Apple scandal ~人肌恋しいのは・return

前書き

夕子さんより!BDプレゼント!
40万hit企画で書いた人肌恋しいのはの続きを頂きました!
まさかリクエストで書いたやつの続きを頂けるとは…!人様の書くウチの子ってどうしてこんなに可愛いのかな…!めっちゃ萌えました…!
夕子さん、ありがとうございました

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ふっ、と意識が覚醒し、春は目を覚ました。
肌触りのよいシーツに枕カバー、寝心地の良い広いベッド。
目に写った天井や壁、家具類に、ここが自宅の自分の部屋ではないことがわかる。
けれど春は慌てることなく。
あれ、何でわたし・・・ と軽く疑問に思いこそすれ、まどろみの中再び目を閉じる。

何でわたし・・・ 二宮さんのベッドで寝てるんだっけ・・・






今朝起きた時、喉が痛かった。あと、少しだるさもあった気がする。

「春? ぼーっとしてると遅刻するわよ」

母に言われて壁の時計を見ればもうすぐ出る時間だった。

「具合でも悪いの?」
「ん、少し喉痛いだけだから大丈夫。いってきます」

“春、風邪か? 無理すんなよ。熱は?”

ここに双子の兄がいたら、そう言って額か頬に触れてくるところだろう。
けれど昨晩、太刀川隊は深夜から明け方にかけての防衛任務だった。なので今頃、帰って来た兄は夢の中。今日の学校は公休扱い、後でノート見せろとせがまれるに違いない。
それもあるから、今日は少し位喉が痛くてだるいからといって休むわけにはいかない。
それに学校が終われば今日も。
二宮に訓練をつけてもらえる。多少の不調など、換装してしまえば問題ない。二宮に会える貴重な時間、それを休むなんて選択肢は春にはなかった。

かくして、今日も本部は二宮隊訓練室にて。
訓練後に換装を解いた途端にくらっ、と目眩がした。

「春っ」

倒れる前に、二宮が支えてくれた。
朝は少しだけだった症状は、実は時間と共に悪化していた。
学校を終えて本部に向かう頃には、ますます喉は痛かったし、だるい身体は熱がある、と訴えていたけれど。

「大丈夫か? 」

抱き止められた春は、真っ赤な顔と潤んだ瞳で二宮を見上げた。

「だい・・・じょぶ、です」

そう言って二宮の腕から抜け出そうとするが、力が入らない。

「・・・風邪、か?」

春が風邪をひいたとしたら、その理由に充分、心当たりがある二宮が眉をひそめながら聞いてくる。

「ちがい・・・ ます。喉痛くて・・・ ぼーっとするだけです」

そう言った春が、こほん、と咳き込む。
完全に風邪の症状だ。

「無理するな。帰るぞ。歩けるか」

二宮は片手で春の腰を抱き、反対側の肩に春の鞄をかけ、手に自分の鞄を提げる。そうして隊室を後にした。
駐車場の自分の車の助手席に春を乗せ、少しだけシートを倒し、シートベルトを着けてやる。

「着いたら起こしてやるから、楽にして寝てろ」

そう言って、そっと頭を撫でてやると、こくん、と頷いた春が目を閉じた。
今日は春の方が先に来ていて、すでに換装していた。
そうして “二宮さん!今日もよろしくお願いします!” と元気よく挨拶してくる春は、健康そのもので。
当たり前だ、トリオン体に生身の症状など関係ない。いつでもベストコンディションで訓練や模擬戦でも、生身であれば耐えられないような怪我や無茶をしても、流れ出るのはトリオンだし、痛覚も切ってあれば痛みも感じない。
春は今日も、二宮が課す訓練によくついてきた。
だから気が付かなかった。春がこんな風に、風邪を引いていたことに。
・・・そして。
春が風邪を引いた原因が自分にあることを、二宮はわかっていた。
喉の痛みに熱、少しの咳。
この間まで自分が引いていた風邪と同じ症状だ。
その時、渡してあった合鍵を使って看病に駆けつけてくれた春に、自分はーーー

「風邪が移ったら俺に看病させろ、だったな」

二宮はそう呟くと。
春の家に向かっていた車の進路を変えた。





「起きたか」

ぼんやりと天井を眺めていると、二宮が部屋に入ってきた。

「二宮さん・・・っ」

それに春が、がばっ、と起き上がる。

「あ・・・」

途端に、くらぁ・・・と目眩がし、後ろに倒れそうになったが。

「バカが、急に起き上がる奴があるか。寝てろ」

手に持っていたトレーを、ベッド横のサイドボードに置いた二宮が抱きしめて支えてくれた。

「いえ。大丈夫です、起きます。寝かせてくれたおかげか、だいぶ楽になったので」
「そうか」

そう言うと二宮は、ぐっ、と春を抱き込む。
えっ、何・・・ と春はわずかに緊張したけれど。
やがて春を放した二宮が、寄りかからせてくれたそこには、立てられた枕があった。

