(※百合注意/甘くないです) 特別に女の子特有の甘い香りを察知出来るほどに私の鼻は良くなかったし、そもそも私は私自身が女という生き物だった。そう、たとえ「うざい」だとか「くそ」だとか汚い言葉を使ってしまっていてもちゃんと女の子。 クラスメートの山本にみんなが憧れてるときは、ミーハーに教室の影から眺めてかっこいいと言っていた。恋だって並みにはしてきたし男の子を好きになったこともあった。 だからこの知っている感情が身体中に渡ったとき、どくんと心臓が大きく跳ねたとき、私は自分の心臓の方を疑った。 名前ちゃん、どうかした? 不思議そうな顔をして覗きこむ京子に驚いて、ぼんやりと考え事をしていた私の意識がすぐさまこちらへと戻ってくる。いけない、いけない。 空欄だらけの学級日誌に急いで文字を書き込むと、急がなくてもいいのにと笑われた。そんな反応をされてしまっては逆に落ち着かないよ。乱れた字なんて気にせずただ学級日誌を書くことだけに集中しようと気を向けてみたがもちろんそんなことは出来なかった。 すん、息を吸い込むたびにほんのり香るかおり。 確かに香水でもシャンプーでもないふんわりとしたいい香りのする女の子にはたくさん会ってきたけれど京子だけは他のどんな子とも違っていた。少なくとも私は違うな、と感じていた。 集中できるわけがない。 顔をあげれば忘れられない貴女の笑顔、顔をあげなくても一緒にいるだけで私は京子でいっぱいだなんて。 この気持ちはきっといつか溢れて止まらなくなる。砂のお城が波でどんどん削られていくみたいに、最後の砦は今にも崩れ落ちてしまいそうなのだ。 もし、もしも崩れてしまったら私はどうなってしまうのだろう。想像するだけで恐ろしい。 「あっそういえば」 『ん、どうかした?』 「あのね、明日お兄ちゃんの誕生日プレゼント買いにいかなきゃいけないの。それで名前についてきてもらいたくて…。ついてきてもらってもいいかな?」 『うん、もちろん』 「よかった、ギリギリに言っちゃってごめんね。なにがいいかなぁ…」 『きっと了平さんは京子から貰ったものならなんでも喜ぶと思うよ』 だめだ、絶対口にしちゃいけない、口に出来ないはずなのに。 『…好きな……の』 「え?」 『好きなお店があるの、この前歩いていたら見つけて…多分京子も気に入ると思うから…』 「えっ本当!わぁじゃあそのお店連れていって欲しいな。そうだ!じゃあついてきてもらうお礼にこの前ハルちゃんと見つけたケーキバイキングのお店に連れてくね」 ちくり。 意識し始めたらもう止まらないじゃない。 やめてやめてやめて、お願いだからこれ以上私の中に入ってこないで。 お願いだからこの気持ちを忘れさせて。 『うん、じゃあお腹すかせていかなくちゃ。京子の食べる量に合わせるの大変なんだもん』 「あ……」 『ん、どうかしたの?』 「さっきから難しい顔してたから……名前がやっと、少しだけど笑ったなって思って」 もう少しこのままで 確信犯なんじゃないって、あなたを疑ってしまいそうだよ。 求める言葉を、欲しい言葉を、普通に友達でいれば聞き逃してしまうような言葉も今の私にはその日中舞い上がってしまいそうなくらい嬉しいって。京子は本当は知っていて言ってるのではないか。 貴女のことでいっぱいな私は、貴女の瞳にいったいどこまで映っているのでしょう。 [END] ←戻る |