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- ナノ -

『なによテオなんて!』
「待て、落ち着け名前」

いっつもいっつも姫様姫様って。私と付き合い始めてからもうかなり経つっていうのに、未練たらったらじゃない。
持っていたサンドイッチを横に置き、ニコニコと私をなだめようとするテオを見ていると余計に腹が立つ。そうやって私に笑いかけていれば事が収まると思って。

『テオの頭の中には姫様しかいないじゃない!』

もうこのセリフを何度テオに投げかけただろう。

「俺は姫様に……イナコに仕える騎士なんだ。姫様のことを気にして当たり前だろう」
『度が過ぎてる』

そしてもう何度、この答えを聞いたことだろう。“姫様しかない”という皮肉に否定さえしてくれない。

折角テオのお休みを使って街はずれまでピクニックをしに来たというのに気分が台無しだった。ぽかぽかと暖かかった太陽の日差しは、今では暑くてうんざりするし、雲ひとつない真っ青な空は私の今の気分には全くそぐわない。朝早く起きて作ったサンドイッチもマフィンも、テオに憤りを覚えるうちにどんどん味を感じなくなっていた。
私こそ、いっそテオのことなんて忘れて別の男と付き合えればこんな思いはしなくて済むのだと何度も考えた。それでもテオが好きで、少しでもこちらを向いてくれたテオを離したくないと思う。それに、きっとテオも未だに姫様のことが好きで姫様への想いを断ち切れないから無意識に態度に表れてしまうのだろうと思うと痛いほどテオに共感してしまい、そう簡単にテオのことも責められなくなる。

『イナコの騎士をしてるテオがいやだ』
「お前なぁ……はぁ。どうしても名前は納得してくれないんだな」
『だって、テオ姫様のことばっかり』
「だからそれは……」

俯く私を覗き込むテオはすっかり困ってしまった様子だ。いつもと同じ、私達のやり取りは堂々巡り。よく飽きもせず続けられると思うし、そろそろ限界地点が近いのではないかと冷静になった時にいつもヒヤヒヤする。それなのに……

『……止まらないの』
「なぁ名前、膝貸して」
『膝?嫌だよ。今私とテオは喧嘩中なんだから……』
「いいから、さっ」

そう言うなり私の太ももを引き寄せ、上に頭を乗せる。ずっしり感じる頭の重みとテオの髪が膝小僧に当たりくすぐったい。してやったりな顔で私を見上げるテオからは幼い頃の面影を感じ、ふっと自分の体から力が抜けていくのを感じた。
テオが指先を伸ばし、マッサージをするように私の眉間にぐりぐりと指を押し付ける。

「名前の足、ちょうどいいんだよな」
『ナチュラルに足太いって言うのやめてくれないかな』
「それにこうすると、名前の顔が近い」

胸のあたりまで垂れた髪をテオがくいっと引っ張り、私はされるがままに顔を近づけ短く口づけをする。
一度離すともう一度、離れるとさらにもう一度。何度も啄むようなキスを重ね、鼻先がくっつきそうな位置で名残惜しそうに見つめ合うと私の頭はもうテオでいっぱいだ。

『キスなんかで誤魔化そうとしたって無駄だからね』
「なんか、なんて言うなよ。それより空が青くてきれいだから見てみろよ。やっぱりイナコはいいよなぁ」
『誰が一番良い位置から見せてあげてると思ってるのよ。それに』
「ん?」
『かっこつけてるけどテオのほっぺは真っ赤』
「ううううるさい!」

さっきまでの余裕っぷりは何処やら。慌てたテオは今更大きな手と腕で自分の顔を隠そうとする。
そんなテオを見ながら、私がもっと可愛くてモテモテだったらテオにもこの気持ち分かってもらえるかもしれないのになぁ、と呟く。こうして余裕がないことはお互い様なのに、私ばかり子供みたいに膨れっ面をしているのはバカみたいだ。私の気持ちも知らずに苦笑するテオが憎らしくってわざとそっぽを向いた。

『テオが私のことだけを愛してくれるまで、許してあげないんだから』
「愛してるよ、名前以外見えない」
『……テオってそういうことさらっと言うキャラじゃないじゃん』
「そうでもしないと名前が不安がるだろ。な?」

耳は真っ赤だし、手だって震えてる。でも我儘で面倒臭い私にしっかりと応えてくれるテオに免じて、今回は指摘しないでいよう。ねぇ、こんな形でしか君の愛を確かめられない私をどうか許して。
私だって、テオが私だけに向ける視線があることに気づいてないわけじゃない。


[END]

ダメプリンセス