短編 2012〜 | ナノ
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「お前とろすぎ」
『……すいません』

ったく、とベルが大きくため息をつく。お決まりとなりつつある任務終わりの第一声。私はただ小さくなって謝ることしかできない。

「あんなんナイフで心臓一刺し、ンで終わりだろ」
『おっしゃるとおりです』
「せっかく手早く終わらせるためにワイヤーで誘い込んだのによ」
『久しぶりに拝見させていただきましたナイフ捌き、相変わらずあっぱれでした』
「んなこといってんじゃねーよ」

見た目の白さに比べていくらか骨ばった手でコツンとおでこを叩かれる。なんか今いい音した。紅くなった鼻をずっとすすりながら追いかけるようにしてベルのあとに続く。
任務からアジトへの帰路はなんとなく苦手だ。帰り道なのもあり相手がおしゃべりじゃない限り話が弾むことがないから。口を動かせない代わりにその日の反省タイムが始まる。先輩が暗殺のプロ、それどころかベテランだから任務で足を引っ張るのは申し訳ないを通り越して肩身が狭い。
同い年のベルも私から見れば大先輩だ。

「つーか匣兵器がカメとかぴったりすぎんだろ」
『わっ笑わないでよ。確かに普段はのんびりしてるけど甲羅に入ってくるくる相手に連続で衝撃与えられるし強いよ!』
「はいはい」
『それにキャバッローネのディーノさんだってエンツ……っいだ』

急に立ち止まったベルにぶつかり鼻が背中に激突する。エンツィオなんて言葉を発しようとしてた私はもちろん舌も噛んだ。
ふわっと香水と一緒に隊服についた柔軟剤の香りでいっぱいになる。慌てて離れたらとろい私は(否定はしない)決められたことであったようにしっかりと雪で滑った。激しい音と共にお尻を打ち付ける。コントみたいだ、恥ずかしい。

「……何やってンだよ」
『だってベルがいきなり立ち止まるから』

口をへの字にして私を見下ろすベルはいつもみたいにバカにしてこない。放っておくわけでもなく、ただ呆れた様子で私をじっと見ていた。相手の瞳は見えないのに前髪越しに目が合っているなんて変なの。

『ベル、そんなに見られても困るんだけど…』
「なぁ、早く立たねぇとケツしみねぇ?」
『っあああ゙っ』

ばっと立ち上がると今度は勢いで前のめりになる。あぁもうバカ。雪に足をとられ、体はそのまま立て直ること無く、私はこちらを向いていたベルに激突した。ちょうど頭がお腹のど真ん中にヒットしてベルがグッと声を漏らす。


「…っ…て…めぇ…」
『ひぃ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい』

その間も私の体重を支えてくれていたベルから離れようと頭を引くもなにかがそれを許さない。

『あ…っぅ、なっなんで…』
「髪引っ掛かってんだけど」
『えぇっそんな、すぐ外すからちょっとたんま、ごめんなさ……』
「お前さ……死にたいワケ?」



****

「あらベルちゃん、寒くないの?」
「寒くねぇ」
「もう!これだから反抗期の男の子は。名前ちゃんもおかえりなさい、寒かったんじゃない?温かいココアでも……あら、それ」

ふとルッスーリアが私の着ているコートを指す。行きに着ていた物とは別、髪の引っ掛かったベルのコートだ。


ぶつかった拍子に複雑に絡まった髪はかじかんだ指じゃどうしてもほどけず、仕方なく腰につけていたナイフに手を伸ばしたらベルに怒られた。

「お前、女の癖に簡単に髪切ったりすんなよな」

まさかベルにそんなことを言われると思っていなかった私は呆然とベルを見上げる。だってそれより前にベルは本気で怒っていたと思ったから。次から次へと続く私の迷惑な行動に呆れて坊主にしろって言われると思った。
あまりの驚きに次に行動が移せない私とは正反対にベルがてきぱきと自分のコートを脱ぐ。

「お前のと交換しろよ。アジトついてからゆっくり外せばいーだろ」
『でも私のコートじゃベル…』
「いいからお前は黙ってとっとと脱げよ」
『ちょっやだ!やめてよ…』

セクハラ!という言葉はさすがに失礼を感じて慌てて飲み込んだ。
しかし私の思った通り、いくら細いベルでもレディースサイズのコートは腕を通すのが限界で肩が絞まっている。腕に至っては長さの足りなさが逆に寒そうだ。

『ねぇ、やっぱり髪切るから。もともと私が悪いんだし』
「いいから着てろよ」

半ばやけになったベルがそう言い捨ててすたすたと雪道を歩いていってしまい結局帰り、ベルは長袖一枚でアジトに帰ってきた。



「やだ、もしかして名前ちゃん、ベルちゃんと何かあったのね?」
『なにかっていうか、私がとろくてベルに迷惑かけちゃって』
「ベルちゃんが人に優しいのなんてレア中のレアよ!やっぱり私の睨んでいた通りだったのね〜」
『いや、だからルッス……あのね』
「話はたーっぷり、聞かせてもらうからね」

ハイテンションなルッスーリアの切り返しにぞぞっと寒気が走る。きっとこの話題を肴にお茶を何杯も飲むことになるのだろう。
引きつるほっぺたを無理矢理戻しながら先に奥へ歩いていくベルに助けを求める。が、返ってきたのはまさに火に油、ルッスーリアを喜ばせるただ一言。

「まっ王子、気に入った奴しか優しくしてやんねーのは事実だし?」
『げっちょっと待ってよベル。そんな燃料投下して…ねぇ違うの、聞いて…ねぇってば……』


ブリリアン、お前もか


[END]

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