「ありがとう、ございます」

枕をクッションがわりに、楽な姿勢で起きられるようになった春が礼を言う。変に勘繰りそうになった自分が恥ずかしかった。二宮はいつでも、春を優先させてくれるというのに。

「すみません。また迷惑かけたみたいで・・・」

ベッド横の二宮を見上げながら、春が言う。

「いや。元はと言えば、俺が原因だからな」

二宮はそう言うと、ベッドの端に腰掛けた。

「風邪が移ったら俺に看病させろと、言っただろう?」

ギシ、とベッドを軋ませて、二宮が身を乗り出し春の頬に触れた・・・ 途端に。
先日、そう言われた状況を鮮明に思い出した春の頬が真っ赤に染まる。
そういえばそれは、このベッドの上で。今とは逆で、風邪を引いた二宮がベッドに起き上がっていて、自分はそんな二宮がいるこのベッドに乗り上げていてーーー

「また顔が熱くなってきたな? 熱出てきたか?」

そう言った二宮が、すりっ・・・ と春の頬を擦る。

「ちちち、違います! まだ熱は下がりきってないかもだけど、今のこれは風邪のせいじゃないですから!」
「そうか?」

二宮の声音にはどこか、楽しそうな雰囲気が隠れているように思えた。
しまった、今のは風邪のせいにしておけばよかった、と春が気付いても遅かった。

「少しは楽になったのなら、食えるか?」

二宮がそう言って、持ってきたトレーを差し出す。

「あ、これ・・・」

トレーに乗せられたガラスの器。
その中に入っていたのは。

「すりおろしりんご?」
「喉も渇いただろう。それなら、多少熱があってだるくても、さっぱりと食えるからな」
「はい。いただきます」

春はそう言って、添えられていたスプーンを手に取り、すりおろしりんごをかき混ぜる。

「春」

その時、二宮が呼ぶ声が聞こえて顔を上げた。

「食わせてやろうか。それ」

二宮がそう言って、スプーンを春の手から取る。

「お前も粥、食わせてくれようとしてくれたからな」

あ、あれはその、二宮さん風邪で弱ってたし、だいたい二宮さんが食べさせろ、っていうから・・・ というか、言い出したくせに結局、違うことするし・・・。
春が赤くなりながら、そうぶつぶつ呟いているうちに。
二宮がすりおろしりんごをひと匙、掬う。
それを春の口元に持ってくるのかと思いきや。自分の口に含んだ。
再び、二宮の手が春の頬に触れる。
それに春が気が付いた時は、もうすぐそこに二宮の顔が迫っていた。

「・・・っ」

あ、と思った時には、唇を塞がれていて。
角度を変えてきた口付けに、開かされた唇から流れ込んでくるのはすりおろしりんご。
上を向かされれば、こくり、と喉はそれを飲み込んで。

「んっ、ふ」


自分の口内からりんごがなくなり、春の口内からもりんごがなくなったのを確認すると、二宮はようやく、春の唇を解放した。

「っは・・・」

春が息をつく間にも、二宮が次の一口を掬おうとしていて。

「っ、もういいですっ、後は自分で食べますっ」

春はそう言うと、自分の手にスプーンを取り返し、食べ始める。
まだ胸がどきどきする。自分は風邪を引いているのに、病人だというのに。
あんな食べさせられ方をしていたら、何時になったら食べ終わるかわからないし、一口食べる毎にあんな口付けがついてきたら、最後まで身が持つ気がしない。

「だいたいあんな食べさせ方・・・ 風邪が戻ってきても知りませんよ」
「そしたらまた、春が看病してくれるんだろう?」
「っ、知りません!」

そうは言っても、実際にまた二宮が倒れたりしたら、春はまた駆けつけて、看病してくれるのだろう。
ふ、と二宮が微笑む。

「食ったら着替えろ。今夜は泊まっていけ」

風邪を引いたら寂しくなる、と。
一般論だと言っていたが、あれはたぶん、むしろ春がそうなんだろう。
そんな可愛いことを言う恋人が寂しくないように。
今夜は隣で一緒に眠ろうと、二宮は思った。


End

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