弟子がバカップルなら、師匠もバカップル

前書き

midnight twinkleの砂糖ちゃんより!BDプレゼント!
砂糖ちゃん宅の辻ちゃんバカップルとウチの太刀川連載のコラボ小説頂きましたーーー!!
まさかの辻ちゃんバカップルと…!ひえ!嬉しすぎる…!そしてどっちのバカップルもとんでもなく可愛いです…!

砂糖ちゃんありがとうございました!


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最近変わった事がある。それは私のお師匠様のことだ。いつもへらへらしてたけれど、最近は拍車をかけてへらへらと緩んだ顔をしている。――これはどういう事だろうか。

「ねえ、辻ちゃん。何か知ってる?」
「え?太刀川さんの事ですか?」

大好きな大好きな辻ちゃんは今日もかっこいい。私の言葉に少しだけ首を傾げて、口元に手を当てて考える素振りをする。辻ちゃんも太刀川さんと同じ孤月使いだから、私が知らない所で一緒に模擬戦をしてたりする。そう考えてから、私って全然太刀川さんの事知らないなあなんて思った。……まあ四六時中、辻ちゃんの事ばっかり考えてるからっていうのもあるんだけど。

「なんかさ、最近の太刀川さんってすっごーくデレデレしてない?なんだか幸せオーラ漂ってる感じ……」
「……それは恋人が出来たからじゃないですか?」

「ええっ!!?太刀川さん彼女出来たの?!!」

初耳だ。初耳である。ていうか辻ちゃんなんで知ってるの?!
余りの衝撃に固まっていると、まさか私が知らなかったとは思っていなかったらしい辻ちゃんが少しだけオロオロしている。

「鞠香先輩……知らなかったんですか?」
「うん、全然知らなかった……あ、相手は……?」
「同じ太刀川隊の如月ですよ。如月春」
「……ええーっ!!?春ちゃんっ?!」

さっきから驚きの嵐だ。如月春ちゃんならよく知っている。パーフェクトオールラウンダーの二つ下の女の子。明るくて元気で、笑顔が太陽みたいに眩しくって可愛い女の子……そして。

「春ちゃんって……二宮さんが好きな子だよね?」
「ええ……まあ……」

私には暴言ばかり吐いて酷い扱いをしてくる二宮さんが春ちゃんの前では唯一優しく接しているように見えていた。だから私はてっきり、二宮さんと……って思っていたのに!


「辻ちゃん!こんなところにいる場合じゃないよ!太刀川隊の作戦室に行こう!!」
「えっ?ちょ……鞠香先輩……?!」

俄かには信じがたい。私の頭の中では二宮さんと春ちゃんのセットがデフォルトだったのだ。……まさか太刀川さん、略奪?!など色々な考えが浮かぶ。
兎にも角にも、自身の目で確かめるのが一番である。

▽▼▽


今日も可愛い可愛い鞠香先輩が何やら悩んでいる。うーん、と唸りながら口元を尖らせる鞠香先輩はとても魅力的だ。
そんな鞠香先輩は自身のかつての師匠だった太刀川さんの恋愛事情を全く知らなかったようで。何故か興奮気味の鞠香先輩に手を引っ張られ、俺は太刀川隊の作戦室へ足を踏み入れていた。

「太刀川さーん!」

「は?鞠香先輩に辻?!なんで?」
「あれ〜鞠香だ〜やっほ〜」

出迎えてくれたのは出水と国近先輩。鞠香先輩は二人の声に気付いて柔らかく微笑んだ。……というか、出水。お前なんで鞠香先輩を下の名前で呼んでいるんだ……。

「どうしたの?太刀川さんに用事?」
「柚宇!そうなの、太刀川さんっている……?」
「……うーん、いるのはいるけど、」
「いるけど……?」
「今はお楽しみ中かも〜」
「……お楽しみ中……?!」

鞠香先輩の目が点になっている。ああこれは何か良からぬことを想像しているな、と小さく苦笑した。国近先輩は鞠香先輩を見てニコニコしてるから多分、鞠香先輩はからかわれているのだろう。

「太刀川さんなら奥にいるよ〜」
「本当に……?ちょっと辻ちゃん、早く行こう!」
「えっ俺もですか?」

俺を見る鞠香先輩の顔が険しい。なんで俺まで巻き込まれているのかは謎だが、鞠香先輩がいつになく強引に俺の腕を引っ張る姿がとても愛らしいので何も突っ込まないでおいた。
太刀川隊の作戦室は自分の作戦室よりも広い。鞠香先輩に引っ張られ、奥へ進むと何やら香ばしい匂いが漂ってきた。

「ほら春、口開けろ」
「た、太刀川さん……!ちょ、っと恥ずかしいです……」
「誰も見てないだろ?」
「そういう問題じゃなくて……!」

美味しそうな香りと共に聞こえる二人の声。隣の鞠香先輩を見ると、……あ、すごい顔を顰めている。
二人は七輪を囲んで何故か餅を焼いていた。二人の間には甘い空気が流れていて、見てるこっちが恥ずかしくなる程密着している。

「太刀川さーん?!な、何やってんの……!」

「……ん?おお、鞠香。どーしたんだ?」
「え……!桂木先輩……?!」

二人の仲睦まじそうな声を聞いて、鞠香先輩が二人の前へ飛び出した。……やはり師匠に彼女が出来るのは複雑なのだろうか?太刀川さんの事ばかり考えてる鞠香先輩に寂しい気持ちになった。
太刀川さんはいつも通り飄々とした様子で、逆に如月は何故か顔を青ざめさせていた。……コイツも何か良からぬ事を考えていそうだ。

