙を一枚取り出してきた。それを俺の顔の前に突き出して、本人はとても楽しそうだ。 「そ、双子の父親になりますって契約書」 「なんでそんなもの……!大体俺は父親になるだなんて一言も言っていないぞ」 馬鹿らしい、と振り返ったところに見慣れた天然パーマの髪の毛。この幸村弁護士事務所の事務員である赤也だ。まあ事務員というのは仮の立場で、実は精市のお気に入りであるただの詐欺師なのだが。 「ぎゃはは!先輩が父親!父親って!似合わねー!」 「……赤也、少し口が過ぎるようだな?」 「ぎゃー!開眼しないでくださいよっ!」 03 「貴様は一体何者なんだ!」 双子の家に突然乗り込んできたのは黒い帽子を深くかぶった、言ってみれば俺よりも怪しい男だった。 「それは俺の台詞なんだが……。俺はこの子たちの父親の宗野正雄、」 「違う、おまえは宗野正雄じゃない!」 帽子の男が仏頂面で二枚の書類を差し出した。俺が書いた「宗野正雄」という文字と、どうやら小学校転入の際に出した書類に書かれた「宗野正雄」。まったく筆跡が違う。――なるほど。俺が頷こうとした瞬間、風呂から上がってきた双子が玄関先にどたどたと駆けてきた。 「あー!!真田せんせえじゃ!!」「あー!!真田せんせいだ!!」 04 「今日こそ怪盗キングの尻尾をつかんでやるぜ!」 「その調子だぜぃ、ジャッカル!」 双子を見送るついでにゴミ出しをしていると、そんな声が聞こえてきた。この声には聞き覚えがあり、近所に住む刑事とその配偶者だ。配偶者と言っても女性ではなく、れっきとした男なのだが。 「おっ、宗野さんじゃん!」 「ああ、どうも」 配偶者のほうが俺の姿に気づき、笑顔で寄ってくる。 「今日もいい男だぜぃ、ウチのと違って!」 「はは、それはどうも」 肩をばしばしと強く叩かれる。俺はどうもこの人が苦手でならない。 05 「パパ、一緒におふろ入らんかあ?」 ソファに座って新聞をチェックしていた俺の肩にぐだっともたれ掛ってくるのは、雅治。子供特有の体温がもどかしく、思わず身じろぎをする。 「風呂ならいつも通り比呂士と入ればいいだろう」 「いやじゃあ、パパならふつういっしょに入るもんぜよ!」 「……そういうものか?」 「うん!」 雅治は比呂士より少々ずるがしこく、その上行動力も無駄にある。にまあ、とうれしそうに笑っている雅治の将来がたまに心配になる。赤也のような詐欺師にならなければいいが。 06 「比呂士、何をしてるんだ?」 「ぶんしょうをかいています」 「ほう」 何かを必死に書き込んでいる比呂士の手から小さなノートをひょいと奪い取る。比呂士は「かえしてくださーい!」とぴょんぴょん飛び跳ねているが、しょせんは子供と大人。俺が意地悪くノートを頭の上に掲げてしまえば、比呂士にはまったく届かない。 「どれ、俺が推敲してやろう」 ノートを開くと、そこには習ったばかりであろう漢字を使い、必死に書き連ねた―― 「……ポエム、か?」 「パパ、かえしてくださいってば!」 ポエムだった。比呂士は顔を真っ赤にして怒っている。悪いことをしたな、と久しぶりに罪悪感を覚えたのだった。 ☆おわれ☆ |