その言葉の意味は

学パロ
ーーーーー

「なんであいつがあんなにモテてるのか意味分かんない…」


今日でもう何十回と聞いた凪の台詞に、私と哲は苦笑した。気持ちは分かるけど気にしすぎじゃないかな。


「まあ、充先輩かっこいいし」
「はぁ!?あんなののどこがかっこいいんだよ!?充だぞ!?」
「それは凪の偏見だからね」
「身長高いしオシャレだし面倒見いいし女の子の扱い方も分かってるし、モテても不思議じゃないでしょ」
「身長高い以外納得出来ない!」
「「はぁ…」」


頑なに認めない凪だけど、充先輩が貰っていたバレンタインのチョコの数は見ているはずだ。認めないというより、認めたくないだけなのかな。こう変な所でムキになるから充先輩に良いように遊ばれちゃうのに。


「でも直也先輩もたくさん貰ってたよね」
「そりゃ兄貴だからな!」


途端に誇らしげになった姿はとても可愛い。ブラコンと言われても仕方がないくらい凪は直也先輩か大好きだけど、そういう素直な所は凄く可愛らしい。そんなこと言ったら怒るのは目に見えてるし言えないけど。


「そういえば、さっき哲も貰ってたよね」
「なに!?」
「うん。でも義理だよ」
「んー、それ義理じゃないと思うけどなぁ」
「哲!裏切ったな!?」
「え、裏切る…?」
「凪落ち着いて。哲は優しいからそりゃモテるでしょ」
「モテるってほど貰ってないよ」
「……」


凪の顔が怖い。哲に悪気はないんだろうけど、1つも貰ってない人を前にその発言はダメだと思う。これが充先輩の発言だったら凪は間違いなく殴りかかっていただろうなぁ……哲で良かった。


「凪に渡したい人はみんな奥手なだけじゃないかな」
「あー、充先輩といるとしょっちゅう怒ってるし渡しづらいのかもね」
「あいつほんと全てにおいて邪魔だな」


腕を組んで目が据わってる凪に、私と哲は顔を見合わせて苦笑する。ここで大和が後輩の女の子からたくさん貰っていたなどと口にしたらまた荒れるだろうから黙っておこう。


「くっそー…なんか凄い負けた気分…」
「なにを競ってるの…」


机にうな垂れた凪は唇を尖らせて不機嫌丸出しだ。


「……そんなにチョコ欲しいの?」
「欲しいに決まってるだろ!」
「ふーん。それは…誰からでも良いの?」
「誰からでも良い!」


即答で断言。どれだけチョコ欲しいの…。凪だって本当はモテるのにきっと貰えないのは、私が凪とずっと一緒にいるからなんだろうなぁ。この前も充先輩に「おまえら付き合ってるのか?」と聞かれたばかりだ。そのとき凪はいなかったからそんなこと知らないだろうけど、私の動揺で充先輩に気持ちがバレたのは痛い誤算だった。


「優?どうした?」


思い出して意識を飛ばしていると凪が顔を覗き込んできた。突然近くなった距離にドキドキしたのを隠し、冷静を装って鞄から袋を取り出す。首を傾げた凪にそれを差し出した。


「誰からでも良いなら、これあげる」
「なんだ?」
「凪が欲しがってたチョコレート」
「……チョコ!?」


一瞬きょとんとしていた凪だけど、チョコと聞いて飛び付いてきた。


「え、お、俺に?」
「そ、凪に」
「いいのか?」
「だって欲しいんでしょ?」
「欲しい、けど……それって、優が誰かに渡すために作ったんじゃないのか…?」


まるで仔犬のような瞳で見つめてくる凪はやっぱり直也先輩の弟だ。天然タラシなんだ。無意識にこう、萌えツボを刺激される…!頭を抱えたくなるのを抑え、私は微笑んだ。


「友チョコで配ってたのが余っただけだから気にしないで。それともやっぱり余り物は嫌?」


本当は凪のために用意したけど、今の関係が心地良いからそれを崩したくない。だからそんな嘘が息をするように出てしまった。また充先輩に何か言われそうだなーっと溜息をつきそうになったとき、袋を持った手が暖かく包まれた。見るとそれは凪だった。袋ごと私の手を握っている。満面の笑みで。


「…っ」
「すっげー嬉しい!ありがとな、優!」


ばくばくと心臓が早鐘を打ち、顔が熱を持ち始める。握られた手も熱い。本当にタチが悪いんだから…!