「どうしたんだじゃないよ!!太刀川さん!彼女出来たとか聞いてないよ!」
「あれ?言ってなかったか?」
「もう……!太刀川さんのばか!」

鞠香先輩が何故か怒っている。二人の会話に横で如月はオロオロとしていた。……これはどういう状況なのだろうか、と鞠香先輩の小さな手を握りながら視線を左右に動かす。

「春ちゃん……!」
「ひぃ……!な、なんですか?!」

如月の顔が青い。鞠香先輩の凄い剣幕に小さな悲鳴を上げていた。太刀川さんから標的を変えたように、じりじりと如月に近付く。そしてどんどん顔が曇っていく如月は鞠香先輩を異常に怖がっていた。そんな女子二人の姿を太刀川さんはきょとんとした顔で見ていて。
……いや、あなたが元凶なんですけど。

そんな事を考えていたら鞠香先輩の手が俺から離れる。そしてその小さな手はそのまま如月の手をがしり、と握った。如月の息を呑む音が聞こえる。

「ごめんなさいごめんなさい桂木先輩……!」

「春ちゃん……こんな太刀川さんでいいの?」
「ごめんなさ…………え?」

鞠香先輩を前にして何故か盛大に謝り始める如月。やっぱり……絶対何か勘違いしてるな。

「太刀川さんすっごく強いしかっこいいけど、頭悪いし餅ばっかり食べてるし、ぼーっとしてるし、戦闘狂だし、百歩譲ってもまだ口うるさい二宮さんの方がマシだよ……?」
「おーい鞠香。お前、何言っても許されると思うなよ」
「太刀川さんは黙ってて!……春ちゃんは、それでも太刀川さんでいいの?」

言っている事はただの悪口にしか聞こえなかったが鞠香先輩の顔は真剣だった。
そして、鞠香先輩……それ二宮さんに聞かれたら絶対に怒られるやつだ。
さっきまで顔を真っ青にしていた如月はぽかんとした顔つきで。如月は数々の鞠香先輩の暴言に、茫然として立ち尽くしている。太刀川さんはヘラヘラした顔で鞠香先輩の頬を抓っていた。……あ、いくら太刀川さんでも鞠香先輩の可愛い頬っぺを抓るなんて許せない。

「桂木先輩……私……!太刀川さんが良いんです!!」

「!!……春ちゃん、」
「春……!おまえ……」

さっきまで茫然としていた如月が正常に意識を取り戻したように、強い眼差しを鞠香先輩に向ける。ああ、そうだ。如月は二宮隊に入っていた時からこんな奴だった。
如月の言葉に鞠香先輩は少し驚いた表情を浮かべて。けれど、それはすぐに柔和ないつもの鞠香先輩の顔に戻った。

「春ちゃん……!太刀川さんの事、大好きなんだね!」
「えっ……!……ええ、まあ……大好きです」
「もうっ!太刀川さんもこんな可愛くて良い彼女出来たなら教えてくれたっていいのにい〜!太刀川さん!可愛い可愛い春ちゃんの手、離しちゃだめだよ?」
「か、かわいい……!なんて、そんな……」
「当たり前だろ、鞠香?こんなに可愛い春の手、離すわけがない」
「た、太刀川さんまで……!」

……なんだこの状況は。先程の緊迫とした状況とは打って変わり、如月を二人で愛でる場と化している。
太刀川さんが如月の手を掴んで引き寄せ、ぎゅっと後ろから抱き締めていた。如月は真っ赤な顔をして小さくなっている。……青くなったり赤くなったり大変だな。

「ていうか、なんで鞠香にビビってたのかね〜?」
「そうそう!まあ、鞠香先輩ちょっと怖かったけど」

騒ぎを聞きつけた国近先輩と出水がいつの間にか此方へやって来ていた。太刀川さんは相変わらず如月にベタベタと構って、焼いた餅を自身の手から食べさせようとしている。

「ああ……えーっと、太刀川さんの彼女なんて認めない!とか言われるかと……思いまして……」

如月が太刀川さんの腕の中で苦笑する。……ああ、だからあんな態度だったのか。しかし、勘違いも甚だしいな……鞠香先輩に限ってそんな事言うはずがない。まあ、逆の事は言っていたような気がするが。

「えー!春ちゃん、そんな事思ってたのー?!」
「あ、えへ……すみません、桂木先輩……」

「わーん!辻ちゃーん!!」

如月が余所余所しい態度だったのは鞠香先輩も気付いていたようで、少しショックを受けた顔で俺の元へ飛び込んできた。……ああ、鞠香先輩……そんな悲しまないで。そんな顔も、とても可愛いけれど。
……しかし、この二人がとことん勘違いをしていたせいで一瞬流れていた不穏な空気が完全に無くなった事に胸をなで下ろす。
よしよし、と鞠香先輩の頭を撫でると甘えるように俺の胸に顔を寄せる姿は堪らなく愛しい。
太刀川さんは再びオロオロし始める如月を腕の中に引き寄せて、満足そうに彼女を見つめる。……おい、ここは作戦室だぞ。

「……バカップルそのものだな」
「え……?それ、お前が言う?」

出水の困惑した声が聞こえたが、鞠香先輩はどうやら太刀川さんたちの事について満足したようだし、本格的に俺に甘え始めたのでそろそろ作戦室をお暇しようと思う。
さて、今から鞠香先輩が大好きなカフェにでも一緒に行こうか。

end


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