完璧万能手の噂話

群青色の管理人、青さんより
「サイレントブルー」と当サイトの「貴方の隣で咲く花になりたい」のコラボ小説頂きました!

サイレントブルー主とウチの子が出会うまでのお話!


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太刀川隊に完璧万能手の女の子がいる。

そのことを晶が知ったのは、ラウンジで友人である佐鳥を待っているときのこと。近くにいたC級隊員が噂しているのが偶然聞こえたのだ。
え、完璧万能手ってタマコマの木崎さんだけじゃないの?
興味がないと人の名前も覚えない晶がここで木崎レイジの顔を思い浮かべたのは珍しいことだった。
完璧万能手といえば、隊長である荒船が目指しているものだ。隊長大好きな晶が無視できる話題ではない。佐鳥が戻ってきたら聞いてみよう。そう決意した晶は、戻って来るのが遅いなと不満げに口を尖らせた。佐鳥が飲み物を買いに行ったのはついさっきだ。戻ってきた佐鳥はなぜ怒られたのか分からなかった。

「え?春ちゃんのこと?」

知らなかったの?と目を丸くした佐鳥にムッとしたが、その「春ちゃん」のことを知りたいので我慢だ。同い年にそんなすごい女の子がいるなんて聞いてない!

「話したことあるよ!」
「ないよ!」
「また佐鳥の話聞き流してたんでしょ!」
「そうだよ!」

聞いていたら忘れないであろう話題なので、多分そう。狙撃練習中に話したとか眠いときに話した内容は大体聞いてない。佐鳥もそれを知っていて話し掛けて来るのだから、どっちもどっちである。

「同じ学校だよ?」
「え!?」

晶が通うのはボーダーと提携している普通校なので、いてもおかしくはない。というか彼女は晶の隣のクラスなので、入学してから何度かすれ違ってはいるだろう。

どんな子だろう?

屈強な逞しい姿を想像していた晶が学校で見つけた「春ちゃん」と話すようになるのは、まだまだ先のことだ。


◇◆◇


「春ちゃんって知ってますか!」

作戦室に入るなり一目散に荒船に駆け寄った晶は、開口一番そう言った。手に持っていたタブレットから顔を上げた荒船は、興奮気味に目を輝かせる晶を見て訝しげに眉を潜めた。

