マシュマロはミルクティに溺れたらしい

「音子ちゃん大変!」
「どうしましたか?」
「今日大外さんの誕生日だよ!」
「ああ…そうですか」


私結構大切なことを伝えたはずなのに音子ちゃんはいつも以上に死んだ目になってしまった。


「大変だよ!お祝いしないと!」
「はあ、そうです…かね?」
「大外さん紅茶が好きだよね?あと、あとは何が好きかな?えっとえっと…」
「スタイルと顔が良い巨乳じゃないですか?」
「音子ちゃん!真面目に考えて!」
「これ以上にないほど大真面目に答えましたけど」


どうしようどうしよういざお祝いだ!プレゼントだ!ってなると何していいか全然分からない…!音子ちゃんは真面目に祝ってくれる気はなさそうだし、ルリさんは大外さんのこと怖がってるから無理だろうし、支配人は当てにならないし、瑪瑙さんはえっちなことしか提案してくれないし…!やっぱり頼れるのは阿鳥先輩しかいない!

そう思って阿鳥先輩を探したけれど…本当にあの人の働き方はどうなってるの!?全然見つからない!なのに行く場所行く場所の仕事は片付いてる…!私も音子ちゃんもまだ全然仕事していないのに……


「今日は許して下さい阿鳥先輩…!お祝い終わったらちゃんと死ぬ気で働くので…!」


ここにはいない阿鳥先輩への言葉を呟いていると、傍からくすくす笑う声が聞こえた。見なくても分かる。この上品な笑い方は彼しかいない…!


「お、大外さん…!」
「やあ、榛名さん」


やっぱり大外さんだ…!うわぁ、今日もやっぱりかっこいい…音子ちゃんには近付いちゃダメって言われたけど、こんなに素敵な人がそんな悪い人には見えないなぁ。ルリさんも怖がってるし…


「死ぬ気でって、洒落にならない言葉だね」
「え?あ、そ、そうですね…失礼な発言でした、すみません…」


ここにいる人たちのほとんどが、自分が生きているのか死んでいるのか分からない。それは大外さんも例外じゃない。もちろん私も。だからお客様には聞かせちゃいけない言葉だったのに…!自分の失態に自己嫌悪していると、大外さんはゆっくりとこちらに近付いてきた。失礼なことをしてしまったのに近い距離にドキドキしてしまう。許して下さい。誰に言うでもなくそう思ってしまった。


「別に僕は気にしていないから」
「え…?」
「榛名さんにそんな悲しそうな顔させる方が気にしてしまうよ」
「…っ!」


すっと、撫でるように頬に手を当てられる。そのまま少し強い力で大外さんの方を向かされて至近距離で見つめ合う形になった。何が起きているか状況を理解出来ないのに、体温が上がり続けるのだけは分かる。熱い。触れられている頬が特に。


「それより、今お祝いの話していたよね?もしかして僕の誕生日だったりするのかい?」
「……っ」


言葉が出なかったのでこくこくと頷く。すると大外さんはにこりと綺麗に微笑んでくれた。ど、ドキドキが身体に響いてると感じるほどに、鼓動が大きくなる。もうこれ大外さんに聞こえてるんじゃないかな…


「榛名さん」
「は、はい!」


耳元で名前を呼ばれて声が出た。けどその返事は裏返ってしまって恥ずかしい。それ以上に耳元で囁かれる方が恥ずかしいけれど!!


「実は僕、欲しいものがあるんだ」
「っ、そ、そうなんですか…?」


耳元で囁かれるたびにゾクゾクと反応してしまう。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。でもでも大外さんの欲しいものは聞きたい…!


「わ、私に用意出来るものでしたら…!」
「君にしか用意出来ないものなんだ」
「え!な、なんですか?」


私にしか用意出来ないもの。それは何かと恥ずかしさも忘れて真っ直ぐに大外さんを見つめる。一瞬驚いた表情をした大外さんだったけど、少し困ったように笑みを浮かべた。


「素直すぎるのもどうかと思うよ」
「え…?」
「……お祝いの言葉が、欲しいかな」
「お祝いの言葉……あ!そうですよね!まだ言ってなかった…!すみません!」


再び真っ直ぐに大外さんを見つめて、少し恥ずかしかったけれど笑顔で誤魔化して口を開いた。


「大外さん、お誕生日おめでとうございます!私は、貴方に出会えてとても幸せな時間を過ごせています。死にかけて良かったとさえ思っています。…だから、生まれてきてくれて、ありがとうございます」


ありきたりな言葉を紡いだつもりだった。けれど、そこで気が付く。私は恋人でもないし好意も伝えてすらいない人に対して一体何を言っているだ、と。好きと言うよりも恥ずかしいことを言った気がする。大外さんのぽかんとした表情と自分の言ったことを思い出して、先ほどより顔が熱くなるのを感じた。燃えてる。今絶対私の顔燃えてる…!
私は勢いよく立ち上がって大外さんと距離を取った。


「し、しししし失礼します!!」


深く頭を下げて私はその場から逃げ出した。会わないようになんて無理に決まってるのに。そもそもちゃんとお誕生日のプレゼントも渡せてないのに。


「〜〜〜〜〜〜っ!!」


私は声にならない声を上げながらひたすらにホテルの廊下を走った。阿鳥先輩に注意されるまで走り続けました。仕事して忘れたい…忘れたい…!

◇◆◇

「落とすつもりで何落とされてるんですか」
「塚原さん…何か用かい?」
「大外さん、ざまぁですね」
「殺してやろうか?」
「だから洒落にならないですよ。ていうか、そんなに優さんが好きなら回りくどいことしてないで、本性バレる前にさっさと好きって言えば良いじゃないですか」
「……別に好きじゃない。絶対、一度は抱かないと後悔すると思ってるだけだよ」
「それもう好きなんじゃないですか?」
「違う」
「…まあ、一応誕生日ですし優さんに危害を加えないって約束してくれるなら大外さんの部屋までお連れしますよ」
「へえ、抱くって言ってるのに良いのかい?」
「合意だったら別に問題ありません」
「君って本当に……いや、何でもない。それじゃよろしく頼むよ、塚原さん」
「了解です」


そんな会話がされているなど知らず、私は音子ちゃんに騙されて大外さんの部屋に行って…………………その後のことは、誰にも秘密です。


end
ーーーーー
公式のお祝いツイート見てそうだったー!って思い出して突発で書いたから久しぶりだしあんまりなんていうかすみませんって話(?)
大外さんと普通の恋愛は書きにくいから…てか書けないからこういうことになる…
大外さんお誕生日おめでとうございますー!

title:LUCY28


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