『ねぇ、音也。もしも1年後に地球が無くなるとしたらどうする?』 「なにそれ。SF?今読んでる本?」
台本に目を通していた音也が不思議そうに顔を上げる。 確か内容は家出少年が一人暮らしOLの家にあげてもらう、なんて、話の展開によっては大人向けにもできそうな設定なんだっけ。お昼間にテレビを見ているような奥様方からも強く支持を受けている音也だからこそ、きっとこういう役はハマり役なんだろう。
音也の一番近くにいたい彼女の身から言わせてもらうと心配がないわけではない。あぁ、でももし1年後に本当に地球が無くなるのなら、こんな悩みってびっくりするくらいちっぽけだな。
「名前って突然変なこと言うよね」 『そうかな』 「うん。でも、もし1年後に地球が無くなるとしたらトップアイドルになるのもゆっくりしていられないよなぁ。まだまだやってみたいこともたくさんあるし」
別に何か期待していたわけではなかったけど、やっぱり音也の口から一番に出てきたのはアイドルのお仕事のことだった。
「名前は、どうするの?」 『どうしよっかねぇ』「えぇ〜?」
私は特に音也のような大きな夢は持っていなかったし、大きな展望より目の前の小さな壁を一心に乗り越えていくだけで必死な毎日だから。そもそも1年後に何をしているのかさえ想像できない。
「あ、でもさ。地球が無くなったら人間はどうなっちゃうのかな?」 『そりゃ死んじゃうでしょう』 「死んじゃうのかぁ……」
きっと地球が消えちゃうくらいなんだから、私なんて木っ端微塵で生きていたことも嘘のように消し去られちゃうんだろうな。
「でもさ、一緒に死ぬんなら来世も名前と一緒に生まれてこれそうだよね!」 『地球が無くなるのにどこに生まれてくるのよ』 「侵略してきた宇宙人として生まれちゃったりして」 『え、隕石で無くなるんじゃないの?地球』 「あ、そうなの?俺てっきり宇宙人にでっかいレーザー光線で破壊されるのかと思ってた」
きょとんとお互い見つめあって、思わず笑いが込み上げる。何を一生懸命考えていたんだろう。
『私、音也とは一生こんな感じで暮らしていたいな』 「宇宙人の話をしながら?」 『うん』 「やっぱり名前って変なの」
散々、変だ変だと言われて唇を尖らせると音也がちゅっと吸い付く。 どうして音也ってこう油断ならないんだろう。油断ならないから心配になる。心配になるから音也に問いかける。 音也の中で私って今どれくらいなんだろう、って。
「でも俺、名前のこと離す気ないし。絶対離さないから」 『えーなにそれこわい』 「えぇっなんでだよぉ。今俺、ドラマみたいな決め台詞言ったつもりでちょっと恥ずかしかったのに」
逆に拗ねてしまった音也にたっぷりお返しのキス、ではなくてかわりにぎゅっと手を握ると、音也は拗ねた顔のままもっと強く握り返してくれた。
「名前、好きだよ。大好き」
掠れた声でそう囁いた音也はそのまま私の腰に腕を回し身を倒した。
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