「奥村くんや杜山さんは優しいんやね」 「んん?」 「ほら一時期有名にならはったやろ、とてもじゃないけど俺には真似できませんわ」
若先生、杜山さん、そして奥村くん。 以前その3人で行われた幽霊列車の討伐任務で、2人が悪魔を祓い、そして霊を助け成仏させたらしい。あの後危険なことはするなと軽く、しかし厳しい注意を受けたと聞いたがそれは評価されるべき行動だった。
「人を助けなければただの悪魔を狩る悪魔になってしまう」
その噂は瞬く間に広がっていった。しかし当の本人等は素知らぬ素振りをするのである。 奥村くんがサタンの子であると知った今、このことを思い出す者はいるのだろうか。思い出しても尚サタンの子と呼び続け、敬遠し続けるのだろうか?
「俺は幸せもんやな」 「なんでだ?」 「だって奥村くんの優しさに気づけた」
俺だってもしあの日、一緒にお弁当を食べていなかったらメンド臭いまま、周りの人々と同じように奥村くんと関わらないようにしていただろう。断言できる。どのパラレルワールドを探したって、今自分と奥村くんがこうして一緒に過ごしている世界はない。 今の自分に奥村くんがいなかったら……時折ぼんやりと考えるが自分の頭ではそんなことを仮定することもできなかった。ただ1つ分かるのは、彼がいなかったら自分は生きていけないかもしれないこと。
「集まってくるんや」
深い暗闇の中、誰にも知られず悪魔によって殺された霊達は彷徨い、居心地のいい自分の居場所を探しぼんやりと輝く光の方へと向かって行く。 自分に寄れば実体のないその魂ごと、成仏もできず祓われるというのに。
「集まって……くるんや。でも任務だから祓うしかない。2人みたいにこの人たちを成仏させてあげる余裕なんてそないもんあらしまへん」 「……あぁ」 「でも祓った後……なんやけったいな気持ちになる」 「……」 「仕方ないのに…」
"怖い"、そんな言葉を飲み込んで代わりに"メンド臭がりはあかんな〜"と笑ってみせた。 表面上の笑いは得意だ。仮面はたくさん持っている。ただ、その固い仮面をも破壊してしまうのが奥村くんなんだって俺はいつも忘れてしまう。
「面倒臭いを理由にすんな」 「いやいや、別に言い訳してるわけじゃ……」 「俺は志摩のことを知ってるからいいけど、知らない奴が聞いたら志摩のこと勘違いしちまうだろ。俺、みんなに志摩のこと勘違いしてほしくない……志摩は、優しいやつだから」
最後の言葉までは聞き取れなかったけど、顔をあげた奥村くんはにかっと俺に向かって笑ってみせた。
「きっと霊達は志摩のピンク頭に集まってきたんだろうな!」 「は?」 「ほら、だって俺も志摩のこと探す時一番にそれ目印にするしよ」 「さいですか、そんなら俺のピンク頭も役に立ってるっちゅーことやんな」 「まぁカッコ良くねぇけど」 「んなっ」
カッコ良くないカッコ良くないって奥村くんはわりと素直に酷いこという。 少し頬を膨らませてみた後、なんだか悔しくて奥村くんの隣にぴったりくっついた。少年から青年へ、成長途中の方にそっと頭をのせると奥村くんの手が自分の肩に回った。なんや男前やん……って俺が女々しいんや。 漂う霊、彷徨う霊。 親に言われてきた通り、坊の側で坊を守り続けていく人生に青い炎がちらついた。別につまらなかったわけじゃない。それなりに楽しく幸せに生きてきたと思う。坊も子猫さんも一緒にいて楽しかった。ただ2人と自分は大きく違っていた。そんな俺を奥村くんが捕まえてくれた。いや勝手に自分から捕まったのだ。まるで自分に集まってくる霊のように。
離してくれ、俺は自由な男や。 いや、やっぱり離さないで。
鍵の開かれたままの鳥籠の中に居続けているのは他の誰でもなく自分だ。奥村くんの青から目が離せなかった。その澄みきった青に魅せられた。いつまでもふわふわとおちゃらけている俺とは正反対、燐としたその青が好きだった。
「でも俺志摩のその髪、好きだ」 「……っ」 「どっどうかしたのか?」 「いや……奥村くんの素直さにやられましたわぁ、1000ダメージや」 「うお…っ志摩大丈夫か?」
大丈夫やない、大丈夫なわけがない。 同じことを考えていたなんて。それにこのピンク頭が好きだなんて。どんな顔して答えればいいんだろう。必死になって探したけどそれに似合う表情は見つけることができず、ただアホみたいに口をぽかんと開けたあと堪えきれずお腹を抱えて押し殺すように一人で笑った。
「俺素直かぁ?」 「おん、真っ白すぎて眩しい」
"俺も燐くんのその炎が好き"
そう言えなかったのはきっと燐くんの顔が言った通り本当に眩しかったから。 それから俺がこっ恥ずかしくて顔を隠してしまったから。 奥村くんには全く敵いません。 俺は寄りかけていた頭の重みを全て奥村くんに預けた。
[END]
京都弁…分かりません! 違うよとかおかしいよとか教えていただけたら幸いです。 |