あなただけに揺れたい

出水連載の「君と僕の見ている風景」と当サイトの太刀川連載「貴方の隣で咲く花になりたい」のコラボ小説頂きました!

なので原作より1年前設定です。

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次の質問に答えよ、という問題が今自分の目の前にあったとする。 普通に学校で習っている授業内容を理解しているかどうかを試す意味で英文やら日本語やら意味の分からない昔の言葉をツラツラと並べられているのなら、まだいい。 いいのだが。

今回の問題、と言うのはそんな学校で習った事の理解を認知する為のものではなく、しかもなかなかにクセのある内容になっている。

と、言うのもその質問内容と言うのが、


「あの…っ、太刀川さんと結城さんは付き合ってるんですか?!!」


…これだ。


「…意味が分からない」
何を、言っているのか。 そんな顔をして答えれば太刀川さんから「お前と付き合うのだけは御免だわ」と聞こえてきた。 その台詞、そっくりそのまま返したい。 太刀川さんと付き合うとか天変地異が起きてもありえないしそれだけは御免被りたい。

ちなみにこの発言をしたのは勿論私でもなければ太刀川さんでもない。


では、誰がこの発言をしたのか?
まず第三者が思い浮かぶのは太刀川さんの部下である、琥珀色の切れ長の瞳が特徴的な射手・出水公平だろう。 でも彼は違う。 何故なら彼は、


「太刀川さんと…結城が…付き合って…っ!!!」


何かが彼の笑いのツボを抑えたのだろう、珍しくお腹を抱えて大笑いしている。 本当に珍しい。 そして失礼極まりない。 まあ彼は最近よく関わる様になった上に私と太刀川さんの一連のやり取りを見ているから慣れてしまったんだろう。 人間、慣れてしまえば何でも出来る。


と、すれば他に誰がいるのだろう? と疑問に思われるかもしれないがもう一人、隊員がいるのだ、この部隊には。 今まさに顔を赤らめ、両手に握りこぶしを作り私と太刀川さんへと例の質問を投げかける、

「…春ちゃん、意味が分からない」


可愛らしい、女の子の中の女の子。 ただしそんな可愛らしい見た目とは裏腹に太刀川隊所属、更にはどっかの誰かと同じ弧月二刀流がメインの完璧万能手。 如月春ちゃん、が。

そもそもだ。 何時私が春ちゃんと知り合ったのかと言うと私が太刀川さんとーー色々と事情はあるのだが割愛するーー渋々師弟関係、という納得のいかない間柄になってしばらくしてからの事。

丁度訓練室で太刀川さんに模擬戦で負けたところに「太刀川さんに稽古を付けてもらおう」と私からしたらとんでもない理由でたまたま春ちゃんが入ってきたのが始まり。 その時には春ちゃんはもう完璧万能手として太刀川隊に途中入隊していて。
「ほら見ろよ結城。 如月のあの俺を慕う表情!! お前も見た目はいいんだからあれくらい可愛げ出せよ」とか何とかいいながら自慢気に春ちゃんの話をする太刀川さんが鬱陶しくて、向こうが換装を解いた瞬間に顔面に弧月を振りかざした時の春ちゃんの驚き様は忘れない。

しかも、春ちゃんは出水と違って私の事も解散した部隊の事も知ってたし。 本当に、何で彼だけが知らなかったんだろう、ある意味奇跡だ。


まあそんな昔話に花を咲かせる気は毛頭ないので今に時間を戻すと、冒頭の台詞を言われる羽目になった原因は、やっぱり太刀川さんにある訳で。
今日も普段通り一人で本部内を歩いていたら、太刀川さんに捕まった。 だけど今日は何だか神妙な面持ちだったので、普段ならば絶対にしないであろう心配を、つい、してしまったのだ。

誰にも関わらない、関わりたくないって、決めたのは自分なのにね。
そう、頭の片隅で声が聞こえてきた様な気がしたがこの際無視だ。


「…どうしたんですか、太刀川さん」
「…結城、俺はどうしたらいいんだ」

…どうやら事態は本当に深刻な様だ、この戦闘以外まるでダメでもあっけらかんとしてる人がここまで頭を抱えて悩むなんて、珍しい。


「結城…俺……俺は…っ!!」
「……太刀川さん……」
「俺は……っ!!



