いつもの場所で | ナノ


 





 ―― まだ珊瑚が弥勒を意識する前のお話。




 「良い天気だね」

 珊瑚ちゃんがそう呟く。

 久々に晴れた春の午後。
 ぽかぽかとした日光が、私達を柔らかく包み込んでくれる。

 ここ暫く春の長雨に見舞われ、
 ずっと太陽が顔を出すということはなかった。

 私たちは洗濯をしに、岸で洗濯物を洗っている。

 わた雲が、綺麗な水色の空に等間隔で浮かんでいる。

 「あの雲、七宝ちゃんが見たら
  まるで綿飴じゃ!"って言いそうだね。」

 「綿飴…ってこの間かごめちゃんが持ってきたやつ?」

 「そうそう。あ、美味しかった?」

 「勿論さ、あんな甘いものがあるんだね。知らなかったよ。」

 洗い終わった洗濯物を干しながら、珊瑚がそう言う。

 
 「珊瑚ちゃーん」

 私はふと気になったことがあり、珊瑚に尋ねてみる。

 「珊瑚ちゃんて…、


  弥勒様の事…好きだよね?」


 私がそう発した瞬間、目の前を過ぎ去る小袖…
 ――珊瑚ちゃんが手にしていた洗濯物が風に乗って飛んでゆく。

 小袖は数メートル風に飛ばされた後、ポトリと地面に落ちた。

 「なっなっ何を言うの、かごめちゃん…」

 「えーだって仲良さそうだし?」

 私がそう発した瞬間、彼女の顔が真っ赤になる。

 ――面白い…。

 「弥勒様とよく一緒にいるじゃん」

 「おや?何のお話ですか?」

 真っ赤になる珊瑚ちゃんをからかいながら
 事情聴取のようなことをしていると、
 向かい側の岸から、ひょこっと顔を出してきた人物。

 ――話題になっていた人物、弥勒である。


 「何やら楽しそうなお話をしていましたね。
  是非お聞きしたいです」

 「ほっ、法師様まで…」

 ほっほっ、とまるでウグイスが鳴くかのように
 言葉にならない叫びをあげている珊瑚ちゃん。

 弥勒の顔が気になり、横目で彼を見上げる。

 ――わ、笑ってる…。

 法師の事だから、きっと会話の殆どを把握しているのだろう。
 心なしか口が笑いを堪えているかのように見える。


 こんなのんびりとした日、久々だなぁ…。

 空には、綿雲と。
 それから ――太陽の柔らかい光が私たちを照らしていた。


 晴れた春の午後の、平和な一日。





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