「よ、喜んでくれて良かったよ」
「優から貰って喜ばないわけないだろ!」
「誰から貰っても嬉しいんでしょ」
「そうだろうけど、やっぱ優から貰えたってのが1番嬉しいな」


まるで私のことが好きみたいな言葉。けど平然と言ってるあたり、凪は自分の言葉の意味に気付いてないんだろうな。気付いてたらきっと真っ赤になって訂正するに決まってるから。


「……私も、凪に受け取ってもらえて良かったよ」


翻弄されっ放しは少し悔しくて小さな反撃を試みたけど、凪はまるで気付かずににかっと笑いかけられた。………私の負けだ。
ふいっと視線を逸らすと、廊下が騒がしくなっているのに気がついた。この騒がしさは恐らく充先輩や直也先輩が来たのだろう。


「充先輩たちかな?」
「ちょうどいい!優にチョコ貰ったって自慢してくる!」
「は?」
「あ、いたぞ!やっぱ兄貴と充だ。ちょっと行ってくる!」
「え、ちょ、凪?」


私の手からチョコを奪い去り、暖かく包まれた手が離れる。その名残惜しさがまた悔しかったり……とことん凪には勝てないなぁ。充先輩たちにチョコを見せびらかす凪に溜息をついた。嬉しそうなのは良いけど……


「……凪はバレンタインにチョコ渡す意味ちゃんと知ってる?ただチョコを食べれる日だと思ってるんじゃない?」
「モテるモテないの話してたし、それはないと思うけど…」
「なら私が完全恋愛対象外ってことか…」
「それもないんじゃないかな」
「あれを見て本当にそう思う?」


嬉しそうにチョコを自慢する凪はやっぱり恋愛感情など微塵も気にしていない気がする。ひたすらにはしゃいでいたけど相手は充先輩だ。すぐに玩具にされて今度は違う意味で騒いでいる。
項垂れる私をよそに、哲は凪を見て小さく笑って私の問いに答えた。


「うん、思うよ」
「えぇ…」


流石にそのフォローは無理だろうと哲をジト目で見つめれば、にこりと微笑まれる。


「あれだけ充先輩はたくさん貰ってたって数を気にしてた凪が、優のチョコ1つであそこまで嬉しそうにしてるんだよ?」
「……」
「優も鈍感だよね」
「…哲には言われたくない」


本命だろうチョコを義理だと勘違いするような哲には。
けどその言葉に頬が熱くなったのは、きっと少し期待してしまったから。


「…哲」
「なに?」
「はい」
「え、僕にもくれるの?」
「もちろん。友チョコはあげるつもりだったよ」
「ありがとう、優」
「どういたし……」
「あーーーーー!!」


私の言葉を遮るような大声は、先ほどまで充先輩に遊ばれていた凪だ。驚いてそちらを見るとずんずんと近付いてくる。ちょっと顔が怖い。


「凪?どうしたの?」
「何で哲にもあげてるんだよ!」
「え…?」


私と哲はきょとんと凪を見つめる。後ろに見える直也先輩は苦笑して、充先輩はにやにやと笑っているし色々分からない。


「何でって、友チョコ…」
「優は俺だけに渡せばいいだろ!」
「…っ!」


え、ちょっと、なにそれ…
凪はなに言ってるの…?
真っ直ぐに見つめられて視線を逸らせない。


「哲も受け取るなよ!」
「えぇ…そんなこと言われても…」
「よお優、俺と直也の分は?」
「え?えと、い、一応ありますけど…」
「はぁ!?何で!?」
「そりゃお世話になってるし……でも充先輩も直也先輩もたくさん貰ってるから逆に迷惑かと思って…」
「優からのチョコを迷惑だなんて思うわけないだろう?」
「そうそう全然迷惑じゃないぞ。むしろ優からのチョコ欲しいな?」


直也先輩は相変わらず優しいし充先輩は何か企んでるみたいた笑みだし哲は呆れてるし凪は怒ってるし…いきなり騒がしくなって注目の的だ。そもそも充先輩たち2人がいる時点で注目の的なわけだけど。


「優!充には絶対やるなよ!」
「ひどいなー、凪ー」
「うるさい!優に近付くな!」


充先輩を威嚇する姿はきゃんきゃん吠える仔犬のようでまるで迫力がない。充先輩は面白がるばかりだ。


「凪、さっきから何怒って…」
「いいか優!俺以外には絶対あげちゃダメだからな!」
「え、え?」
「優はこれから先ずっと、俺だけに渡してればいいんだよ!」
「っ!……は、は…い…」
「えー、これから先"ずっと"俺にもくれないのか?」
「だからこっち来るなよ!」


意味深に強調されて意識せずにはいられない。ぎゃーぎゃー騒ぐ2人を見ていたけど、抑えきれずにガンッと机に額を打ち付けて悶える。両側から哲と直也先輩に肩を叩かれた。


「あ、の…今のって…」
「来月が楽しみだね」
「期待してると良いよ」
「〜〜〜〜っ」


これだけ期待して違ったらどうしてくれるんだと思いつつ、期待せずにはいられなかった。平穏な心地良い日々は、騒がしくドキドキの治らない日々になりそうだけど…それも、悪くはないかな。


end
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学パロで哲と凪の同級生。別のクラスの大和は風紀委員かな。でも充先輩が生徒会長か風紀委員長やってそう。もしくは直兄さんが生徒会長か…どれも捨てがたい…!
きっと同級生には真依ちゃんイミゴ音子ちゃんがいる。
先輩にはタガタさんと大外さんと阿鳥先輩いてめちゃくちゃモテてそう。いきなりの混合すみません!



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