どうしたら授業のレポートを上手く誤魔化して単位を貰えるか分からないんだ…っ!!」


「…………は?」
レポート? 誤魔化して? 単位を? 貰う???
何を言っているんだろう、この人は。

「結城、お前俺の弟子だろ何とかしてくれ出来ればレポートを書くのを手伝って下さい!!!!!」

頼む、この通り!!!
そう言いながら廊下に突然土下座を始める太刀川さんを見て、情けないやら呆れるやら。
…とは言っても、まず思うことはこれだ。

「…太刀川さん……」
「何だ結城、手伝ってくれるのか?!!」
パッと顔を輝かせ、こちらを見上げてくる太刀川さんの頭の方へと私は思い切り足を振り上げ、そして。


「本当に、一回死んで人生やり直してきて下さい」

そのまま、太刀川さんの頭を足で床へと叩きつけた。
その時にゴンっ、という鈍い音が聞こえたが私には聞こえないし気にしない。
「い”…っでぇえええええ!! おま、結城!! 俺今生身だぞもうちょい加減しろよ痛いだろ!!!」
「当たり前じゃないですか、痛い様にしてるんですから」
「俺は年上でお前の師匠なんだから労われよ!!!」
「そこまでバカだと労わる気持ちも無くなりますよ」
言いながらも決して足は止めずにひたすら太刀川さんの頭は床と空中を往復している。
あ、このままだと太刀川さんもっとバカになるかな。
でももしかしたら一周回ってバカが治るかもしれないし。

そんな事を呑気に考えていると、ふと私の後ろから聞き覚えのある声二人による会話が聞こえてきた。
…今日は太刀川さん絡みの人に会う日か何かなのだろうか。

「だから春がもっとこう、ガーッといかねーとダメなんだって!!」
「そ、そんな事分かってますよ!! でもどうしても勇気が出なくて…!! …あ、た、太刀川さん、と…?」
「……結城…?」
「……出水…」
「如月…!! 出水!! お前ら結城を何とかしろ!!」

突然歩いていた先に私と太刀川さんがいて、しかも私は足で太刀川さんの頭を容赦なく踏みつけて太刀川さんは床に顔面を押し付けている状態。 二人の目が点になっているが仕方のない事だと思う。


「聞いてくれ二人とも!! 結城が俺を虐めるんだ!!」
「人聞きの悪い事言わないで下さい」


大分事実をねじまげて説明しようとする太刀川さんの後頭部を最後に一度盛大に蹴り飛ばし、一つ溜め息を吐いて私は渋々事のあらましを説明する事にした。

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「…そりゃ太刀川さんが悪いわ」

話終えた後、出水が呆れた様に太刀川さんを見ながらそう発するのを聞いて私はほら見ろ、と思ったが太刀川さんは納得がいかなかったらしく。


「何だよお前結城の肩持ちやがって。 やっぱあれか。 自分のところの隊長よりも好…「太刀川さん!! 黙って!!!」」

何かぶーぶー文句を言っていた太刀川さんの言葉を遮る様に大声を出したと思ったら一瞬私の方を見たと思うと「…さっきのは気にすんな」とだけ呟いてそのままプイ、とそっぽを向いてしまった。 別に、気にしてはいないんだけど。

「…春ちゃん?」

その後も太刀川さんと出水が何やら騒いでいる中、春ちゃんだけがやけに静かで。
思わず声をかけると「…うん!」と一人何かに納得した後ギュッと両手で握り拳を作り顔を真っ赤にしたと思ったら急に私の方まで顔を近付けてきて、言ったのだ。



「あの…っ、太刀川さんと結城さんは付き合ってるんですか?!!」


◆◆◆

そして冒頭に話は戻る。
その言葉を聞いて出水はお腹を抱えて大笑い、太刀川さんはすごく嫌そうな顔をして、私は春ちゃんの突然の発言に「意味が分からない」としか答える事が出来なかった。

