「繋がるとかひとつになるとか」 ふいに言葉を発し始めた名前に目を向けるとそれはオレに対して言っているわけではないと分かる。垂れた髪の細い一束を片手でくるくると葬る彼女…いつものことだ、名前は唐突に自分に言い聞かせるように話始める。同意や反応を求めるでもなく……求めてはいないのに、例えるならばそう、彼女の属性である霧がいつの間に辺りに立ち込め相手を囚えるように思わず耳を傾けたくなってしまう。白い靄の中、外界から遮断され孤立した自分が幻想のセカイへ連れていかれるように、その艶やかな唇から洩れる囁きは耳に、脳に心臓に絡み付いて、それがなんとも心地がよい。 「そんなんじゃ足りないのよ、本当にひとつになりたいなら相手の骨の髄まで食べちゃわないと」 酷いことをいう、プリンスザリッパーなんて呼ばれたオレでさえ苦笑せざるを得ない。 心地よくとも内容に関してはもはや意味が分からないのである。 "愛故の行為なのです、愛するが為に貴方を…食べてしまいました。" 芝居口調でぽつりと溢す。 裁判台に立たされた女は彼女の犯した罪にただ許しを乞うように潤んだ瞳で男たちを魅了し判決を惑わす。 こんな説明でも入れればいいだろうか?いつまでたっても横にいるこの女の言うことは理解しかねる。跳ねた前髪の間から名前を盗み見ると、虚空を見つめた名前は小さく何かの歌を口ずさんだ。 「愛しているからなんでもできるだなんてそんなの思い違いもいいところだわ」 見てよこの手、半日たった今も震えているわ。 本当だ、本人の望まないまま震え続ける名前の両手。青白い手に乾いた血がこびりつきとてもじゃないけれど綺麗だとは言いがたかった。 そっと包みこもうと手を伸ばすも掴む前に仕舞われてしまう。返り血を嫌う名前はいつも飛び散らないようにそっと優雅に人を殺めるのに、よく見ると脱ぎ捨てられたブーツの先も赤黒く汚れていた。 「ねぇ、ベル。それでも私は彼が好きだったのよ、本当の本当に」 寂しく笑う名前の肩も小刻みに震えていて小動物のようだと思った。簡単には射止まらない小動物。 頬に一筋の跡を作った名前。ゆっくりとオレの方に手を伸ばし隊服を引きちぎってしまうのではと思うくらいしっかりと握ると光失った瞳が前髪で隠れているはずのオレの目を捕らえる。 「ヴァリアー……なんて、暗殺者になんてなるんじゃなかった」 掠れた声が耳から離れなかった。 彼女はオレにはない感情を持っていた。 その感情を完全に捨てて行った任務は無事成功、代わりに彼女の心は一気に崩れ落ちその後使い物にならなくなった。 この時新たにオレの中に彼女の持っていたのと同じ"感情"が生まれていたなんてその時のオレは気づいていなかった。 だからオレはそのまま壊れた彼女の隣でただひたすら時を過ごし、その距離を近づけていった。 彼女と同じ過ちを犯すなど知る由もなかったのだ。 砂時計がまた時を刻む [END] 任務で味方を、彼氏を殺さざるを得ない状況にあった主人公。結局任務を優先して始末してしまった、という設定。 なんで書いたかというとヴァリアーは暗殺部隊なんだよっていうのを自分の中で再確認するため、ヴァリアーお茶らけ集団だけどたまにはこういうのもね! ←戻る |