これからも大好き!

前から考えていたことを決行するなら今日しかなかった。

HRが終わってすぐに晶が隣のクラスを入口から覗き込むと、目的の人物はのんびりと鞄に教科書を入れている最中だった。事前に彼が今日はバイトがないことは調査済みだ。
「とりまる君にお願いがあるんだけど」
そろりと近付いて声を掛けると、疑問を口にすることなく頷いた烏丸に晶は首を傾げる。突然押し掛けたのになんでだろう?こそこそとそう聞いてきた晶に引っ張られて来た半崎は呆れた顔を隠さない。広報活動でいない時枝が上手く烏丸に今日のことを伝えているとはあえて言わなかった。
「春の誕生日プレゼント買いに行くんだろう?」
烏丸のその一言に三人の会話を注目していた同級生(特に女子)は、「なんだそういうことか」と各々帰り支度を始める。春と会うためにB組に通っていたこともあるため、烏丸のクラスメイト達の中では「晶といえば春」という認識だった。今日は春がいなかったため、本人は気づいていないが晶が教室に来てからずっと注目を浴びていたのだ。イケメンで人気のある烏丸と話しているだけで彼に恋する女子に睨まれそうなものだが、晶が連れてきた半崎がいい緩和材になっていた。
それはともかく、春の誕生日プレゼント選びにアドバイスを貰おうと思っていた晶は、烏丸の言葉に再び首を傾げていた。とりまる君はカッコイイだけじゃなくエスパーだったのか!なんてアホなことを考えている晶は「さすが春ちゃんの親友だ!」とよく分からない納得の仕方をしていた。馬鹿だ。
「と、とりあえず行こうか」
アドバイスを貰ったら1人で買いに行こうと思ってた晶は着いて来てくれるらしい烏丸に少し驚いたが、ここで話していても仕方ない。あとは歩きながら話そうと促した晶に烏丸も頷いた。
春といつも一緒にいる烏丸に話し掛けるには、太刀川隊が防衛任務でいない今日しかなかったのだ。

「プレゼント、何にしようか決まらなくて」
とりまる君なら春ちゃんといる時間長いから好みとか知ってるよね?そう烏丸に協力を願い出た晶にデジャビュを感じながら烏丸と普通に話せている晶に半崎は驚く。1ヶ月ほど前に春により烏丸が晶の足止めをしていたことで慣れたのかもしれない……その半崎の考えは烏丸の視線が向けられた際に自身の陰に隠れようとした晶の行動によって否定された。陰に隠れながら烏丸に話し掛けるのはどうなんだと二人の間に挟まれた半崎の口からはため息しか出てこない。訂正、普通に話せてはいなかった。面倒だが、この状況の晶を置いて先に帰るのは流石に可哀想だ。
晶とはいえば、これで前より烏丸と普通に話せている気になっていた。1ヶ月前の謎の烏丸との交流のときは訳もわからず混乱したまま会話していたが、今日は二人きりじゃないためそこそこ強気だった。気のせいである。
大好きな春へのプレゼントを何にするか今日までずっと悩んでいたが、彼女の誕生日はもうすぐだ。焦った末に烏丸に協力してもらうという結論にいたった晶は、春も自分の誕生日の時に同じことをしたなど考えもしない。
誕生日に春から貰った猫のヘアピンを着けてやる気満々。烏丸にも「似合っている」と褒められて機嫌も上昇した。もう晶は、春へのプレゼントのことしか考えていなかった。びくびくしていた晶の雰囲気が変わったことを烏丸は表情も変えずに楽しんでいた。
「以外と面白い奴だよな」
「ああ………馬鹿なんだ」
意気揚々と雑貨屋へと入っていた晶を追って店内に入ると、男二人を置いていった晶は真剣に商品を選んでいた。
「アクセサリーにするのか?」
「うーん…どうしよ…」
キラキラと輝くネックレスや指輪は魅力的だが、そういうのは彼氏からもらうものだろうか?ヘアピンも可愛らしいものがいっぱいあるが、春と同じものを渡すのもなんだか安易な考えだ。大勢からプレゼントを貰うであろう春には難しいかもしれないが、他の人と被らなくて春が喜ぶ素敵なものを渡したい。晶はプレゼントへのハードルを上げすぎて決められなかった。
「世界でひとつだけのもの…」
「無茶言うな」
「だって喜んでもらいたい…」
ムスリと頬を膨らませた晶に近くの雑貨を指さして「これは?」と聞くが「それ、春ちゃん持ってる」と不機嫌そうな返事が返ってきた。もう店変えたほうがいいと思う。そう半崎が言う前にそれまで黙ってプレゼントを選ぶ様子を見ていた烏丸が口を開いた。
「そういえば、さっき………」


誕生日当日───晶はラッピングしたプレゼントを鞄に隠して、春と待ち合わせしているラウンジへと急いだ。防衛任務がなきゃ一緒に本部まで来ていっぱい話せたのに!
「晶ちゃん!」
手を振って出迎えてくれた春の笑顔に晶は表情を明るくする。
「春ちゃん!」
「晶ちゃん、防衛任務おつかれさま」
「えへへ…ありがとう春ちゃん」
晶はさっきまで近界民に銃弾を撃ち込んでいたとは思えないほど和やかな雰囲気を出していた。鞄から小さなプレゼントを取り出した晶に春は表情を緩めて晶からの言葉を待った。
「春ちゃん、お誕生日おめでとう!」
「ありがとう晶ちゃん!」
プレゼントを受け取った春をそわそわと見つめる晶に笑って、少し歪なラッピングのリボンをほどくと中からは可愛らしい三日月の形のストラップが出てきた。透明な中に綺麗な色の押し花が入っている。
「可愛い」
「ほんと!?」
「うん」
「そ、それ………私が作ったの」
プレゼントを選びに行ったとき、烏丸が見つけたハンドメイドのお店………世界にひとつだけのものを渡したいなら手作りのものはどうかと彼は言った。ちょうどストラップ作りの教室を開いていたため、晶は先生に教わりながらビーズや押し花を月の型の中に並べて、最後にライトをあてると固まる液体を流し込んだ。ライトをあてたら本当に固まってすごい。太刀川隊のエンブレムにも描かれている三日月と晶の中で春のイメージである明るい色の花。よく見るとひっくり返っている押し花や一部が型からはみ出ててしまっていて、不器用ながらもがんばって作ってくれたのだと春は笑みを深めた。

「春ちゃん、大好き!」


Happybirthday!

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青さんから春ちゃんのBDコラボ小説頂きました…!天使しかいない可愛い…!
これ私が書いた晶ちゃんBDのコラボ小説と繋がってるからほんと嬉しい…!
毎年イラスト頂いてて、3年目のお祝いに文を貰えて幸せだ…青さんありがとうございました!

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