「…どうして、そうなるの?」

ただ率直に疑問に思った事を尋ねれば春ちゃんは私と太刀川さんを見比べながら、ゆっくりと話し始めた。

「た、太刀川さんと結城さんすごく仲良さそうですし、それに結城さんがボーダーに入隊してからずっと師弟関係ですし…。 一緒にいる時間が長いからそうなのかな、って…」
「…太刀川さんとはそんな関係じゃないよ」


師匠だなんて認めてないし。 でも、根本にあるのはそんなんじゃないんだよ、春ちゃん。

私は、ただ太刀川さんの優しさに甘えて、自分のやりたいをやろうとして、それでもその優しさを中途半端に捨てきれずにいるだけなんだから。


「…そんな、関係じゃ、ないよ」


もう一度、春ちゃんを諭す様に言う。
太刀川さんは溜め息を吐いて「ま、そう言う事だ如月」と言いながら、私の頭をグシャリと撫でてきた。
「結城と俺はただの師弟関係で、そんなんじゃねえよ」
「…すいません、結城さん。 変な事言っちゃって…」
「気にしてないから大丈夫だよ、春ちゃん」
「そ、そうですか? …良かった…!!」


二人が付き合ってる訳じゃなかったし、本当に、良かった…。

そう、ぼそりと呟いた春ちゃんの顔が、心なしか赤くて、うっとりと、それでいてどこか安心した様な顔をしていて。
少し俯いて、こちらには顔が見えにくいが、明らかにそんな表情で太刀川さんを見ていて。


…もしかして、春ちゃんって…。


「ん? どうした如月。 黙り込んで」
そう言って太刀川さんが少し身を屈めて春ちゃんの方へと自分の顔を寄せた途端、春ちゃんは先程よりも更に顔を真っ赤にして、大丈夫です、何でもありません、と言いながら慌て始めた。


…やっぱり、春ちゃん…。


「…嘘でしょう…? 春ちゃんみたいな子が…太刀川さんを…?」
ありえない。 そう思いながら春ちゃんと太刀川さんの方を見ていたら「や、結構マジ」と今まで黙っていた出水が二人に聞こえない様に口を開いた。
「春のやつ太刀川さんに一目惚れして、役に立ちたくて、完璧万能手になって太刀川隊に入隊したんだよ」
「…人生を棒に振ってる…」

分からない。
結構長い付き合いだけど、私は太刀川さんには全くそんな感情を抱かなかったのに。 しかも春ちゃん程いい子なら、他に幾らでもお似合いのひとはいるだろうに。


「…結城、お前やっぱ太刀川さんの事好きなわけ?」
「…何でそうなるの?」
「いや、違うって分かってんだけど、ただ…」


何かを言いたそうな出水の次の発言を待っていると、「にしても如月は本当に俺の自慢の部下だな!」とか何とか言いながら春ちゃんの額に自分の額を合わせて頭を撫でてあろう事か女子中学生に手を出す無自覚な犯罪者が一人。 一方で、春ちゃんは顔を林檎の様に真っ赤にさせてパニック寸前。
しかも太刀川さんの本人は何で春ちゃんがそんな事になっているのか気付きもしない。


…あ、春ちゃんには悪いけど、ダメだ。


「太刀川さん本当に最低ですね、死んでくださいさようなら」

そのままスタスタと近付き、太刀川さんの上半身目掛けて綺麗な回し蹴りを浴びせた。
太刀川さんが少し吹っ飛んで、春ちゃんがビックリして慌てて、出水が引いた様な声を出したけど、知った事じゃない。


「…春ちゃんみたいないい子に、太刀川さんは勿体ない」


人と、なるべく関わりたくはないけれど。
かと言って太刀川さんに春ちゃんみたいな子は勿体無さすぎるから。


「おま、結城何すんだよ!! 俺を殺す気か!!!」
「何言ってるんですか当たり前ですよ」
「酷すぎだろお前!!」
「やかましいですよ太刀川さん」
「(太刀川さん可哀想に…)」
「あああ、あの!! 太刀川さんも結城さんも喧嘩は止めて下さい!!」


とりあえず、太刀川さんを2、3発蹴り倒しておく事にする。


「あなただけに揺れたい」/title by 星食


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ありがとうございました!

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