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「#エロ」のBL小説を読む
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「バカじゃないですか!」
「バカじゃねぇ」

ふっと首元に息を吹き掛けられ思わず背筋をぴっと伸ばす。最後に木佐さんが出ていってから高野さんと二人きりになるなんて、できれば避けたいシチュエーション。案の定しんとしたエメ編をこつこつと一人の靴の音が響き、あげたくない顔をあげると高野さんが覗きこんでいた。
冗談じゃない…本当に。

「これじゃ捗るものも捗らないと思うんですけど」
「書類の書き方教えてほしいんじゃねぇのかよ、これはその報酬だ」
「報酬って、セクハラじゃないですか」
「もっと深く腰かけろよ。そうしたら楽だろ」
「遠慮します」

教えてやるかわりに、とぐいっと腕を引かれたかと思ったらそのまま膝に座らせられて早10分。全く落ち着かずもちろん仕事は進んでいない。前は机、後ろは高野さんだから逃げようにも逃げる場所はなく仕方がなく端の方にちょこんと座っている。

「(なんでなんだかんだ座ったままなんだよオレ…)」
「で、お前はどこまで書いたわけ」
「あ…えっと…」
「ふーん…「近い、です!」

この人の普段の椅子の座り方が偉そうに後ろにのけぞった形だからまだよかったと思ったのに…書類を覗くため体を起こして肩に顎を乗せられる。正直書類どころじゃない…もう嫌だこのセクハラ編集長。とっとと終わらせて帰りたい。

「大体膝疲れないんですか?オレ女の子みたいに華奢じゃないしやわらかくもないし…」
「気にしてくれてんだ」
「なっ別に気にしたとかそういうんじゃなくて…ただなんとなく…いちいち人の揚げ足取らないでくださいよ!」
「お前は十分華奢だろ」

"変わってない"

耳元で囁かれ顔に熱が集まる。ニットの袖をめくり骨ばった手が腕を滑る。自分でも筋肉質だとは思っていないが高野さんに華奢だと言われると無償にイラっとするのはなぜだろう。
すーっと血管に沿って撫でられたり、手のマッサージをされたと思ったら今度は爪をいじってみたり。どうすればいいんだよこの状況!

「……っにするんです、か」
「なんとなく」
「なんとなくってなんですか、離してください!誰かが来たらどうするんですか…っ」
「お前だってさっきなんとなくって言ってただろ」
「それとこれとは…」

腰に腕を回され姿勢が倒れて高野さんに寄りかかる形になる。つまり後ろから抱き締められている状態で、暴れようにも手足しか動かない。

「…暴れねぇんだ」
「無駄だと悟ったんです」
「本当はこのままでいたいんじゃねぇの?」
「断じて違います!」
「んな否定しなくたっていいだろ」
「……」

このまま書類に手もつかず、だからといって逃げることも許されない…

"そのままリラックスしてオレに身体を任せればいい"

声に出されてるわけじゃないのにそういわれたような気がした。連日の寝不足、疲れ、背中から伝わる高野さんの体温のせいか瞼が下がっていきそうだ。


「…おい小野寺…」
「………」
「小野寺」
「…ぅ……」
「律!」
「へっはいっ!…ん…っ、ふ」
感じたのは最近よく感じる強引に、それなのに大切そうにそっと押し付けられたのはどこか懐かしいような唇。はっと目を開けるとレンズ越しに高野さんの目が、その中にはアホみたいに驚いた顔をしている自分がいた。

「ななななななっなにするんですか!」
「てめぇが仕事ほっ放って寝るからだ」
「起こしかたってもんがあるでしょう!」
「あ?」
「(…それにもともとは高野さんが抱き締めて…)」
「いい目覚めだっただろう?」
「編集長だからってちっ調子に乗らないでください」

ニヒルな笑みを浮かべる高野さんを前に頬がひきつる。ここから降ろしてもくれなさそうだ。
ここから1時間、いつの間にか手から滑り落ちていたペンを持ち直したオレは後ろからの高野さんのちょっかいと皮肉毒舌を浴びながら必死に書類を書くことになった。


[END]