「太刀川隊の!完璧万能手の!」
「ああ…如月か」
「きさらぎ…春ちゃん…」
「知らなかったのかよ」
「太刀川隊がA級1位ということは知ってます」

どこの隊がA級かということは流石に知っているが、関わったことのない人のことはよく知らない。晶がA級で全メンバー知っているのは、嵐山隊ぐらいだ。

「お前、弧月好きなくせに……太刀川さんは知ってるか?」
「1位の人ですね」
「なんでそんなに興味なさそうなんだよ」

弧月二刀流は興味があるが、太刀川を一度見掛けただけの晶には、なんか恐そうという印象しかなかった。総合1位から4位は恐い。時々会う当真でさえ、晶はこわかった。

「如月も弧月二刀流だぜ」
「本当ですか!?」
「加賀美にデータ見せてもらってこい」
「やったぁ」

「倫ちゃーん」と奥の部屋に入って行った晶を見送って、荒船はため息を吐いた。あんなに他人に興味を持つのは珍しい………けどな…。

「荒船が完璧万能手目指してるって聞いたときよりテンション高いよな。五月」
「荒船さん、ドンマイ」
「うるせぇよ」

戦闘記録を見た晶が「春ちゃんすごかった!」と荒船に語る姿を見て、同い年である半崎は思わず口を出した。

「そんなに気になるなら、話し掛けてみれば?」

「隣のクラスだし」と続けた半崎に晶は力強く頷いた。

次の日、高校に登校してすぐ晶はさっそくB組へと足を向けた。B組と言えば、時枝のクラスだ。彼に聞けば教えてくれるだろうと探すが、姿は見えない。

「とっきーいない…」

あれ、嵐山隊って今日防衛任務だっけ?端末を確認すると、佐鳥から『防衛任務だからノートよろしく〜』とメッセージが来ていた。今それどころではないので、返信はしない。

「どうしよ……」

教室に入って行く人を避けながら、ドアから教室の中を覗き込む。知らない人に話し掛ける勇気などない。

「あ……いた」

記録で外見は知っていたため、すぐに見つけることは出来た。凛々しい戦う姿とは打って変わって、晶と同じ制服を着て可愛らしい笑みを浮かべていた。楽しそうに話している相手も見たことある気がするんだけど、誰だったっけ?と晶は一人首を傾げた。

(なんか………距離近い?)

春ちゃんの手が彼の腕に触れたのを見て、晶はハッと口を押さえる。
か、彼氏か!美男美女のカップルなのか!
事実は違うのだが、二人を知らない晶にとってそうとしか思えなかった。赤くなった顔を手で覆っていると、余鈴が鳴り響いたので駆け足で隣の自教室へと戻った。ドキドキした!

「半崎くん大変!春ちゃんが美男美女カップル!」
「意味分かんないんだけど」

何が言いたいのかよく分からなかったが、面倒くさいことに巻き込まれるのは御免だった。抱き着いてきた手を離しながら「さっさと席着きなよ」と言うと、晶は渋々席へと戻った。
休み時間になり席を立った晶は、寝た振りをしようとした半崎の腕を掴んで「着いてきて」と声を掛けた。
自分を頼りにする同い年のこのチームメイトに半崎はいつも振り回されるのだ。


◇◆◇


晶が学校で初めて春ちゃんを認識してから数日が経ったが、遠くから眺めるだけで未だに話し掛ける様子はない。晶に引っ張られてB組に連れられた半崎は、うんざりした様子で時枝に「どうにかして」と頼むが「五月のペースで話し掛けたらいいんじゃない」と時枝は見守る構えだ。

「……なんでオレまで」
「一人じゃ心細いんだよ」

しゃがみこんで春ちゃんを覗く晶は、最初は不審な目で見られていたが、ここ数日でB組の生徒は晶を見ても驚かなくなっていた。見られている本人も気付いてはいるが、話し掛けてこないためどうすればいいのか分からない。時枝から晶のことを聞いている烏丸は、視線を感じる度に「いっそ春にも話してしまおうか」という思いに駆られた。親友が好意を無下にするはずがないのだから。
数人から動向を見守られている晶は、そうとも知らずにこっそり覗いているつもりだ。

ある日廊下を歩く春ちゃんに気付いた晶は、いつものごとく教室からそっと春ちゃんを見ていた。話し掛けるためにB組に通っていたはずが、今じゃ見ているだけで満足だった。

「五月どうしたの?」

教室から顔を出す晶に友人である佐鳥は首を傾げた。この男、両者の友人であるにも関わらず現状を全く理解していなかった。「最近、休み時間になるとよく教室から出て行くな」と思っていた程度だ。晶から聞いているだろうと、誰も彼に教えなかった結果である。つまり、晶は話していない。

「そこにいると邪魔」
「えっ…」

邪魔者扱いにショックを受けた佐鳥だったが、晶の視線の先にいる二人に気付いて声を掛けようと手を上げた。

「ちょっ……何しようとしてるの」
「え!?えー…?」
「み、見つかるじゃない」

そう言って佐鳥が上げた手にしがみついた晶が廊下に顔を戻すと、真ん丸な目と視線がばちりと合った。

「あ………えっ…あ……」
「ん?春ちゃんがどうしたの?」
「こっ…こっち見て…」
「そうだね!行こ!」
「は!?」
「春ちゃーん!」

佐鳥に腕を引っ張られながら近付いてきた晶を春は「いつも見てくる子だ」と笑いながら出迎えた。

「はじめましてー!」
「あぅ……さ、さつき…あき…ら……で」
「五月どうしちゃったの!?」
(……やっと来たな)


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ありがとうございました!

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