(嶺二と藍がお話するだけの話/ 藍×主)
バラエティのお正月。仕事に追われ怒涛の年末年始を乗り越えたぼくを待っていたのはなんとも寂しい1人きりのオフ。 あちこちで年末年始のセールの名残があり、冬の寒さに負けじと活気付いた街へ散歩に出るのはまだ早い気がする。 しかし残念なことに、こんな時遊び相手になってくれる嶺ちゃんの愉快な仲間達はみんな仕事のスケジュールが入っているらしい。いやいや、ぼくは1/1以外は週6でお仕事してたし?そのご褒美が今日のオフだし? 久々のオフが1人きりだって有意義に過ごせちゃうのが大人ってやつでしょ!
「うーん何しようかなぁ。むむっこれぞ大人の休日!とりあえずマラカスでリズムでもとってみちゃったりなんかしてー」
ピンポーン
「はぁーい!!!どちら様!ナーイスタイミングっぼくちんに何のようだぁい!……ってえええアイアイ?!」
インターホンの画面に映っていたのは紛れもなくあのアイアイだ。口元をマフラーに埋め、視線だけをカメラに寄越したアイアイが“開けて”とだけマイクに吹き込む。
「正直言ってぼくは驚いたね」
だってだって、暇で困っていたぼくの前に突如現れた救世主があのアイアイだよ? 年明け早々ドッキリ大賞の札を見せられてもいいように、ぼくは広げていた雑誌をまとめてマガジンラックに押し込んだ。
「めずらっしー!アイアイ1人?ぼくちんのうちに尋ねてきてくれるのなんて始めてじゃない?」 「うん」 「そっかそっかー、あ、まさかアイアイお年玉もらいに来たな?仕方が無いなぁ、代わりといっちゃなんだけどこの「要らない」 「んもう!まだ何あげるか言ってないでしょ!」
おじゃまします、と一言添え靴を揃えて上がり込む。15歳の男の子にしては出来すぎだ。突然家に訪れてくること以外は。 まぁアイアイの突撃訪問ならいつでも大歓迎なんだけどね!もちろん彼女を連れ込んでる時以外は!ってぼく今彼女いないんだけどねぇ。
「それより突然どうしたのさ!あ、お茶飲む?」 「お茶は大丈夫。突然来たのは悪かったけどボク一応連絡はいれたんだからね」 「えっ、あ、ホントだ。めんごめんご、携帯見てなかったよ」 「はぁ、もしマネージャーから急を要する連絡があったらどうするのさ。連絡手段があるのにそれを確認しないんじゃ意味がないでしょ」 「はぁーい」
ってあれ、なんかお説教モード? アイアイは特にぼくに用事があるわけでもないみたいだしここにきてからずっとぼくの喋り通しだ。そろそろぼくちん自慢のトークも苦しくなってきたぞ?
「あっそーだ!アイアイ最近名前ちゃんとどうなのさ、どこまで進んだのかお兄さんに言ってみなさい!」 「……キスした」 「うんうん、初キスは甘酸っぱいはちみつレモンの味……ってアイアイそんな素直に答えんでも!」
ピュア!ピュアすぎるよアイアイ! ずっとぼんやりとしていたアイアイの目がぼくの瞳を見据える。
「そのことなんだけど、さ」 「名前ちゃんのこと?」 「うん……最近ナマエと会ってないんだ」 「アイアイ……」
どうやらアイアイは名前ちゃんと会えない寂しさを抑えられなくなり困っていた所、ぼくに相談することを決めてはるばるやってきてくれたらしい。 なんでもお互い売れっ子アイドル故、この1ヶ月間オフが1日も被らなかったという。海外ロケ、夜遅くまでのレコーディング……
「ボクは丈夫だからいいんだけどさ、とてもじゃないけどあんなに疲れてるナマエに一目でも会いたいなんて言えないんだ」
自分の切なる気持ちは心に留め、健気に名前ちゃんを気にし応援するアイアイ。 あぁ、15歳ってこんなに真っ白だったっけ。蘇れぼくの15歳の純粋な心よ…!
数ある知り合いの中から僕を選んで相談しに来てくれたことはとても嬉しかった。だからぼくは26歳の汚れ切った大人達の出まかせやはったりを出来るだけ除いてアイアイにアドバイスをした。
もやもやは晴れたのか、来た時よりもすっきりした様子のアイアイの携帯には帰り際、名前ちゃんから連絡があった。しかも名前ちゃんのデートのお誘いのようだ。アイアイはいつになく嬉々とした様子でなんだかぼくまで嬉しくなった。 アイアイを下まで送り届けた後、ドアに寄りかかり息を吐く。うん、こんな休日も悪くない。むしろいつも素っ気ない後輩にいざって時に相談されちゃうなんて気分がいいに決まってる。
あー嬉しいなぁ!嬉しいんだけどなぁ……
「ぼくも可愛い彼女が欲しいよーーーー」
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