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『ゆうちゃんゆうちゃん!』

淡い水色のブレザーとは少し不釣り合いなピンクのチェックのマフラーをした名前が僕らの前にやって来る。どこから走ってきたんだか、息を切らした名前は目の前で立ち止まったかと思うと膝に手を置いて大きく呼吸し直した。

『先生が…っよん…る』
「ちょっと落ち着きなよ名前」
『うんっ…えっとね、東先生が悠太にちょっと用事あるからって呼んできてって…』
「あぁ、うん」

廊下の窓からオレたちの居場所を見つけたらしい。やっと顔をあげた名前はにこっとオレたちに笑いかける。
そこでそのまま悠太が立ち上がって東先生のところへ行けばよかった。なのに悠太はいっこうに立ち上がろうとせず済ました顔をしているのだ。さすがに疑問に思ったらしい名前がきょとんとした顔をする。

『えっと…すぐきてって…』
「「うん」」
『え…え?』

あまりにも息ぴったりに返事をしたせいか名前の頭に「?」がつく。だって双子ですもん。いつだって息はぴったりです。なんてことは置いておいて、さすがにおかしいと気づいたのか俺たちを交互に見る。でもそれはオレたちがおかしいからだけじゃない、本来ならそれでも悠太を引っ張ってつれていけばいい。名前は本当に困っているんだ。

名前はオレたちの顔を見分けられてない。

「名前って僕らのこと見分けられてないよねー」
『え…みっ見分けれらるる!』
「噛んでる」
『ゔ……』

名前ってどっちが悠太でどっちが祐希かわかってないよね。じゃあ次に会ったときにテストしてみよっか。
つい今さっきの会話が頭の中で流れる。実際に聞いてみればまさか本当にだなんて。

「ショックだなー、もう半年以上の付き合いになるのに」
「千鶴なんて小さい頃の記憶で見分けられちゃうのに…」
「もしかして名前って千鶴よりバ『わっ分かるもん!だってふたりは…そう前髪とか…あれ?』
「「残ー念」」

さすがに千鶴と比べられちゃプライドが許さないと思った名前はなぜか左手で拳を握りながら思いきって顔をあげる。
でも残念、オレたちだってちゃんと先手を打ってます。祐希が前髪を真ん中分けにすれば見た目は全く同じだ。そこからなにかヒントを見つけられないかとじっと顔を見比べるがなにも情報を得られなかったらしく大きくため息をつく。

「だからどっちでも可能な"ゆうちゃん"って呼び方するの?」
『ちっ違うよ…うん。違うに決まってるよね』
「「(…そうなのか)」」
「そんな名前に大ヒント、お兄ちゃんが悠太で弟が祐希です」
『お兄ちゃんが…悠太、』

うーんと考え込む名前。さっきからいちいち真面目に考えてくれて嬉しいんだけどそんなに悩むこといってないよね…?
するとはっと目を輝かせた。

『ずばり右側が悠太ですね!』
「根拠を答えなさい」
『右側が…お兄ちゃんだから…』
「そんなマンガみたいにいつも決まって並んでるわけじゃないけど」
『です……よねー』

始めこそは驚きつつも楽しそうに答えていた名前の顔がみるみるうちに半泣きになっていく。眉をハの字にさせ、唇をきゅっと噛むのは分かりやすい癖だ。

『…分かんない…』
「名前、ごめんもういいから。ほら寒いから中入ろう」
『わかん……なくて、ごめん』
「大丈夫…オレもいじわる言ってごめん、ね」

男女の身長差の分、自分より首ひとつ以上小さい名前の頭にそっと触れて撫でる。

「飴あげようか?」
『…ちょっと』
「ちょっとってお嬢さん……」

無言で名前のほっぺを両手で包み込んで顔をあげさせると思った通り目には涙がたまっている。黙って袖でふく。こんなことで泣くことないのに…もとはといえばオレたちがからかってたんだから泣かせたのもオレたちだ。

見分けがつかなくったって仕方がないよ。見た目も声も全く同じ、こんなにそっくりな双子なんだから。
ただ名前には見分けててもらえてるといいねって…そんな思いまで一緒なくらい俺たちはそっくりの双子なんだから。

『祐希…』
「えっ」

ほんの数センチの距離で突然名前が顔を輝かせたため驚いてぱっと手を離す。あまりの距離の近さで目も合わせられないし…行き場のなくなった手を浮かせたまま視線をうようよ泳がせているとまた「祐希」と呼ばれる。
普段はゆうちゃんだから慣れなくてなんだかむず痒い。

『それから頭撫でてくれたのが悠太、ねぇそうでしょ?』
「う…うん」
『ほら当たり!顔では分かんないけどちゃんと分かるよ』

えへへ、とはにかむとくるっと向きを変えて校舎の方へかけていってしまう。さっきまでの涙目はどこへいってしまったんだか…。
ふぅっと軽く息をつくと隣にいる自分のクローンも同じような顔をして笑っていた。

「名前はオレが涙を拭いてあげて気づいたんだよ」
「いえいえ、オレが頭撫でたからでしょ」
「負け惜しみは見苦しいよ悠太」
「……」


『ゆうちゃん、ほら早くしないと東先生待ってるよ?』
「ねぇ名前」
『ん、なに?』
「どっちが悠太でしょう」
『ーーっなんでまたやるの!』


鏡の国のプリンセス
(そういう意地悪やめなよ悠太…あれ祐希だっけ?)
(あ゙あああああ゙あ゙っ!)


[END]